第85話 練習の邪魔をするものを排除せよ
「あれは!? ワイバーン…… 開いた天井から侵入したんだな」
コンサートホールの扉を開けて中に入ったロッソの目に、壁の上部に張り付くワイバーンが見えていた。ワイバーンはコウモリのような羽根を持つ小型の竜だ。小型というがそれは竜の仲での話であり、体長は五メートル以上ある。口からは炎を吐き、羽根をはばたかすことで風魔法も使う。さらに力も強く上空から足の鋭い爪の一撃は城壁おも簡単に破壊する。十数匹の群れで行動し、大人が子供を守るなど群れの結束は高い。
そのため魔王軍ではワイバーンの巣から子供を盗み傷つけ、人間の町に放置して攻撃させるという戦い方を取っていた。
「ワイバーンに侵入されるなんて! 守備隊はなにやってんだよ!」
舞台にいるリーシャたちにワイバーンが顔を向けた。音楽団は一か所に集まり、頭をかかえてうずくまっている。グアルディアとミリアがみんなの前に立ち、ワイバーンに抵抗しようとしていた。
「クソ! シャロ! ついて来い!」
「うん!」
扉から数十メートルの長さがある、誰もいない観客席を抜けてロッソは舞台へと駆けていく。彼は時々後ろを振り返りシャロがついてくるかを確認していた。
舞台の上ではワイバーンが飛びかかろうとしてるのを、前に出たグアルディアが夕闇の嵐剣で風を起こして防ぐ。ワイバーンは風に阻まれ壁から離れられないでいた。
グアルディアが防いでいる間に音楽団のみんなは、テルマさんとリーシャを先頭にして避難しようとしていた。
「はっ!!」
ロッソは舞台へと飛びのり、グアルディアたち前に立った。目の前に現れたロッソの背中にミリアはホッと安堵の表情を浮かべる。少し遅れたシャロも舞台に上がりミリアたちの側へとやって来た。
「ロッソ! よかった……」
「旦那しゃんです!」
「遅いぞ! 何をしてた?」
「待たせてわるかったな。グアルディア! 後は俺に任せろ。みんなを頼む」
ロッソは守護者大剣を抜き、白い刀身の剣先をワイバーンに向け構えた。壁に張り付いたワイバーンが、トカゲのような顔がロッソを見つめている。グアルディアの起こした風がおさまり、体の自由がきくようになった、ワイバーンはロッソへと首を伸ばし大きく口を開く。
いくつも鋭い牙の生えたピンクの歯茎に口の置は真っ黒で見えない。
「ふん。そんなんで……」
ワイバーンが口を開いた直後、ドンっという大きな音と共にワイバーンの口から火の玉が発射された。直径一メートルほどの火の玉が、うなりを上げながらロッソへと向かって飛んでくる。
「不可侵領域!」
両手で持った守護者大剣に闘気を送り込む。闘気が魔力へと変換され魔法障壁が大剣を中心にドーム状に展開され、ブルーセイレーンとセドニア音楽団全員を包み込む。
「ふぅ」
火の玉は障壁にぶつかると大きな音だして爆発した。大きな爆発音と爆発の赤い光が舞台とロッソの顔を照らしすのだった。
「キシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
ワイバーンは大きな泣き声をあげて、飛び上がると足の爪をこちらに向けて飛びかかってきた。
「ふん。無駄だよ」
金属がぶつかりうような、甲高い音がコンサートホール内に響く。ロッソが出した魔法障壁にワイバーンの爪は弾かれる。
ワイバーンは諦めずに何度か足の鋭い爪で障壁を斬りつける。しかし、守護者大剣が作り出す障壁はワイバーンの攻撃をことごとく弾き傷一つつかなかった。
ワイバーンが攻撃を繰り返す姿を見て、ロッソは振り返りテルマに指示をだす。
「テルマさん! 早くみんなを避難させてください」
「あぁ…… すまないね。こっちだよ。」
「みんな! テルマさんを手伝ってくれ」
ブルーセイレーンとテルマたちは協力して音楽団を避難させる。
ワイバーンは獲物が逃げるのがわかってるようで、激しく吠えて翼を羽ばたかせ、障壁を何度も爪をたてて蹴っている。攻撃の音が響く度に音楽団の人々は怯えた顔で足を止めてしまう。
