第64話 信じられない結末
舞台に姿を現したミリアはいつもと違う衣装を身にまとっていた。普段は聖都アクアリンドで、聖女に仕えていた時と同じ、白の神官服を着ているのミリアだが今日は違う。
今日ミリアが身にまとっているのは、深い青色の線が出る綺麗なドレスだった。ドレスは七分袖で袖の先に大きなフリルがついており、胸元はばっくりと深く開き下半身はぴったりとしたいわゆるマーメイドスカードで、裾の先端フリルが三つ重なり長さ足首を覆うほどだった。
観客はミリアの美しいドレス姿に見とれていた。
「へへ……」
ロッソはばっくりと開いた、ミリアの谷間とぴったりとした衣装の体の線を見てにやけていた。
「シャロ! 旦那しゃんがいやらしい顔してます」
「殴って良いわよ! グーで!」
「わかりました。殴るです」
「こら! 痛いから! グーはやめなさい」
リーシャがムスッとした顔で振り返り、ロッソが防具をつけない二の腕を殴ってくる。ロッソはリーシャの手を掴んで止める。ミリアはロッソたちに優しく微笑んで手を振っていた。
「はぁ…… ミリアは綺麗だな……」
椅子に座ってミリアがリュートを構えた。
静かにすこしだけ体を左右に振りながらミリアが演奏を始める。優しくどこか懐かしい音色が店内に響き渡たる。曲はさっきリーシャ歌った輝ける夜空の星だ。ざわついていた店内が静まりかえり、ミリアの音が店内をゆっくりと包み込んでいく。観客達はリーシャやシャロの時と違い、ミリアの音に耳を傾けて静かにうっとりとした表情をしていた。
「ミリアはやっぱりすごいな。でも……」
一人で演奏するミリアの姿は地味だった。二人の時と同じように、シャロの踊りとリーシャの歌とミリアの演奏が合わさったところを、一度でも見てしまうと一人の演奏はさみしくみえる。また、ロッソは二人の歌と踊りに合わせてるミリアは、もっと楽しそうにみえて音も洗練されているような気がした。
ミリアの演奏が終わり彼女は舞台を下りる。ミリアはリーシャの元に来ると彼女を連れて先に控え室に戻った。
いつものようにシャロは、客に終了の挨拶をしてから、ロッソと一緒に控え室に向かうのだった。
「今日は以上です。ありがとうございました!」
最後にシャロが舞台の中央に立って挨拶をして頭を下げた。シャロは嬉しそうに笑顔で引き上げていった。しかし、店内は騒然として客たちが驚いた顔をする。
「あれ!? 今日はみんなでやらねえのかよ…… まぁシャロの踊り見れたからいいけど」
「そうだよ!? 僕はリーシャちゃんの歌が聞けたからよかったけど…… 三人での演奏も楽しみしてたのに!」
「本当よね。ミリアさんのリュートが聞けたからいいけど…… 三人の演奏がないのは少しさみしいわね」
周囲から客の声はロッソにも聞こえいた。客はシャロたちの演奏をほめながら、どこか少し物足りなそうだった。その言葉を聞こえたのか、立ち止まったシャロは少し複雑な顔をするのだった。
「シャロ……」
控え室に入る時に軽く息を吐いて扉をあけると、元気よく中へと入っていった。中に入ったシャロは、ミリアを見つけると少しムッとした顔をして彼女の服をさして叫ぶ。
「ミリア! 何その綺麗なドレス! ずるいわよ!」
「そうです。ずるいです! 綺麗なお服をかくしてたです!」
「あらあら? 衣装を変えちゃいけないルールなんかありましたか?」
とぼけるミリアに二人が衣装のことで詰め寄るのだった。
「三人とも演奏が終わったばかりなのに元気だな……」
シャロとリーシャは悔しいのと同時に、ミリアが身にまとったドレスに興味があるようで、色々と話を聞いていた。
ロッソは三人の話をしているのを、横目に見ながらテーブルについてグアルディアを待つ。
しばらくすると扉が開いてグアルディアが部屋にはいってきた。投票箱を三人の前にあるテーブルの上に置いた。
「じゃあ、おにいちゃんとグアルディアちゃんが数えて!」
「わかったよ。じゃあいくよ」
投票箱を開け中身を全て机の上に置く。票は二十枚ほどで見られないように折りたたんであった。取り出した票をロッソが読み上げ、グアルディアがメモを取って集計する。
三人は立ち上がりグアルディアの後ろへ回り結果を見守っている。グアルディアは少しやりづらそうにしていた。
「じゃあ。始めるか。」
ロッソはテーブルに置かれた、投票用の紙を開けて中身を見た。
「はっ!? うそだろ…… これも! これも」
票の中を見たロッソは、慌てた様子で次々に票を開けていく。その様子を見たグアルディアがロッソに声をかける。
「ロッソ…… どうしたの? 早く投票を読み上げてよ」
困った顔でグアルディアを見るロッソ、読み上げてくれと言われても出来ないのだ。ロッソは票を一枚もってグアルディアに差し出す。
「これを見ろ!」
「えぇ!?」
驚いてグアルディアが声をあげた。票は全て白紙だったのだ。シャロたちもすぐに集まって来て、机の上に置かれた票を確認し困惑していた。
「ちょっと! どういうことよ! グアルディアちゃん! ちゃんと投票してもらったの?」
「うん…… みんなに説明したし…… お客さんは票をいれる時にはよろしくって僕に声をかけてくれたよ」
「そっか……」
テーブルに手をつき、シャロはうつむいて力なく声をだす。
「どうして…… みんな白紙で投票したんだ? 誰にも投票したくないのかな。はっ!? そうか!」
何かに気づいたロッソは、うつむいているシャロの肩に手を置き話だす。
「なぁ…… もしかしてお客さんはみんな一人じゃなくて、三人の演奏が聞きたいんじゃないか」
シャロとリーシャとミリアがハッという顔でロッソを向いた。
しばらく三人は難しい顔をして考えこんでいる。少しして急に顔をあげ、シャロが首を横に数回振り口を開いた。
「いやよ。勝負は勝負! こうなったら! 明日も同じようにして今度こそ決着をつけるわ。いいわね? ミリア、リーシャ!」
「おっおいシャロ……」
シャロが拳を握って力強く明日こそと叫ぶと、リーシャとミリアも力強く頷いた。グアルディアはシャロの言葉に少し疲れた顔をするのだった。ロッソはムキになっている妹に声をかける。
「本当に明日もやるのか? 勝負はやめて普通に話し合って決めた方が良いんじゃないかな?」
「ダメよ! おにいちゃんは黙ってて! これはあたしたちの問題なんだから!」
「なっ!? ちょっとシャロ! ロッソは君たちを心配してだね」
「いいよ。グアルディア…… ありがとう」
手をグアルディアの前にだしてロッソは彼を止めた。シャロはロッソの顔をみて不満そうに口をとがらせていた。
ロッソは演奏の仕事のことに護衛である自分が口をだすの良くないと思ったのだ。彼の仕事は三人が安心して演奏できるようにすることだけだ。演奏の内容については三人が納得するようにすればよい。例えそれが悪い結果になることがわかっていても……
少しの間、誰も発言せずに気まずい空気が流れていく。
「いいですかー? お邪魔しますね」
ゴルベが訪ねてきて控え室の扉をノックした。




