第86話 勘違い飛竜騎士
テルマがロッソへと近づく。彼の目の前に立ったテルマは、握手をしようと手を差し出した。ロッソは笑って彼女の要求にこたえそっと手を出して握手をするのだった。
「音楽団のみんなを守ってくれてありがとう。良い腕をしてるね。やっぱり勇者キースの元仲間なだけはある」
「まぁな。それなりに場数は踏んでるからな…… うん!?」
互いに笑顔でロッソとテルマが握手をしていると、舞台の上が急に暗くなった何かの巨大な影に覆われたようだ。
「おにいちゃん! あれ!」
「あれは……」
開いていた天井から一頭の飛竜が、すごい勢いでコンサートホールへと入って来た。マーロンが操る飛竜ドラムだった。舞台の上に飛竜は着地し、槍をマーロンが慌てた様子で降りて来た。
「すみません。テルマさん! 部下がワイバーンは仕留めそこなったみたいで…… ワイバーンは?」
「マーロン…… 気にするな。ロッソが追い払ってくれた」
「追い払った!? ロッソが!?」
マーロンはロッソを一瞥すると、彼に向かってに歩いて来た。どうやらテルマに続きマーロンもロッソに礼を言うつもりのようだ。ロッソもそのつもりで
「あんた! なんてことを! どうして? ワイバーンを逃がした!」
礼を言うどころか、マーロンはきつい表情でロッソを怒鳴りつけた。てっきり礼を言われると思っていたロッソは怒鳴られて若干怒りマーロンに反論する。
「はぁ!? 逃がしたって言われてもな。俺はこいつらの護衛だ。魔物を討伐に来たわけじゃねえ。それに空を飛ばれたらいくら長い大剣でも届かねえよ」
上空を指さすロッソ、空に飛んで行かれたら彼には、ワイバーンを倒す術がないことをマーロンに伝える。マーロンはロッソの言葉を聞いても納得せずに食い下がる。
「生かしておいたらまたここを襲うかもしれないんだぞ?」
「はぁ!? それじゃなにか? お前は群れの結束が強いワイバーンをここで殺すのか? それこそ群れで襲ってくるぞ?」
マーロンが言うことももっともだが、ワイバーンは群れの結束が強い。もしワイバーンをコンサートホールでロッソが仕留めてしまうと、臭いや鳴き声に反応した群れが攻めてくる可能性がある。
先ほどのように痛めつけて生かして逃がせば、おそらく群れは二度とこの劇場飛空艇を襲わなくなるだろう。黙ってうつむいてマーロンは悔しそうに、拳をギュッと握り小刻みに震えている。ロッソは彼の態度にあきれた鼻で笑う。
「ふっ。こんなガキと争っても無駄だな。何度襲ってきても俺がシャロを守るから気にするな」
「クっ……」
「あと人の仕事に文句を言う前に、誰のせいでワイバーンをここに入れることになったか考えとけよ。防衛隊長さん」
バカにしたよう笑うロッソにマーロンは黙っている。ロッソは振り返りマーロンに背中を向けシャロたちの元へと歩き出した。マーロンは顔をあげロッソの背中の睨み槍を強く握った。口を大きくあけマーロンが叫ぶ。
「うわわわわーーーーーーーーーーーーーーーー! ロッソーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「チッ! ガキが…… なめるなよ」
雄たけびをあげマーロンがロッソに向かって槍で斬りかかってきた。
気配を察知していたロッソは、背負っていた大剣に手をかけ即座に振り返りながら、大剣を抜くと同時にマーロンの槍を大剣で払った。払われた槍はマーロンの手を離れて地面につきささる。マーロンは槍を弾かれた衝撃で尻もちをついた。
「さっきから何が気に入らねえか知らねえが。あんまり調子に乗るなよ。クソガキが」
ロッソはマーロンの前に立って睨み付ける。マーロンは尻もちをついたままロッソを見上げていた。
「マーロン! いいかげんしないか! 下がりな。ここは音楽団の領域だよ」
「はっはい……」
「すまないね。ロッソ。ほら! マーロン! ちゃんと謝りな!」
テルマに叱られマーロンは悔しそうに返事をして立ち上がった。渋々ロッソの前に来たマーロンは心底嫌そうな表情で頭を下げるのだった。
「ロッソ…… お前は本当にシャロさんの……」
頭をあげブツブツとマーロンはつぶやく。そのつぶやきはロッソの耳に届いた。ロッソは呆れながらマーロンに答えてやるのだった。
「はぁ…… だから俺はただのシャロの護衛だ」
「そうですわ。護衛でシャロちゃんの優しいお兄ちゃんですもんね」
「お兄ちゃんです」
「そうそう。護衛兼シャロの兄貴だな」
ロッソがシャロの兄であると聞いた、マーロンの目がものすごい開いて驚いた表情に変わった。
「おっ!? お兄さん? えっ!? シャロさんとロッソって……」
「うん! 兄妹だよ? 言ってなかったっけ?」
とぼけた感じでシャロが、返事をしするとマーロンは表情をパぁっと明るくさせる。非常にマーロンはわかりやすい人間だ。
「ははは…… そうですか…… いやぁ! ロッソお兄さんそれなら早く言ってくださいよ。全然似てないからてっきり僕は……」
「なっなんだよ! 急にロッソお兄さんとか言うな! 気持ち悪いな……」
「そんなぁ。お兄さん!」
「うへぇ」
マーロンは嬉しそうに何度も、ロッソとシャロが兄妹と繰り返すのだった。マーロンはロッソとシャロが恋人かなにかと勘違いしたみたいだな。
急に攻撃されてイラッとしたが、ロッソはマーロンは思い込みが激しいだけでそんなに悪い奴でもないと思うのだった。
しかし、マーロンが勘違いするのも当然と言えば当然である。ロッソは体が大きく太く、シャロは華奢で小さくて顔も全然似ていないのだ。
「ふふ。俺とシャロは兄妹だぞ安心しろよ。ただし…… 血のつながった本当の兄妹ではないけどな」
少し離れたところで嬉しそうにシャロと話す、マーロンの背中に誰にも聞こえない声でつぶやくロッソだった。
そうロッソとシャロは本当の兄妹ではない。ロッソが三歳の頃に、両親がどこからか赤ん坊のシャロを突然連れてき来たのだ。父親はシャロをロッソに見せて今日からこの子はお前の妹だと言っていた。ロッソは幼かったが、彼の両親が急に赤ん坊を抱いて現れたのが、鮮烈でしっかりと覚えていた。
ロッソはシャロが、十八歳になったらすべてを告げる予定だったので、彼女はこのことを知らない。




