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勇者を守った男は成り下がり少女を守る ~護衛と踊り子の兄妹、歌って踊って傷ついた世界を癒せ!~  作者: ネコ軍団
第2章 空中劇場への招待

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第66話 空中劇場からの招待状

 パーティ名をブルーセイレーン(蒼き歌の精霊)と決めてから一ヵ月が過ぎようとしていた。

 シャロたちはラコルツァの依頼人ゴルベから、商業ギルドを介して近くの村や町での仕事をいくつか紹介してもらい精力的に仕事をこなしていた。

 ブルーセイレーンの三人は息のあった演奏で、どこの町や村に行ってもあっという間に評判になっていた。

 彼らは現在、ラコルツァから西に馬車で言ったクアッドア村に滞在している。クアッドア村はアクアーラ王国の第二の都市サラマンドルからほど近い場所にある。

 いつものように酒場で出番を待っていた、シャロに商業ギルドから手紙が届いた。ロッソは控え室にいるシャロに手紙を渡して、グアルディアと一緒に部屋の前に立って警備をしていた。


「おにいちゃん! グアルディアちゃん! すぐに出発の準備をして出発しよう」


 いきおいよく扉を開けたシャロがロッソとグアルディアに叫ぶ。急に出発しようというシャロに、わけがわからず二人は顔を見合わせ首をかしげた。今日の仕事はこれからで出発などできるはずもなく、ロッソは冷静に妹に声をかけそのことを思い出せる。


「今日までここで仕事あるだろ。すぐに出発なんて無理だよ」

「あぁ! そうだったわ。ごめん。ごめん。明日の朝早くここを発つから準備しといてね」

「まったく…… そうだったじゃないよ。大事な仕事だろ。忘れるなよ」

「はーい」


 シャロは恥ずかしそうにし、手を頭の後ろに持っていった。ロッソはシャロを見てあきれて笑い、彼女がなぜ大事な仕事を放ってまで急ぐのか気になりたずねる


「じゃあ、明日すぐに出発できるように準備しとくよ。でも、どうしたんだ急に出発って?」


 質問にシャロが嬉しそうにほほ笑む。そしてすぐに勝ち誇った表情に変わり、ロッソに手に持っていた一枚の紙を見せてくる。彼女が見せて来たのは紙は商業ギルドから来た手紙だ。


「これよ! 見て! 商業ギルドからの手紙でね。マーチピンの劇場飛空艇の臨時メンバーオーディションにブルーセイレーンが参加できるって!」

「おぉ! それはすごいな。目標に近づけたな」

「ふふふ。ありがとう」


 目を輝かせて嬉しそうにシャロはロッソに語る。

 マーチピン劇場飛行艇とは世界四大劇場と呼ばれるうちの一つだ。他の三つはアクアラ水上劇場、サロマステップ平原劇場、トリニティ深淵洞窟劇場がある。シャロは世界でまだ二人しか成し遂げていない、全ての劇場に出演する四大劇場制覇(グランドスラム)を目指していた。


「オーディションを受けて採用されなきゃいけないから大変だけど…… でもこれはあたし達ブルーセイレーンにとってはチャンスよ!」

「そうだな。頑張れよ! そのオーディションってのどこでやるんだ?」

「えっとね。オーディションはオーラオーラ公国だって…… 審査に合格したらカネリア王国で演奏をすることになるみたい」

「オーディションと演奏は別々なのか……」

「うん。カネリア王国の人たちにはできるだけ隠したいみたいよ。合格した臨時メンバーはカネリア王国で王女の生誕祭でのサプライズ要員ってことね。内緒で舞台に登場して演奏を披露するという演出らしいわ」

「へぇ…… なんか力が入ってるな」

「うん。いつもの生誕祭より盛り上げたいみたい。それで腕の良い新しい出演者を披露するようにカネリア王が劇場飛空艇のオーナーに頼んだみたいよ」


 小さくうなずき苦笑いするロッソだった。彼はカネリア王国には詳しく、王が娘に甘いのも知っている。カネリア王国王女の名前はガーネットという名前で、シャロが話している生誕祭で十五歳になる。

 王族らしく上品でかわいらしい王女だが、このガーネット王女はめちゃくちゃわがままだった。

 以前に彼がキースたちと一緒に謁見した際に、キースは土産にケーキを持っていった。そのケーキを気に入らないって、何故かロッソに投げつけてきたのだ。顔がクリームまみれになってめちゃくちゃアンナに笑られた彼は思い出していた。


