第71話 古ぼけた店の光る物
ロッソたちは広場正面にある酒場チキンバースへとやってきた。
「なんか…… ここだけ時代に取り残されている感じだな」
「ロッソ! 失礼ですよ」
「ごめん」
店の前に立っていたロッソはミリアに叱れるのだった。建物は木製で外観は古く、至るところがすすで汚れて黒ずんでいた。
「ミリアの言う通りよ。お兄ちゃん! 余計なこと言わないでね」
「はいはい」
シャロが扉を開けるとキィーという音が鳴る。扉をあけると店内は狭く、小さいカウンターと五席ほどのテーブル席しかない。
「このままじゃ演奏できないな……」
店内が狭く踊りはもちろん演奏や歌うスペースがない。ロッソは後で演奏するスペースを、どうするか店主と相談する必要があると思うのだった。
「うん!? なんか煙いな……」
「でも、いい香りですよ」
店内は白い靄がかかっようになっており、ロッソが目をこらすとカウンターの向こうに人がいて白い煙があがっているのが見えた。
「こんにちはー!」
シャロがカウンターに向かって声をかける。
「あっ!? あなたたちがもしかして劇場飛空艇の審査を受ける音楽パーティの人?」
カウンターの向こうに居たのは女性で、シャロの声に反応した。彼女は黒髪を後ろで結んだ、三十代くらいのエプロンを付けていた。カウンターから出て来た女性は、シャロたちと衣服は古ぼけているが、目がぱっちりとした黒い瞳の凜とした美人だった。
「はい! 音楽パーティのブルーセイレーンといいます」
「私はこのチキンバースの店主ミームだよ。よろしくね」
「あたしは踊り子のシャロ! 歌手のリーシャに楽器奏者のミリアと護衛のロッソとグアルディアです」
「いらっしゃい。ごめんね。狭くて汚いでしょ? まさかうちが審査の店になるとは思わなくて……」
店内を見渡してミームは、申し訳なさそうにシャロと話している。
「そんなことないですよ。平気ですよ」
「えぇ、わたくしはこういう味のあるお店は大好きですわ」
「リーシャも好きです!」
「ありがとう…… そう言ってももらえるとうれしいわ。だってこの店はね……」
ミームがゆっくりと昔話を始めた。ミームによると”チキンバース”は五年前に亡くなった夫と二人で十五年前に始めた店で、家族の思い出があるこの店をつぶさないように夫が亡くなった後もミーム一人で営業してるとのことだった。店の外観が汚れているのも、清掃を担当していた夫が亡くなり掃除に手が回らなくなったからだという。
「うっう…… 亡きご主人の意思を…… グス。ゲス」
「あっ! もう…… お前が泣くとミームさんが混乱するからやめろよ」
「うるさい! 君みたいなガキにはわからないんだよ。夫婦の絆っていうのだな……」
グアルディアがミーム夫妻の話を聞いてる途中で泣き始めた。彼はブルーセイレーンの中で、唯一の既婚者であり子持ちのためミームの話にえらく同情したのだ。
なお、ミームは子供の姿のグアルディアが、自身の身の上話で泣いているのを不思議な顔で見つめていた。
「大丈夫? グアルディアさんが泣いてらっしゃいますけど?」
「いや。いいんです。子供なんで煙がきついだけです…… いた! グアルディア! てめえ! 足を踏みやがったな!」
ロッソが睨むとグアルディアも、負けじとロッソを睨み返し互いに睨みあう。ミリアが二人の行動にあきれて止める。
「もうダメですよ。二人とも!」
「「フン」」
二人は互いに背中を向け腕を組む。ミリアは二人の子供っぽい行動に恥ずかしそうにミームに謝るのだった。
「申し訳ありません。ミームさん」
「いいのよ。子供は元気な方がいいからね」
「ふふふ。でも、ミームさん。この煙は何ですか? それにいい香りも……」
「へへ。いまね。この店の名物を作ってるのよ。オーラ鳥の串焼き!」
ミームはミリアにほほ笑むと、カウンターに戻っていた。すぐに串焼きが十本乗った皿を持って出て来た。ミームがロッソたちの近くのテーブルに皿を置くと、全員の視線が置かれた皿へと向かう。
「うっうまそう…… これは焼き鳥か!?」
ロッソがよだれを拭う仕草をする。皿の上には串にさした一口大の鶏肉が四つずつさしてある。鶏肉はこんがりと焼かれ、トロッとした黒で少し赤みがかったソースが絡められていた。見た目が現代の日本にある焼き鳥に近くロッソは少し驚いていた。
