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勇者を守った男は成り下がり少女を守る ~護衛と踊り子の兄妹、歌って踊って傷ついた世界を癒せ!~  作者: ネコ軍団
第2章 空中劇場への招待

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第83話 練習は厳しいのです

 ブルーセイレーンが劇場飛空艇に着てから三日が経った。カネリア王国のガーネット王女の誕生会まではあと十日。シャロたちは誕生会に向け劇場飛空艇の音楽団と共に練習に励んでいた。

 劇場飛空艇が来ることは、カネリア王国の王女と国民には内密にされており、隠すために劇場飛空艇は一旦カネリア王国があるジーリア大陸から離れて海上で待機している。


「しかし…… 広いなぁ」


 ロッソは劇場飛空艇の中心にあるコンサートホールの、客席の中央でグアルディアと並んで座っていた。

 目の前には町の広場ほどの、大きさがあろうかという大きな舞台があり。その上にはずらりと百人以上のオーケストラがずらりと並び、その背後にはひな壇が組まれこれも百人の合唱隊が並んでいる。

 舞台にいるオーケストラと、合唱隊の他にシャロのような踊り子たちが百人いる。踊り子とオーケストラと合唱隊が、この劇場自前のセドニア音楽団だ。

 ブルーセイレーンは王女の誕生会では、セドニア音楽団の一員として同じ舞台に立つ。さらに午前と午後に十五分ずつのブルーセイレーンの単独演奏をする。


「うぅ…… まぶしい!」


 照りつける太陽が、劇場飛空艇のコンサートホールに差し込んでいた。亀の甲羅のような形のコンサートホールの屋根は、横にスライドして開くような構造になっていた。屋根は開かれ太陽が覗いている。

 さらに舞台正面の壁も二つに割れて開くようなっており屋外ステージにも変化する。

 劇場飛空艇の動力は魔石を燃料とする魔力であり、屋根の開閉から飛行までほぼすべてを補っている。世界でこれほどの魔導機関は存在せず、世界の四大劇場と言われるのも納得であった。

 王女の誕生会では、劇場飛空艇を屋外ステージへと変形し行う。練習では本番と同じように屋根を開けていた。そのため観客席には太陽が照り付け、さらに海上なので太陽を遮るものが何もないからまぶしい。

 劇場飛空艇は王女の誕生会のサプライズとして、初日に飛行してカネリア王国の王都クーリアンに姿を現す予定だという。それまでは海の上で練習となる。

 海上にいるのは姿を隠すのが一番の目的だが、陸上で練習をするとうるさいとか音楽を聞き入ってしまって作業に集中できないとか、苦情がくるらしいので海上が良いというのもある。

 舞台の上では激しい練習が続いていた。オーケストラの中にはミリア、合唱隊の中にはリーシャが混じって一緒に練習をしていた。


「ミリアは出だしがワンテンポ遅い! もう三日もやってんだ! いい加減に人と演奏するのに慣れな!」

「はい…… わかりました」

「リーシャは蚊の鳴くような声で歌うんじゃないよ! もっと声を張らないとここでは聞こえないよ」

「はいです!」


 譜面台を指揮棒で叩きながら、指揮者が緑の色の目を光らせてリーシャとミリアに激しい言葉で注意をしていた。指揮者は深い青色の皮膚に頭に二本の角が生え、顔は以前のグアルディアのように骸骨のような形をしている。服装は黒い裾の広がった、マーメイドスカートに上には白いシャツにネクタイをつけている。彼女はテルマという女性の魔族でセドニア音楽団をまとめる指揮者だ。

 彼女は人間の音楽に興味を持ち、五十年前にセドニア音楽団へと入団したという。セドニア音楽団は種族関係なく音楽が好きで実力があれば入れる。もちろんその実力は相当高くないと無理だが……

