第70話 運も実力の内
ゴールドシスターズが舞台から下りた。ロッソたちは彼女らよりも早く、ケビンの指示に従い舞台から下りてすぐ前に並んでいた。
舞台から人がいなくなるとケビンは、またにこやかな表情になり舞台の中央に立って話を始める。
「失礼をいたしました」
ケビンは集まった観客たちに頭を下げた。頭をあげると笑顔で再度自己紹介をしロッソたちに向かって微笑む。
「まずはブルーセイレーン様、ゴールドシスターズ様、ダークイーグルス様、急な依頼にもかかわらずお越しいただきありがとうございます」
どうやらブルーセイレーンやゴールドシスターズ以外にも、ダークイーグルスという音楽パーティがオーディションに参加しているようだ。
「今回の審査方法はこの中央広場にある三つの酒場で行います。今日から十日間みなさんはそれぞれ三つの店に分かれて演奏をしていただきその売り上げを競っていただきます」
舞台の中央で参加する音楽パーティに確認するように、話しながら視線を左右に動かすケビンだった。審査は三ヵ所の酒場で演奏を披露し、その期間の売り上げを競って争うようだ。
「なお、今回の酒場の選定はこの広場に近いということを、条件としているので店の大きさや席数はそれぞれ違います」
舞台の下でケビンの話を聞いていたロッソが驚いた顔する。
「えっ!? 売上勝負なのか。だと…… 演奏の実力があるのは当然だけど店がどれに決まるかも重要だな」
ロッソはケビンと同じように視線を左右に動かし、広場の近くの建物を確認する。彼の横ではシャロとリーシャとミリアの三人は、真剣な表情でケビンの話に耳を傾けていた。
「それではオーディションに使用する店を発表しましょう」
ケビンが店の紹介を始めた。まず、彼は体を左へとひねって背後を向き左手を伸ばした。全員の視線が彼の手の先に集中する。手の先には大きな建物が見える。
「一店目は”憩いの泉”様」
最初の店は中央広場の北にある噴水のそばにある”憩い泉”だ。外観は大きく清掃が行き届いており、内装はまではわからないがここに入れば当然有利だと思われる酒場だった。
観客から声をあがり、ケビンは前を向いて今度は右手を胸の前に持って行き左を指し示す。
「二店目は”ミステリーナイト”様」
次の店は中央広場の東側にある、”ミステリーナイト”という酒場だ。”憩いの泉”に比べれば小規模な店舗だが、外観は綺麗でこちらはよくある極普通の酒場だ。観客は小さく歓声をあげる。
「最後は…… ”チキンバース”様」
正面を手で指したケビンが店の名前を呼んだ。
「うん!? 正面に酒場なんて……」
ロッソは驚いて振り返った。正面はロッソたちが入って来た、広場の入り口があるがそこには酒場があることに気づかなったのだ。
「あっ……」
ケビンが指した方角を見て顔をしかめるロッソだった。”チキンバース”は小さい店で、外観がオレンジの石造りで統一されている、オーラオーラ公国の建物のはずが、ここだけは古くて崩れそうな木造の建物だった。看板も斜めになっており、全体的にすすで黒ずんでいた。外観も悪く店も小さい、ロッソは”チキンバース”では勝負にならず外れだと確信した。
周囲の観客も同じように思っているようで、悲鳴やどこか馬鹿にしたような歓声が起きていた。
店の紹介が終わり、騒然としてるなかケビンは笑顔で口を開く。
「では…… このお店の決めたいと思います。それは……」
店の選択はこの勝負を決める重要な要素だ。シャロたちはケビンをジッと見つめる。
「くじ引きです!」
観客達がからおぉーっというどよめきが起きる。ロッソとシャロは驚き顔を見合せている。くじ引きが不満なのかポンは、ケビンに厳しい顔を向け叫ぶ。
「おい! くじ引きなんてふざけんな!」
「ははは! 何をおっしゃいます。演奏者には実力も必要ですがチャンスをつかむ運も大事ですからね…… では各音楽パーティの代表者のかた! 舞台にあがってください」
