第81話 劇場飛空艇のオーナー
真っ青な空を飛ぶ劇場飛空艇の周囲には、マーロンのような飛竜騎士が操る飛竜が二十以上飛んでいた。
劇場飛空艇は六角形の甲羅を船が貫いたような形で、六角形の角一つの先端から船の船首のような部分が飛び出していて、対角線には船の船尾のような形をした部分がある。巨大な劇場飛空艇は、町の一角がそのまま浮かんだような大きさがある。
六角形になっている中央の部分が劇場で、中には商店や宿屋、さらには教会などの施設が充実している。船首には飛空艇を動かすブリッジなどがあり、船尾には劇場飛空艇内で働くクルーの船室や機関室などがある。
劇場飛空艇のオーナーはセドニアという人物で、彼が一人でこの飛空艇を作成したという。
シャロ、リーシャ、グアルディアの三人は劇場飛空艇の大きさに圧倒されていた。リーシャの猫耳がピクッと動く。
「大きいお船からお歌が聞こえるです!」
船を指差してリーシャが叫んだ。劇場飛空艇から風に乗って美しい合唱が聞こえてくる。
「リーシャ、これはセドニア音楽団だよ。この劇場飛空艇の専属の音楽団がいるんだ」
「ほぇぇぇ!?」
ロッソの言葉にリーシャが驚いてる。
四代劇場で唯一、劇場飛空艇には専属のセドニア音楽団という組織があり、主に彼らが世界中を飛び回り公演を繰り返している。ロッソたちに聞こえた歌は彼らの練習だろう。
劇場飛空艇で演奏するには、このセドニア音楽団に入るのが一番早い。ただ、オーナーに実力を認められば、セドニア音楽団に入らなくても劇場飛空艇を借りることはできるらしい。
「久しぶりですね」
「そうだな……」
劇場飛空艇を見て懐かしく見つめるロッソとミリアだった。二人は勇者キースとの旅で劇場飛空艇を訪れたことがある。その時は飛空艇を魔王討伐軍の兵士輸送に、借りられないかという交渉だった。ちなみに交渉はオーナーのセドニアに丁寧に断れた。断られた時にキースがすごい悔しそうにしていたことがロッソの印象には残っていた。
その時はロッソもなんで世界の危機に協力してくれないんだと悔しく思っていた。しかし、今ロッソは雄大に飛ぶ劇場飛空艇を見て、心底キースに貸さなかったことはよかったと思っていた。もしキースに劇場飛空艇を貸していたら大砲などが装備され、劇場としての能力を失ってだろう。
旋回しながら飛竜は船尾の方へと向かう。飛竜が近づくと船尾が城のつり橋のように開く。マーロンは飛竜を開いた入り口から、飛空艇の中へと向かわせた。
飛竜は船内に入ってすぐにとまる。船尾後部の下部は飛竜騎士隊の格納庫と出撃口となっており、周囲には木の柵に区切られ出来た区画に鞍とくつわをつけた飛竜が大人しく座って待機していた。
「じゃあ、こちらです」
飛竜から下りたロッソたちは、ケビンに案内されて格納庫から船内へと進む。
「相変わらず豪華で綺麗だな」
ロッソたちが歩いている、船内の通路はは白い綺麗な壁で統一され、床や壁は清掃が行き届き清潔で柱に綺麗な装飾が施され、壁にはとこどころに豪華な額にいられた絵がかけられている。
階段をいくつか上り、船尾下部から中央へまで上ってきたロッソたちだった。廊下の先に大きな扉があり、ケビンが扉をノックして中に声をかける。
「オーナー! ケビンです。ブルーセイレーン様をお連れしました」
「おぉ! 待っていました。どうぞ中へ」
「さぁ! みなさんもどうぞ」
ケビンが扉を開けてロッソたちを部屋へと招き入れる。
部屋の中へと入ったロッソたち、中はかなり広く一番奥には立派な黒い木の机と椅子があり、手前には果物が盛られた皿が置かれたテーブルにふかふかのソファがある。
机の後ろの壁には世界の地図と、書類の散乱した机には無造作に羅針盤がある。ロッソたちが入って来ると椅子に座っていた人物が近づいてくる。
「いやぁ! よく来てくれました。僕はセドニアこのマーチピン劇場飛空艇のオーナーです」
赤いネクタイに綺麗な黒のスーツを着て白い手袋をつけた男性が近づいてくる。年は人間でいうなら三十代くらいだろう。彼は身長が低く太い体型の体に太い指をしてかなりのごつい。
逆に顔は耳は尖って鼻が高く肌は真っ白でサラサラの金髪を後ろで結び、瞳は鮮やかな青い瞳をして顎も小さく端正な顔をしていた。男性が劇場飛空艇のオーナーであるセドニアだ。
セドニアはハーフエルフとなるのだが、父がエルフで母がドワーフというあまりいない、両親の組み合わせを持つ彼は子供の頃はエルフからも、ドワーフからも迫害されて苦労をしていたという。
しかし、この血筋のおかげで魔法で、この飛空艇を飛ばす方法を思いついて、自分で飛空艇を組み立てることができたともいわれている。
笑顔でセドニアはシャロと握手をして、ミリアともにこやかに握手を交わした。セドニアはミリアと握手をすると、何か気づいてロッソとミリアの顔を交互に見つめる。
「あなたたちは…… 確か以前キースさんと一緒に……」
「はい。勇者キースと一緒に旅していた。ロッソとミリアですわ」
「いやぁお懐かしい。あの時はご協力できずに申し訳ありません」
「いえいいんです。わたくしたちこそ無理なお願いをして……」
ロッソは自分のことをセドニアが覚えているのに驚く。彼がキースと一緒にここを訪れた時は、セドニアとはキースが挨拶しただけで話したことはなかった。
「今日はもうお疲れでしょうからお休みください。明日からはわたくし共の演奏者と一緒に練習を……」
「あっあの!」
「何ですか? シャロさん?」
「明日からの演奏の練習の打ち合わせは今日しておきたいんです。ダメですか?」
「えっ!? そうですか。わかりました。すぐに指揮者に連絡を取りましょう」
いつになく気合が入り、やる気に満ち溢れているシャロはすぐに打ち合わせをしたいと願い出た。セドニアはシャロの申し出を快く受けいれる。
「やった! じゃあ、ミリアとリーシャは先に休んでていいわよ。グラルディアちゃんは二人についててあげて! おにいちゃん! 付き合って!」
「わかったよ」
「シャロいいんですか? シャロだって疲れてるのに……」
「いいのよ。あたしはリーダーなんだから!」
この後シャロとロッソは部屋に残り、シャロはセドニアと明日からの練習内容やスケジュールの確認などをしていた。話は一時間ほど続きシャロは、ずっと真剣に話をしていた。目標である四大劇場で演奏できるのが彼女はとても嬉しかったのだ。ロッソはそんな妹の姿を優しく見つめていたのだった。




