第76話 変身! 元魔族の将軍
シャロとリーシャとミリアの三人は、グアルディアの周りに集まり、彼を囲み互いの顔を見ながらひそひそと小声で話しをていた。
「何を…… あぁ。そうか」
中央にいるグアルディアは、なぜ自分が囲まれているかわからず、混乱した様子で不安そうに頭を左右に振っている。ロッソは妹がやろうとしてることが、なんとなく分かった気がした。
「シャロの言う通りです。グアルグアルしゃんが居ればいいです」
「そうですわね。グアルディアちゃんならかわいい女の子になりますわ。さすがシャロちゃん」
「えっ!? ちょっとリーシャ!? ミリア!? 何を急に!? 僕は……」
「やっぱりそうよね…… グアルディアちゃんなら女装しても平気よね…… ニヤリ」
「うわああああ!!!」
「あっ! 待ってぇ!」
青ざめ怯えた表情で何かを察知した、グアルディアは三人の囲みを突破して部屋の外へと向かう。
「おにいちゃん! 捕まえて!」
「おうよ!」
威勢よく返事をしたロッソは背負っている守護者大剣に闘気を送り込んだ。
「不可侵領域!」
ロッソが叫ぶとあっという間に、大剣を中心に白く光る魔法障壁が部屋に展開された。扉を開けた飛び出そうとしたグアルディアが魔法障壁に阻まれる。それを見て満足そうに笑顔でうなずくロッソだった。
「なんだよこれ!? 開けて! 開けて!」
障壁を何度もたたいて、開けるように懇願するグアルディア。ガンガンというと音がむなしく部屋に響き渡っている。
「あきらめろ。無駄だよ。不可侵領域は俺が指定した人間しか入れないし…… 出れないんだからな」
絶望した顔でグアルディアがロッソを見る。目に涙を浮かべて少し悲しそうだ。
「ごめんな。俺は本当はお前の…… ププ…… ダメだ…… 将軍なのに女装…… おっと!」
吹き出しそうになったロッソは、左手で口を押さえなんとかこらえるのだった。立ち尽くすグアルディアにシャロたちの手が伸びていく。
「わっ!? ロッソ! 助けて!」
「はいはい。暴れないのよ。グアルディアちゃん」
必死に抵抗するグアルディアだったが、三人がかりで押さえつけられ身動きが取れなくなってしまう。
「グアルディア! 許せよな。シャロたちの為だ!」
「はなせーーー! ロッソーーーー! 裏切り者ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
グアルディアは手足を押さえられて、シャロたちの部屋の奥へと連れて行かれる。
「こら! シャロ! 投げるな!」
テーブルや床にグアルディアが着ていた服が散乱する。
「あっぶねえ! だから投げるなっての…… 汚ねえなぁ。ほんっとに……」
シャロが後ろ向きになげた、グアルディアの下着が、ロッソの顔の前を通りすぎていった。
「うん!? 女装するだけならわざわざ下着は変える必要ないんじゃ…… まぁいいや。シャロたちは楽しそうだし」
ロッソはグアルディアたちを囲んで、作業するシャロたちの背中を見て笑っていた。
「うわぁ! やっぱりかわいい! ねぇリーシャ。この間買ったスカート貸してあげていい?」
「いいですよ!」
「下着もリーシャちゃんのでいいわよね」
「こら! やめて! やめてーー!」
小さくなったグアルディアの体格は、リーシャよりも少し大きいくらいなので、裸にされて無理矢理リーシャの服を着せられている。
グアルディアの抵抗もあったせいか、着替えにはかなり手間取り、二十分ほどしてようやく着替えが終わった。
シャロたちがどくと恥ずかしそうに、スカートのすそを抑えて立つグアルディアの姿があった。
「クッ…… 誰だお前……」
吹き出しそうになるのを必死にこらえるロッソだった。
黒いタイトなミニスカートに半袖の赤いシャツを着た、グアルディアは見た目は少女にしか見えない。肩くらいまでの銀色の綺麗な髪に、花の髪飾りをつけられて、隠れていない右目に涙を浮かべ、悔しそうにつぐんだ口から八重歯がのぞく。
「どう? おにいちゃん! かわいいでしょ!」
「うん…… ププ…… 良かったな。シャロの言う通りかわいいじゃん…… ププッ! ククッ!!」