 テルマは怒ると怖いので、ロッソとグアルディアは二人して練習中は座席に座り黙っていた。

 特にグアルディアはテルマが叫ぶと、メディナに怒られた時を思い出すのか、ずっとうつむいて顔がひきつっていた。


「魔族の女性はみんな強いのね…… 俺、人間でよかったぁ。まぁうちの妹も大概だがな。ふわぁ…… さすがに座ってるだけってのも暇だな」


 背伸びをしてあくびを噛み殺すロッソだった。海上で魔物もほとんど出ることない、とはいえ音楽に聞き入ってしまうわけにもいかなく彼は暇を持て余していた。


「シャロの様子でも見に行くか」


 周囲を見渡していたロッソは、シャロのことが気になり彼女の様子を見に行くことにした。彼は立ち上がりグアルディアに声をかける。

 

「グアルディア! シャロの様子を見てくる。後を頼む」

「了解」


 シャロはコンサートホールとは別の一階下にある、第二練習場という場所で踊りの練習をしていた。ロッソはコンサートホールを出て、階段を下りて廊下を進みシャロがいる第二練習場へと向かう。


「まだ慣れないな……」


 薄暗い廊下にはかすかに香りが残っていた。

 セドニア音楽団には踊り子も大所帯なので、狭い廊下を移動した後は人数分の香水がまざった独特な匂いが漂う。


「一人ずつ嗅ぐときっといい匂いなんだろうけど…… 混ざるとなんか変な感じだな……」


 第二練習場の扉が見えてきた。練習場の扉は開けられ、中の光が廊下を照らしていた。シャロがいる第二練習場は、四角い広い空間に壁が鏡になっている鏡の壁には一メートルほどの高さに手すりがついていた。

 休憩なのか踊り子たちは、壁際に立って話し、シャロは一人で彼女たちから少し離れた場所に立っていた。


「うん!? あれは!? マーロン…… 飛竜に乗って警備をしてるはずじゃ……」


 笑顔のマーロンがシャロに近づいていくのがロッソに見えた。ロッソは練習場の手前で足を止めた様子をうかがう。


「シャッ! シャロさん…… お疲れ様です。お水です……」

「えっ!? はっはい…… あれ? マーロンさんは警備では?」

「はっはい! これから向かうんですが…… その前にシャロさんに会いたくて……」


 マーロンは顔を赤くし、恥ずかしそうにシャロに水を渡していた。困った様子でシャロは一瞬躊躇したが、水を受け取るとマーロンはすごい嬉しそうに笑っている。


「ふーん…… なるほどねぇ」


 にやにやと笑うロッソ、マーロンはシャロに惚れているようだ。少し慌てた様子でシャロが周囲を見渡す。シャロは急に好意を向けられて少し困惑しているようだ。


「まぁしょうがないか。あいつ同世代の人から好かれて口説かれるのは慣れてねえからな」


 実に意外だが、同年代の男にシャロが言い寄られるのは珍しい。おそらく、彼女が旅を始めてから、今日まで口説いたり好意を現した者の中で、一番若いのは山賊コルツォーネであろう。シャロが口説くのは、酒場にいつもいる中年や老人が多い。まぁ口説くと言っても大抵の人はかわいいよとか、冗談で結婚してくれとか、息子や孫の嫁にとかなどで客としての節度は守っていた。それを守れない男はロッソにぶん投げられ守るようになるのだが……

 ちなみにリーシャは、おばちゃんやおばあちゃんにモテる。歌ってる元気の良い姿がいいのか、うちの息子や孫の嫁にしたいとよく言われていた。

 ミリアは硬そうなイメージがあるのか口説かれることはほぼない。ごくたまに叱りつけて踏んでくださいと、若者がミリアの足元に土下座に来ることはあるが…… その場合は代わりにロッソが説教して踏んづけていた。


「さてさて……」


 ロッソはニヤニヤと笑いながら第二練習場の扉の陰に隠れて、シャロとマーロンの二人のことを興味深く見つめるのだった。

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