第72話 踊り子は逆襲をおもいつく
演奏が終わったロッソたちは、ケビンが手配した宿へと帰るのであった。
翌日、移動と審査の初日といろいろあった、ロッソたちはぐっすりねてしまい正午すぎに目覚めた。彼をおこしたのはベッドに飛び乗ってきたリーシャとシャロだった。
「起きるですー」
「起きろー!!!!」
「わっ!? こらやめろ! いくら俺が大きくて頑丈だからって飛び跳ねるな」
ロッソのベッドの上で飛び跳ね暴れる二人だった。なお、この後シャロとリーシャはミリアに見つかって説教を食らう。
「うん!?」
宿のテーブルに肘をつき、手紙を読んでいたシャロが頭を抱えていた。彼女が読んでいる手紙は、彼女宛てに届いたものだ。シャロの様子からなにか手紙に悪いことでも書いてあったようだ。ロッソはシャロの近づき背後へと迫る。
「うーん…… 一日で五百リロ差……」
「どうした? シャロ、難しい顔して?」
「ケビンさんから一日目の結果が来たのよ。見て!」
シャロがロッソに手紙を見せてくる。
手紙には三つの店の売り上げ金額が記載されていた。ゴールドシスターズのいる憩いの泉はだいたい二千五百リロでロッソたちブルーセイレーンの売り上げは二千リロを少し上回る程度だった。ちなみにダークイーグルスはブルーセイレーンと同じくらいだった。
手紙を見たロッソは顔をあげシャロに声をかける。
「しょうがない。相手はオーラオーラ公国で活動していて有名だし店も大きさも違うんだからさ」
「そうよね…… でも勝負は十日間しかないのよ?」
「うーん…… そうだな。シャロの踊りをこの町の人に見てもらえばすばらしさがわかると思うんだよな……」
「見てもらうってお店に入ってもらわないと見えないじゃん…… お客さんが入らないんだから」
「そうだ! 扉を開けて営業するか! そしたら広場の人見えるぞ! なんてな」
「もう! 真剣に考えてよ! うん!? そうか…… それって……」
ロッソの冗談に怒ったシャロだったが、彼女は急に目を見開き何かに気づいたようだ。シャロはそのまま目を未来手ジッとロッソを見つめる。視線を向けられたロッソは冗談にシャロに怒っていると思い謝るのだった。
「なっなんだ…… 悪かったよ。冗談なんか言って」
「えっ!? 違うわよ! おにいちゃん! それなのよ!」
「あっ? おい! ちょっと待って!」
椅子から興奮気味に立ち上がったシャロは、ロッソの肩を数回叩くと、走って部屋から飛び出していってしまった。
「ミリア! ごめん! リーシャとグアルディアを頼む!」
「あらあら、はいわかりました。」
慌ててミリアに後を任せ、ロッソはシャロを追いかけていくのだった。
「うん!?」
宿を出てすぐの道で、シャロが立ち止まった。追いかけて来たロッソが彼女の後ろに立って声をかける。
「どうした? シャロ、急に立ち止まって……」
「あそこに……」
シャロが道の先を指さすと、道の少し先にゴールドシスターズのマネージャーポンが歩いていた。運悪くポンはロッソたちの方に顔を向け二人に気づいてしまった。
「うわぁ……」
「クソ。来やがった…… 来なくていいのに……
ロッソたちを見つけたポンは、ニヤニヤといやらしく笑いながらこっちへ向かって来た。あからさまに嫌な顔をする兄妹だった。十メートルほどまで近づいたポンは、わざとらしくシャロに向かって親し気に右手をあげた。
「おぉ! 君は確か…… ブルーマクレーンの」
「ブルーセイレーンです! フン!」
「ははは! すまんすまん。我がゴールドシスターズの踏み台になるパーティ名など覚える必要はないからな」
「なっ何ですって!」
いやらしく笑いポンはシャロを馬鹿にしたようにしゃべる。ロッソはポンを見て顔をしかめる、相手をおちょくるような言い方はかつての仲間、キースの偉大なる四人のアンナを思い出させる。
ロッソはシャロがポンに殴りかからないように、彼女の斜め前に立っていつでも止められようにする。ポンはロッソが居るので手をだしてくることはない。
「君たちはどこに行くんだ? あぁ! そうかケビンさんにもう私たちにかないわないから辞退しますって言いに行くのかな?」
「はぁ!? ちょっとあんたいい加減にしないと……」
眉間にシワを寄せ両拳を下に向け震わせるシャロだった。ロッソはシャロの体の前に手をだして止める。
「ほら! シャロ! もう行こうぜ。どこかに用事があったんだろ?」
「あっ! そうだった! こんなことしてる場合じゃない! じゃあね。あんた達なんかすぐに抜かしてやるんだから! ベーだ!」
ポンに向かってシャロは、舌を出して叫んで走ってポンの横を通っていく。ロッソは彼女のすぐ後に続く。
「なっ!? 女のくせになめやがって……」
「なんだよ!? やるのか?」
ムッとした顔でポンがシャロに向かって怖い顔をした。振り向いたロッソはポンの前に立って、見下しながら睨み返した。ポンは青ざめた表情でブツブツ言いながらロッソに背中を向け去って行った。
「ったく…… 女にだけ威勢がいいのか。クソ野郎め」
ロッソはすぐに振り向いてシャロと追いかけていくのだった。
「あれ!? 開店時間までまだあるのに……」
通りを走ってシャロは広場の近くにある、チキンバースへと入っていった。ロッソがチキンバースに入るとシャロが少し興奮気味にミームと会話していた。
「えっ!? 営業中に扉を開けるの?」
「はい! 後、店の窓も開けていいですか?」
「それはかまわないけど…… でもそんなこと意味があるのかしら?」
「いいからいいから! じゃあ、今日の営業からお願いしますね」
話がすぐに終わったのかシャロは振り返ってロッソにニカって笑い店をでていってしまった。店に入ったばかりのロッソ、気まずそうに彼はミームに頭を下げてシャロを追いかけていく。
二人で宿までの道を並んで歩く。ロッソの顔をシャロが覗き込んできた。
「おにいちゃん! さっきあたしとミームさんの会話聞いてた?」
「えっ!? うん…… 酒場の窓を開けるんだよな」
「そう! 悪いけどあたし達が準備してる間に酒場の窓と入り口の扉を開けて閉じないようにしといて!」
「わかったよ」
うなずくロッソにシャロは嬉しそうにほほ笑むのだった。
酒場の営業時間が迫って来た。シャロとミリアとリーシャの三人は、着替えと準備のためにグアルディアを連れて共有控え室へ向かった。
ロッソは酒場チキンバースでシャロから言われた通りに、すべての窓を開けて入り口の扉も全開にして閉じないように固定する作業を行っていた。すぐ近くのカウンターの奥で、ミームは仕込みをしながらロッソを不思議そうに眺めるのだった。