「落ち着けよ。そんなに慌てなくても俺が相手してやるよ」
静かにロッソは障壁を消した。障害がなくなったワイバーンは、ロッソに向かって一直線に飛んで来た。鋭い脚の爪を立ててロッソに向けて突撃してきた。
「遅い!」
ロッソはタイミングを合わせ大剣を体の横に持って行くと、ワイバーンの爪を横に薙ぎ払うようにして斬りつけた。激しく大きな金属音がコンサートホールに響く。ロッソの守護者大剣とワイバーンの爪がぶつかりあったのだ。
「うおりゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
気合をいれ大声で叫びながら、爪にぶつかった大剣をロッソは力任せに振りぬいた。大剣で足を払われたようになったワイバーンはバランスを崩し首をロッソの前に垂れしながら落下する。
「よし!」
ロッソは大剣を振りぬいた勢いて回転しながら、ワイバーンの顔を横から剣で引っぱたくように切りつけた。ワイバーン硬い鱗に大剣がぶつかり両手に衝撃が走る。だが、ロッソはそのまま構わず両手で押し込んで剣をふりぬいた。
硬い鱗によってワイバーンを剣で斬るというより叩いたようになった。ワイバーンは数メートル吹き飛び合唱隊が並んでいたひな壇を破壊し床に叩きつけられた。
「終わったか…… 手加減してやったんだから死ぬなよ」
床に落ちて痙攣するワイバーンを見つめるロッソ、彼はワイバーンを警戒しつつゆっくりと剣をしまおうとする。
「あっ…… でも…… 舞台に傷つけちまったけど……」
ワイバーンが落ちた床は、木の板がめくれて破損していた。気まずくつぶやくロッソだった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
急に顔をあげたワイバーンはロッソに向かって吠えた。
「うるせえな」
ロッソはしまいかけて大剣を戻そうとする。ワイバーンはすぐに翼をはばたかせて、一メトールほと浮かび上がったワイバーンはかみつこうと口を開けた。
「おわっと! あぶねえな」
ワイバーンの首が伸びて来てロッソに噛みつこうとした。彼は飛び上がってワイバーンの口をかわした。そのままロッソはワイバーンの頭上から剣を振り下ろす。音が響き再びロッソの両手に堅い感触が伝わり衝撃で割れたワイバーンの鱗の破片がロッソの横を飛んでいく。
頭を叩かれたワイバーンは、クラクラと頭を振りながら地面に倒れ込んだ。着地したロッソはワイバーンに体を向けたまま後ろに歩き距離を取る。
「まだやるかい?」
五メートルほど後退したロッソは、剣を構えワイバーン睨み付けた。ワイバーンが力なく息をして、ロッソに視線を向けたまま体を震わせゆっくりと起き上がる。
「これで本当に終わりだな」
起き上がったワイバーンは翼を震わせゆっくりと翼を開く。翼を広げたワイバーンは、地面を蹴って飛ぶ。
「おいおい。大丈夫か。もう少し回復させてやればよかったかな」
フラフラと飛び壁にぶつかりそうになりながら、開いた天井からワイバーンは大空と飛び出していった。
「終わりだ。念のため天井はしばらく閉じておけ!!!」
ロッソは舞台の上で大きな声で指示をだす。避難していた音楽団が、コンサートホールの中にゆっくりと戻って来た。シャロたちも戻って来てロッソの元へと駆け寄って来た。
「おにいちゃん! ありがとう。さすがだね」
「ロッソはいつも頼りになりますわ!」
「旦那しゃん! ありがとうです」
「まぁ僕でも勝てたけどね……」
「わっ!? こら!? あぶない…… ミリアもシャロもやめて!」
リーシャが両手を広げてロッソに抱き着き、ミリアとシャロも彼女の続く。
「恥ずかしいから! 離れてくれよ」
「いやでーす」
「わたくしもいやです」
「あたしもー」
ロッソは手を伸ばして、抱きついてきたリーシャたちを離そうとするのだった。グアルディアはその様子を見てあきれて笑う。音楽団の皆やテルマもあきれて笑っていた。