「わっ笑うなーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
両手をあげてグアルディアが声を上げる。
「おっ!? なんだ? やるのか」
「ぐわ!?」
グアルディアは両手をあげたまま、ロッソへ飛びかかろうとする。とっさにグアルディアの首根っこシャロがつかんで叱りつけて止めるのだった。
「こら! グアルディアちゃん! はしたないことして! かわいくしたんだから大人しくして! おにいちゃんもグアルディアちゃんを笑わないの!」
「かわいい…… いいや!!! 僕は男だーーーーーー! かわいくなんかない!!! はなせ!!!」
「今は女の子なの! それに男の子でもグアルディアちゃんはかわいいわよ」
「ロッソ! お前のせいだからな!」
「はいはい……」
叱られたグアルディアは、不満そうに腕を組んでロッソを睨み付けていた。
夕方になり酒場の開店時間が迫る。ロッソたちは衣装を持って共有控え室へ移動した。シャロたちは町を歩くグアルディアの姿をみて満足そうにしている。歩きながらずっとグアルディアだけは不満げに、ぶつぶつと文句を言っていた。
共有控え室の前に来たロッソはグアルディアを呼び止める。
「グアルディア! ちょっと待って!」
「えっ!? なんだい?」
「ほらよ。いくら魔族でも丸腰じゃななんかあったらこれを使え」
ロッソは腰にさしていた夕闇の嵐剣をグアルディアの前に差し出した。グアルディアはロッソといることが多く、魔法も多少使えるのでいままで武器は持たせてない。夕闇の嵐剣を手に取ったグアルディアは驚く。
「いいのか!? 僕はこれで君を殺すかもしれないんだぞ?」
「はぁ!? お前の力があれば子供のまま素手でもスキをつけば俺なんか簡単に殺せるだろ……」
「あっあぁ……」
グアルディアは困惑しながらも、ロッソが差し出した夕闇の嵐剣を受け取った
「女の子の格好をして困ったようにされると、俺が女の子をいじめてるみたいだからやめろ」
「うっうるさい。でも…… 本当にいいのか?」
右手に持った夕闇の嵐剣の刀身を見つめグアルディアはロッソに再度確認をする。
「いいんだ。もう魔族との戦争は終わった。お前はどうか知らんが俺は…… もうお前を仲間だと思ってる。裏切られたら俺に見る目ないと諦めるさ」
ロッソの言葉にグアルディアは、少しだけ嬉しそうに笑ってうなずく。
「うん…… わかった。君の代わりにシャロたちは僕が守るよ」
「女装させられてそんなこと言ってもかっこ悪いけどな」
「うるさい! 怒るぞ!」
怒鳴ったグアルディアは、嬉しそうに腰に夕闇の嵐剣をさした。そのまま振り返りグアルディアはシャロたちを共有控え室へと入るるのだった。
扉を開いて中へ入る前にグアルディアは笑顔でロッソに頭をさげた。
「魔王城で俺はあいつと殺しあったんだよなぁ…… なんか変なの。でも、グアルディアと一緒にいて笑いあえるのはすごい気分は良い……」
空を見上げながらロッソはニヤリと笑うのだった。
シャロたちは衣装を宿から毎回運び、グアルディアを連れて共有控え室へ行くようになった。
衣装を汚された時は悲しい顔していたシャロたちだが、対策をして不安もなくなったせいかチキンバースでの演奏も冴えわたる。
そして彼らの対策は意外な別の効果も生むことになる。
「おっ! かわいい給仕さんだな! お嬢ちゃん! 俺は酒とオーラ鳥の串焼き!」
「なっ!? お嬢ちゃん!? それにかわいいだと?」
「早く頼むな! かわいいお嬢ちゃん!」
「クっ……」
営業時間前に女装するグアルディアは着替える時間はないので、そのまま外に置いた樽のテーブルで給仕の仕事をする。なぜか彼の容姿を気に入る客が多く、中の席が空いてるのに外でわざわざ飲食を楽しむ人達がいるくらいだった。
「よかったな。かわいいお嬢ちゃん」
「うるさい!!」
警備で座る椅子を横切るグアルディアに、にやにやと笑って声をかけるロッソだった。
順調に演奏をこなしながら審査の最終日を迎える。最終日を残して売り上げはブルーセイレーンがトップで、盛り返してきたゴールドシスターズが僅差で続きその後すぐにダークイーグルスが迫っていた。このままブルーセイレーンはトップを維持できるだろうか。




