第91話 ボディガードは町を案内せよ
カネリア王国での公演が始まって二日目の夜。
ロッソが部屋でくつろいでいるとシャロがやってきた。ベッドに腰かけているロッソの前に来た、シャロは笑顔で彼の顔を覗き込ん来た。
「お兄ちゃん! 明日のお休みにクーリアンを案内して!」
「明日の休み? 公演は一週間毎日あるはずだろ?」
「何を言ってるの!? あっ! お兄ちゃん! さてはちゃんとスケージュールを確認してないでしょ! ダメよ! 護衛のくせに!!!」
「えっ!?」
シャロが頬をプクッと膨らませてロッソを睨む。気まずそうに頭に手を置いてロッソは必死にスケジュールを思い出すのだった。
「えっと…… 確か…… ガーネット王女の誕生会は一週間で毎日劇場では公演を行うはずでは……」
「もう! 明日の午後はセドニアさんが招いた劇団が劇をやるのよ。あたしたちのブルーセイレーンの出番は午前中だけだよ。だからいいでしょ?」
「そうだったけ…… まずいな…… シャロの言う通りだな。護衛のくせに予定をちゃんと確認してなくて悪かったな」
目を細めて冷たい目で、シャロはロッソを見つめるのだった。
「何だよ!? ちょっと確認を誤っただけだろ?」
「ふふ。それで? 案内するの? しないの?」
「わかった。案内してやるよ」
「やったー! じゃあグアルディアちゃんにも言っといて! あたしはリーシャとミリアに言っとくから!」
両手を上げて喜びシャロは足取り軽くロッソの部屋から出ていくのだった。
翌日、公演が終わるとすぐにシャロたちは着替えてクーリアンの町へと繰り出した。
「うん!? 前の旅で何度か訪れてよく知ってる町だけど…… 雰囲気が……」
「そっそうですわね」
ロッソとミリアの二人はクーリアンの町の風景を見て、以前訪れた時との違いに驚くのだった。過去に訪れた時は、石畳みの道と大きな並木道が特徴的で綺麗だった、クーリアンの町は灰色の空に覆われていてなんか不気味だった。
「ふふふ。何をしようっかな」
「お魚を食べるですよ」
うきうきと楽しそうに道を歩くシャロとリーシャだった。ロッソは二人が楽しんでいるのに水を差さないように気を取り直し明るく何がしたいのか尋ねる。
「シャロたちは何がしたいんだ?」
「リーシャはカネリア王国の魚を食べたいです!」
「あたしは衣装に使うかわいいアクセサリーがみたいわ!」
二人が笑顔で答える。リーシャは魚でシャロはかわいいアクセサリーを見たいという希望だった。ロッソとミリアは顔を見合せてうなずく。
「じゃあロッソ。シャロちゃんたちをあそこに案内しましょう」
「そうだな。こっちだ」
「リーシャちゃん楽しみにしててね。カネリア王国にはロックナーっていう美味しいお魚があるのよ」
「ほぇぇぇ! 楽しみです」
両手をあげリーシャが喜ぶ。カネリア王国に生息する、川魚ロックナーはとても美味で評判だった。ロッソたちはクーリアンの中央市場へ向かう。ロッソとミリアが先頭で、シャロとリーシャ並んで最後にグアルディアが続く。
「この道はなつかしいですね。ロッソ」
「はは…… そうですね。よくキースに二人で薬草を買いに行かされましたね……」
「本当に…… あの人は…… でもわたくしロッソと一緒で…… 嬉しかったですわ」
「えっ!? ミリア……」
ミリアがそっとロッソの手を握る。手を握られたロッソは驚き恥ずかしく顔を赤くする。彼はミリアの方を見て手を握り返すと、彼女は顔を下に向けて耳が赤くなっていく。
「手…… つないだままで良いか? ほっほら迷子になったら困るだろ」
「はっはい。そうですね」
わざとらしく尋ねるロッソ、ミリアは恥ずかしそうにうなずく。
「ふん……」
嬉しそうに手をつなぐ二人の姿を不満げに睨みつけるシャロだった。
クーリアンの町にある大きな細長く四角い建物がある。ここがクーリアンの町の中央市場だ。
建物は巨大で高さは十メートル、幅は五十メートル以上あり、長さも一キロ近くある。中は馬車が簡単にすれ違える幅の通りが中央を貫き、両脇にところせましと屋台が並んでいる。
室内市場ため雨でも濡れずに買い物ができ、国中から物が集まるので目的の物もすぐに見つかる優れた市場だが、常時たくさんの人が訪れ大変混み合うのが唯一の欠点だった。
「リーシャやシャロが迷子にならないように気を付けないと…… あっあれ!?」
中央市場に入ったロッソが表示が抜けたような声をあげた。
「ひっ人が…… いない!?」
ロッソの目の前に閑散とした市場の光景が広がっていた。客はまばらで活気もない市場を見て呆然とするロッソだった。何度かここを訪れているロッソだったがこんな光景は見たことない。中央市場はいつも人でごった返し、運が悪いと入り口から目的の店まで人ごみで歩けなくなるくらいだった。
「ここに人が少ないなんて珍しいな」
「そうですわね。もしかして誕生会でみんなお買い物しないのかも知れませんね」
「そうかな…… なんか気になるけど……」
ミリアは空いているのが嬉しいのか、にっこりとほほ笑むとロッソと手をつないだまま中へと進む。
ロッソたちは入り口の近くにあったアクセサリー屋に足を止めた。シャロとリーシャが屋台の中の商品に目をかがやかせている。ロッソとミリアはシャロたちから離れたところで商品を見ていた。グアルディアは店の外れで興味なさげに四人を見つめていた。