ケビンが大きく手招きをして、各音楽パーティの代表者を呼んだ。
「じゃあ、みんな任せて! 一番大きいお店ひいてくるからね!」
「よし! 頼んだぞ! シャロ!」
ロッソたちの代表はもちろんリーダーのシャロだ。自信満々な顔して腕をまわしながら、シャロが舞台にあがっていく。ロッソは笑顔で送り出したがなんとなくその姿に少し不安に思うのだった。
ゴールドシスターズの代表はポンで、ダークイーグルスの代表者は、真っ黒なフードつきのローブを着た老人だった。
「では、あれを持って来てください」
ケビンが指示を出すと舞台の近くに待機していた劇場飛空艇のスタッフが、長いテーブルと三つの丸い水晶が置く。
「この水晶は運命のクリスタルという道具です。手をかざすとあなた達が行くべき店を決めてくれます。それでは一斉に手をかざしてください!」
舞台にいる代表者たちは、一斉に自分の前にある水晶に手をかざす。うっすらと水晶が緑色に光って文字が浮かび上がる。
ケビンが水晶の前に立って浮かび上がった文字を読み上げていく。
「決まりました。ダークイーグルスはミステリーナイトですね!」
読み上げられた店名を聞いて、ダークイーグルスの代表の老人はホッとした表情を見せた。
「ミステリーナイトが取られたか。でも! まだ憩いの泉が残って……」
固唾を飲んで舞台の上で、行われている店選びを見つめるロッソ、二番目によかった店が取られて落胆するかれだったがまだ一番良い店は残っている。ケビンがポンの前へと移動した。
「はい! ゴールドシスターズは”憩いの泉”です!」
ケビンの言葉に歓声が上がった。
「えっ!? それじゃあ…… シャロは当然……」
落胆するロッソだった。ケビンはシャロの前に立って読み上げいる。もちろんブルーセイレーンが担当する店は残った……
「では、ブルーセイレーンはチキンバースですね」
ポンが拳を力強く握りしめてヨシっと言っているのがロッソに見える。しょんぼりと落ち込んだシャロが舞台から下りてきた。
「では、みなさんすぐに各店に移動してください。本日から審査は開始です」
ケビンはそう言い残すと舞台から下りていった。ケビンたちは舞台から下りるとさっさと引き上げを始めた。観客たちもそれを見ると自然と解散し人が徐々に減っていく。
「うぅ…… みんなごめん……」
クジの結果をシャロは、気にしてシャロとリーシャに謝るのだった。
「シャロちゃんのせいじゃないですわ。みんなで頑張りましょう。ねぇリーシャちゃん」
「そうです。頑張るです!」
リーシャとミリアがシャロを慰める。
「チッ」
舌打ちをして横を向くロッソ、ニヤニヤと笑いながらポンがゆっくりと彼らに近づいて来ていた。さりげなくロッソはシャロたちとポンの間に立って彼へ視線を向けた。
ロッソにビビったのか、シャロたちに近づくのをやめて後ずさりしながらポンが叫ぶ。
「ははは! おまえ達にはオンボロ酒場がお似合いだな! じゃあお前ら! 憩いの泉に行くぞ! 店主に挨拶するからな」
「下衆野郎が」
ポンはロッソたちを煽って去って行った。三姉妹と妻ソンは彼の姿に気まずそうにしていた。彼女らはポンが背中を見向ける気付かれないように、ロッソたちに頭をさげて去って行った。
「あいつ…… リーシャ! ミリア! 行くわよ! ゴールドシスターズになんか負けないわよ」
「そうですわ。シャロ! 行きましょう!」
「行くです。リーシャいっぱい歌ってお客さん喜ばせるです!」
「おっ! すごいやる気だな。店では不利かもしれないけどまだ勝負は決まってないんだからな。俺も出来る限りのことをするよ」
ロッソの言葉にシャロは嬉しそうに笑顔でうなずいた。店の不利を吹き飛ばそうと気合が入った、ブルーセイレーンは意気揚々と酒場チキンバースへと向かうのであった。




