第80話 いざ! 劇場飛空艇へ
飛竜が首をもたげてロッソたちを見ている。
「あっ!? こら! ダメだよ。リーシャ!」
リーシャが手を伸ばして、飛竜に近づこうとするのをロッソは腕を彼女の前に出して止めた。感情のない細い飛竜の瞳に反射したリーシャの姿が映っていた。
「お嬢さん。そのお兄さんの言う通り触っちゃダメだよ。ドランは僕以外に懐かないからね」
飛竜から一人の男が下りてきて、明るい感じでロッソたちに話をかける。話しかけてきた男は鼻が高く、短い青い髪に凛々しく切れ長の緑色の瞳で綺麗な顔つきをしている。
白く輝く綺麗な鎧に身を包み背中には二メートルはあろうかという、青く光る刃先をした銀色の長い槍を背負っていた。
この男は無骨なロッソと違うキースと同じような、いわゆるかっこいい男と言うやつだ。マーチピン劇場飛空艇は飛竜騎士隊が劇場の防衛を担当している。彼もその飛竜騎士の一人だった。
ケビンに右手で挨拶をし、ロッソたちの前に立つと男は深々と頭をさげた。
「こんにちは! マーチピン劇場飛空艇の防衛隊長のマーロンと申します。皆さまを迎えに来ました」
「ブルーセイレーンのシャロです」
「あっ……」
笑顔のシャロが挨拶をする。マーロンは彼女を顔見て固まっていた。どんどんマーロンの顔が赤くなり、シャロの顔から視線が外せなくなっていく。シャロはマーロンの様子に首をかしげる。
「うっ美しい……」
「えっ!? あの?」
「いっいや…… すっすみません。シャロさんのような美しい人にあったことがなかったもので……」
「あら!? お上手ですね。劇場飛空艇で世界中を旅してる方がそんなこと言っても信じませんよ」
笑いながら答えるシャロ。マーロンは慌てた様子でシャロに口を開く。
「ちっ違います! ほっ本気です!」
「もう…… そんなこと言っても何もでませんよ。でもうれしいから踊りはサービスしちゃおうかしら」
マーロンは頬を赤くしてすごく恥ずかしそうにしていた。綺麗と言われたシャロは、酔っ払いに言われた時と同じで笑顔であしらっていた。ロッソは少し心配そうにシャロとマーロンを見つめていた。
ブルーセイレーンはシャロに続き、一人ずつマーロンと挨拶を交わした。
「では皆さんもこの飛竜ドランに乗ってください」
挨拶が終わるとケビンが、ロッソたちに飛竜の背中に乗るように促してきた。
体長十メートルはあろうかという飛竜の背中には、梯子がついて背中に乗れるようになっていた。飛竜の背中には五本のベルトが巻かれて、背中に座ると落ちないように掴める取っ手がついていた。
「うわ…… ゴツゴツして座るとちょっと痛いな」
ロッソたちは飛竜の背中に乗り座った。リーシャとシャロとグラルディアは、興奮して前の方に座っている。ロッソとミリアは三人の後ろに並んで座り一番後ろにケビンが座った。
「ドラゴンさんのお背中おっきいです!」
「あっ! リーシャちゃん! ちゃんとつかまってないと落ちちゃうわよ。グラルディアちゃんもね」
「平気です!」
「僕も大丈夫だよ! ミリアは心配性だな」
ミリアが興奮して飛びはねる、リーシャとグラルディアに注意をしていた。
注意されているリーシャ達を見てシャロが笑っていた。
「ほら! シャロちゃんもよ!」
「えぇ!? あたしは平気よ! リーシャたちと違って子供じゃないもん」
「ダメよ。ちゃんとつかまらないと危ないでしょ」
「もう…… うるさいわね。だいたいミリアの方が年寄りだから心配よ……」
「まっ! なんですって!」
年寄りと言われ顔を真っ赤にして怒るミリア、シャロはべーっと舌を出して笑っている。
「はぁまったく…… ミリア。ごめんな。後で叱っておくよ」
「いえ……」
眉間にシワを寄せシャロを睨むミリアをなだめるロッソだった。ミリアは首を横に振り、何かを思いついた様子でロッソの顔を覗き込んで笑う。
「そうですわね。わたくしは年寄りですから…… ロッソにつかまえてもらいます……」
「えっ!? ちょっと…… ミリア!?」