「あなた達に食べてもらおうと思って焼いてたのよ。召し上がれ!」
「やった! みんな食べましょう!」
「食べるです!」
「あっ! ずるい! あたしも! こらミリア! それあたしが食べようとした大きいの!」
「もう…… シャロ! ミリア! リーシャ! やめろよ。恥ずかしい…… ミームさんごめんなさい」
「いいのよ。よろこんでくれうれしいわ」
シャロたちは焼き鳥に一斉に手をだしてがっつくのだった。ミームはシャロたちが焼き鳥を頬張るのをほほ笑んでみていた。
「はぁ…… 恥ずかしいな。もう…… うん!? こら! ミリア! それ俺の分だろ!? ちょっと待って!」
「ふぇ!?」
ロッソの言葉にミリアが、しまったという顔をした。彼女はサラの上に残っていたロッソの分の焼き鳥をつかんで当然のように口へ運んだのだ。
「モグモグモグモグ!!!」
「こら! 食べるのを早くするな!」
ごまかせないと悟ったミリアはさっさと食べてしまおうと口を早く動かす。ロッソは残りだけでもと彼女が持っている串をつかんで取り上げるのだった。
「ふぅ…… なんとか確保できた……」
ロッソはミリアによって半分ほと食われた串を寂しそうに見つめていた。焼き鳥は十本用意されており、一人に二本ずつだ。しかし、なぜかロッソの分はシャロとリーシャに一本食われ、もう一本はミリアに半分食われていた。彼がミリアに気を取られたすきに、シャロとリーシャに一本まるまる食っていたのだ。
もうしょうがないのでロッソは残った串焼きの半分を食べる……
「えっ!? これすげぇ! うまい! やっぱり焼き鳥だな」
串に刺されてこんがりと焼かれた鶏肉に甘辛く、酸味の効いたトロっとした、タレが絡んでとても美味でロッソは日本で食べた焼き鳥と同じようなものだとすぐに反応した。
「そこはもも肉だからジューシーよ。他にも部位によって違うから一匹の鳥から色んな味が楽しめるのよ」
「ははっ…… 本当に焼き鳥だ……」
あっという間にオーラ鳥の串焼きを、平らげたロッソたちを見て、ミームは嬉しそうだった。腹をなでながら満足気にシャロがミームに挨拶をする。
「ごちそうさまでした。じゃあ、今日からよろしくお願いします」
「はい。お粗末様! 演奏の場所は店内の真ん中にテーブルを移動して作るからね」
「わかりました。じゃあ! おにいちゃん! 一人じゃ大変だろうからミームさんを手伝ってあげて」
「わかったよ」
「良いんですか? すいません…… あっ! そうそう。後、ごめんね。このお店はせまくて控え室ないの…… だから着替えとかは広場の隣にある商業ギルドで借りてる共有控え室を使ってもらえるかしら?」
「わかりました。大丈夫です」
共有控え室とは商業ギルドで、控え室として借りている部屋や家のことだ。
酒場や劇場も大きさはさまざまで、すべての酒場とか劇場に控え室がある訳ではない。また、シャロたちは路上で仕事をすることもある。衣装を置いたり着替えたり休憩をとったりする、場所はどうしても必要になるが、酒場の席を占有するわけにはいかないので、控え室がない場合はシャロたちこの共有控え室を利用するのだ。ちなみに通常は町や村の部屋や家を借りるが、町によっては自前で共有控え室を持っている場合もある。
共有控え室は、商業ギルドに登録している演芸人なら誰でもタダで使える。また、商業ギルドに登録がなくても一日分の使用料を払えば借りることもできる。
シャロたちはグアルディアと一緒に共有控え室へと向かい。残ったロッソはミームさんの指示を受けながら、テーブルを動かしてシャロ達が踊るスペースを作るのであった。
「ちょっとせまいけど…… 大丈夫かな。ミリアとリーシャは平気だろうけど…… シャロは踊るからな」
ミームの指示でなんとか店の中央にシャロたちが演奏する、スペースを作ったロッソだったが、狭い店で確保できたのはベッド一つ分くらいの狭いスペースだけだった。
準備が終わったシャロは、ロッソがつくったスペースをみて苦笑いをしていた。
狭い場所を気にしてか、シャロたちはその日の演奏は踊りを控え目にし、リーシャの歌をメインにしていた。
シャロたちの演奏を聞いた客からの反応は上々だった。ただ、観客との距離が近く、すぐに酔っ払いがシャロに触ろうとするので、ロッソとグアルディアは忙しかった。