「これは……」
何か気になる商品があったのか、ロッソの横から商品に手を伸ばすミリアだった。彼女の前に置いてあった、燃えるように真っ赤で細長い流線型にカットされた宝石のイヤリングを手に取った。
「ロッソ! 見てください! これ覚えてます?」
「なつかしい…… 確か炎のイヤリングですよね。この近くにいたキラーサラマンダーを討伐する時に一緒に買いましたよね」
「えぇ! そうですわね…… あの時はわたくし二人はおそろいでしたわね」
「二人というかみんなでつけてましたけどね」
「フフ…… じゃあ…… 今日も買ってわたくしとおそろいに……」
「えっ!?」
ミリアがイヤリングをつける、真似をして恥ずかしそうにロッソに見せて来た。頬を赤くするロッソの尻を誰かが蹴り上げた。
「いた! 誰だ! なっ…… なんだよ!」
「うるさい! お兄ちゃんはさっきからミリアとだけ楽しんでさ! だいたいアクセサリーをみたいって言ったのはあたしよ!?」
「そうです! 旦那しゃん! ブゥです!」
「ほら! まだその辺のアクセサリー見てないからどいて!」
「もう…… わかったよ。ほら!」
不機嫌そうにシャロがロッソとミリアの間に入って商品を見ようとする。ロッソはシャロたちが見やすいように一歩下がる。ミリアとの距離が開く。ミリアはさみしそうにロッソを見つめる。ロッソはその視線に気づかずにリーシャがいたずらしないかに集中するのだった。シャロはなぜか満足そうにうなずくのだった。
「ねぇ!? どうかな? お兄ちゃん? 似合う?」
シャロはミリアが試着をしようとした、炎のイヤリングをつけロッソに見せて来た。
「うん。かわいいよ」
うなずいて笑うロッソだった。綺麗な顔で白い透き通るような肌のシャロに、赤い宝石のイヤリングはよく似合っていた。ただ、彼の中で真っ赤な宝石をミリアつける意外性から、シャロよりミリアの方が似合っていたように見えた。ロッソの視線がシャロからミリアに自然と動く。シャロはムッとした顔をしてロッソに詰め寄る。
「本当に? ちゃんと見てる? 今ミリアの方を見てたでしょ! もう一回ちゃんと見て!」
「みっ見てるよ! こら!? やめろ! 顔が近い……」
「だって! お兄ちゃんがちゃんと見ないからでしょ!」
顔を近づけてシャロが耳につけたイヤリングロッソに見せてくる。近づきすぎた彼女の長い髪から洗髪料のいい匂いがロッソの鼻へと漂ってくる。
結局…… この後シャロが炎のイヤリングを気に入り、なぜかロッソが買うことになった
「はぁ…… すぐに俺にねだるんじゃねえよ。もう……」
アクセサリーを見終わり満足したシャロに続き、リーシャの希望である美味しい魚を求めてさらに中央市場を奥へと進む。通りには武器や防具や雑貨などのいろんな屋台が並び中には飲食店もある。飲食店の屋台には椅子やテーブルを屋台の前に並べている。中でも市場の中央に広場がありそこには円形に並んだ飲食店の屋台が集まっていた。ロッソとミリアがリーシャを連れ行きたい魚料理のその広場にあった。
「確か…… ここらへん…… えっ!?」
「残念お休みみたいですね」
「ブゥです……」
目的の屋台へと来たが、人気がなく休みと札がかかっていた。ただ、偶然の休みというわけでなく、屋台は埃がたまってしばらく営業していない感じだった。
「ロッソ! わたくしもう一軒とっておきの店を知ってますわ! 行きましょう!」
「あぁ。頼んだ!」
「お任せください」
ミリアが力強くロッソに提案する。ロッソたちはミリアの案内で彼女の知ってる屋台へ向かうのだった。
「そういえば…… ミリアはどの町に行っても美味しい料理屋を知ってるような気がするな……」
ふとロッソが記憶を手繰っていく。ミリアはどの町や国に行っても名物やうまい料理店を知っていた。
「早く行くです!」
「こら! 走ったら危ないでしょ! リーシャ! ダメよ」
「そうだよ! シャロの言う通りだよ。屋台にぶつかったら怪我しちゃうよ」
リーシャが期待した顔で走り出しそうに市場の道を進み、手をつなぐシャロと後ろにいるグアルディアに注意されていた。
振り返ってその様子をみてロッソとミリアも自然と笑顔になっていた。だが……
「あらあら? ここもお休みみたいです……」
ミリアに案内された屋台も誰もおらずテーブルも片付けられいた。ここもさっきの店と同じで屋台に埃がたまっており、しばらく営業していない様子だった。
「お魚しゃん……」
二件目も休みでリーシャは気落ちしてしょんぼりとうつむいてしまった。
「あらあら、どうしましょう?」
「しょうがない。誰か近くの人に聞いてみるか」
落ち込むリーシャを心配するミリア、ロッソは市場を歩いていた中年男性に声をかけ、営業している店がないか聞き込むのだった。
「あっあの!? 俺たちロックナーが食べたいんですけどどこかやってるお店って……」
「ロックナー? あんたらいまさら何を言ってるんだ? この辺りの川ではもう半年くらい前から魚は取れないからロックナー料理なんか出すところないよ」
「えぇ!? そっそんな……」
緑色のシャツに黒のズボンを履いた頭髪が薄く目が丸く大きい中年男性は、ややあきれたような口調でロッソたちに魚料理をだす屋台がないことを告げるのだった。