「でも…… カネリア王国か……」


 カネリア王国はここアクアーラ王国があるジェルボ大陸から、海に出てて南にあるジーリア大陸の小さな国だった。現在はある事情により世界有数の大国へと変わっていた。

 ロッソが小さくつぶやいたのが、聞こえたのかシャロが心配そう見つめ声をかける。


「どうしたの? おにいちゃん? なんか嫌なのか?」

「いや…… カネリアは勇者キースの故郷だから……」


 不安そうにつぶやくロッソだった。そうカネリア王国は勇者キースの出身国なのだ。王国は勇者キースを輩出した国として、優秀な人材が集まりわずか数年で大国へと変貌した。また、魔王軍が攻めてきたとしても、勇者キースが故郷を守るだろうという打算で人が集まった側面もある。


「そうなんだ…… ごめんね……」

「あっ!?」


 シャロがさみしそうな顔をしてうつむく。ハッとしてロッソはキースのことを口に出したのを後悔する。


「いや…… ごめんな。ちょっと気になっただけだよ。もうキース達と俺は関係ない」

「うん…… わかってるわよ。ありがとう」


 ロッソはせっかくのチャンスで、自分の事なんか気にしないで頑張ってほしく必死に平静を装う。うつむく彼女の肩に手をかける。シャロはロッソを向いて笑うのだった。シャロの笑顔に安堵するロッソだった。


「じゃあ、オーラオーラ公国に向かう準備を…… うん!?」

 

 何かに気づいたロッソは慌てた様子でシャロに尋ねる。


「シャロ!? 日付は大丈夫か? オーラオーラ公国はここから船をつかっても一ヵ月以上かかるぞ?」


 オーラオーラ王国はカネリア王国と同じジーリア大陸の南端にある。港はあるがアクアーラ王国との直通の船はないため、いくつかの港の経由しないと行けず時間がかかるのだ。


「へへ…… 大丈夫だよ」


 にっこりと笑ってシャロは手を後ろに回し、何かを背中に隠してもったいぶっている。


「じゃーん! 見て!」


 得意気な顔で手をだしたシャロ、彼女に手には長方形のチケットが握られていた。


「それは…… 定期航路の飛空艇のチケットか!」

「うん。これならオーラオーラ公国まで三日ででいけるわ

「おぉ! そういや魔王軍との戦争で中止されていた飛空艇の定期航路も復活したんだったな。いやぁ。本当にすごい! チケットを俺は初めてみるぞ」

「えへへ。すごいでしょ! 審査に招待した人たちにチケットを同封して配ってるみたいなのよ」

「本当か? すごい太っ腹だな。自腹で乗ったらみんなで甲板掃除しなきゃいけなくなるところだぜ」

「はははっ。そうだねぇ」


 シャロがロッソに見せたのは大陸間を飛ぶ飛空艇のチケットだ。飛空艇は魔法の力を溜めておける魔石を動力源としている空飛ぶ船だ。空を素早く飛行し船旅なら何か月もかかる、大陸間の移動を数日でできるのだ。

 魔王軍との戦争で、飛空艇が襲撃されることが多くなり、最近まで運用を中止されていた。ただ、中止になってもロッソたちのような庶民にはほとんど影響はない。なぜならこの飛空艇は数が少なく、船と比べものすごく料金が高く、主に利用するのは大商人や貴族でロッソのような庶民は利用できないのだ。

 ちなみに一回の飛行での料金は最安値で一人五百リロ、五百リロはシャロたち三人の二日分の出演料(ギャラ)と同じくらいだ。それにロッソたちが普段泊まっている宿の料金が、四人部屋で一泊だいたい高くても二十五リロくらいだ。つまり飛空艇に一回乗るのに、だいたい二十日分の宿代と、同じくらいの料金を支払うことになる。もし仮にロッソたちが自腹で、乗るとなると五人なので二千五百リロ、帰りもとなると五千リロかかる。

 ちなみにリロはアクアーラ王国の通貨だが、魔王討伐のために各国間での取引の円滑化のため、通貨のレートが決まっており国外でも使用することが可能だ。


「あっ! もう出番だわ。おにいちゃん! じゃあ出発の準備を忘れないでね。明日の朝早くここをでるから!」

「わかった」

「リーシャ! ミリア行くわよ!」


 控え室に向かってミリアとリーシャを呼び、シャロは三人で仕事に向かう。ロッソはグアルディアに指示をだす。


「グアルディア! 今日は俺一人で護衛するから宿に先に帰って引き払う準備をしといてくれ」

「うん! わかったよ」

「悪いな。頼んだぜ」


 ロッソに元気よく返事をし、グアルディアは宿の部屋へ向かい出発の準備をする。ふと前を向いたロッソにシャロたちの後ろ姿が見える。シャロは歩きながら二人に


「シャロはうれしそうだ。でも、審査に合格したらカネリア王国に…… あぁ! ダメだダメだ!」


 妹の夢を素直に応援できない、自分を振り払うようにロッソは首を横に振るのだった。

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