そっとロッソの腰に自信の腕を回し、ミリアは自分の体を斜めにして彼に預けてくる。ロッソの脇腹に柔らかく温かい心地よい感触に包まれ、彼の鼻にはいい匂いが漂って来る。
「わたくしのこと離さないでくださいね」
「あぁ…… もちろんだよ」
ロッソの手を強くにぎり、ミリアは彼の胸に頭をつけてささやく。離さないでと言われたロッソは彼女の肩をだかとうと左腕を回そうとした。
「こら! ミリア! もう油断もすきもない! 離れなさい!」
「そうです。ずるいです。だったらリーシャは旦那しゃんのお膝に座るです」
「フフ…… 残念ですわもうロッソの近くに座る場所はないですわ」
「ブゥです!」
「ミリア!」
「わっ!? こら! 何をするんだ。暴れるな!」
振り向いて身を乗り出し、ロッソの膝に乗ろうとするリーシャに、ミリアを離そうと彼女の腕へと手を伸ばするシャロ…… 飛竜が首をあげて背中を迷惑そうに見つめるのだった。
「暴れないでください!」
飛竜の首の根元に座って手綱を持ったマーロンが振り返って叫んだ。シャロとリーシャとミリアの三人は動きを止めた。
「ふぅ…… チッ…… 調子に乗るなよ。ロッソ……」
マーロンはロッソをジッと睨み舌打ちをして、ブツブツと小声で文句を言うのだった。ロッソたちが大人しくなると、マーロンが足を軽く動かして合図を送ると翼を広げて飛竜が飛び上がった。
翼をはばたかせて広場を囲む建物の間をゆっくりと空へと昇っていく。オーラオーラ公国の町の広場どんどんと小さくなっていた。
「どうした?」
飛竜が止まっていざ進もうとすると、リーシャが振り返って不安そうにロッソをみた。彼はリーシャに気づき声をかけた。
「シャロ! 旦那しゃん! お馬さん置いて行ったらダメです!」
「おぉ! そうだった! すっかり忘れてた!」
空中劇場に行けるという興奮から、ロッソたちは馬車のことを忘れていた。リーシャが思い出さなければここに馬車を忘れて行ってしまっていた。
「ケビンさん。わるい。俺たちは馬車を持っているんです。一緒に持っていけないですか?」
振り返りロッソは一番後ろに座る、ケビンに馬車を持ってることを告げる。ケビンは笑顔でうなずいた。
「フフ、大丈夫ですよ。マウロ! 行く前に馬車の停車場に寄ってくれ」
「わかりました」
ケビンさんの指示で、マウロは飛竜を町の城門近くにある停車場に向けた。
「あれは!? 俺たちの馬車……」
停車場の前の通りにロッソたちの馬車が置かれていた。
「じゃあ! 行きます! 皆しっかり捕まってください」
「えっ!? うわ!」
飛竜が馬車の上を旋回して一気に急降下した。ミリアがロッソの腕にしがみつく。
「うふ……」
ミリアの胸があたって肘に柔らかい感触がして思わず声をだすロッソだった。そんなロッソをシャロが目をきつくして睨んでいたが、彼は気づかずミリアの胸の温もり記憶することに集中していた。
「おっと!」
飛竜の背中に体が押さえつけられ、思わずロッソは目の前の取っ手を強く握る。前にすわるリーシャが地上を指さして叫ぶ。
「地面にぶつかるです!」
「大丈夫ですよ。口を閉じててください。舌を噛みますよ!」
「おぉ!」
飛竜は一気に急降下して、馬車を後ろ脚でつかまえ、再度上空へと上がっていた。通りを行き交う人が、突然のできことに驚いて空を呆然と見上げていた。
オーラオーラ公国の町が小さくなり、雲の上まで上ると飛竜はゆっくりと東の方角へと飛んで行くのあった。
空を飛んで数十分ほどが過ぎた。オーラオーラ公国を囲む山を抜け、その先にある大きな平原の上空を進んでいた。
「ほぇぇぇ! 旦那しゃん! 大きなお舟がお空に浮いてるです!」
「リーシャ、あれがマーチピン劇場飛空艇だよ」
リーシャが前方を指さして振り返り、ロッソとミリアに驚いた表情をしていた。空を飛ぶブルーセイレーンに、亀の甲羅のような形をして六角形の巨大な塊が空中に浮かんでいる姿が見えた。空に浮かぶ六角形の塊がマーチピンの劇場飛空艇だ。




