第60話 ボディガードなんてこんなもん
三人が入れ代わり立ち代わり出てきた、控え室の前の廊下は少し前までにぎやかだったが、三人が用事を終え中へ戻るとまた静かになった。ミリアをロッソが治療したことに、納得がいかなかったグアルディアがロッソに尋ねる。
「なぜ? ミリアに傷薬わたしたの? ミリアなら自分で治せるでしょ?」
「シャロの言った通りだよ? 彼女は魔法使いとしてここにいるんじゃない。演奏者としている。舞台の前に魔力を使わせて演奏に支障があったら大変だろ?」
「そういうものなの?」
「うん。俺たちは旅をしながら踊りと歌と音楽で人を楽しませるのが仕事だからな。おっと! 待て! そろそろ時間みたいだ。おーい。シャロ」
ゴルベが廊下を歩いてシャロたちがいる控え室に向かって来た。
店はすでに開店しており、シャロたちの出番が近くなったようだ。ロッソは控え室の扉をノックしシャロたちを呼ぶ。
控室から出て来た三人は、ゴルベにつられて酒場へと向かうのだった。ロッソとグアルディアは三人の後に続く。酒場に戻ったロッソとグアルディアは、舞台のすぐ横にあるカウンターの席に座って警備を開始した。
行ったり来たりして疲れたのか、グアルディアがため息をつく。
「はぁ…… ロッソはいつもこんな大変なことしてるの?」
「どこが大変だよ。シャロたちの方が大変だ。俺はただシャロたちが安心して踊りや演奏に集中できるようにしてるだけだ」
「うーん。なんかもっと護衛って盗賊や魔物から皆を守るものだと思ってた?」
「ははは、そんな派手なことは滅多にねえよ。俺たちは町と町を移動するだけだからな。町の外でも盗賊の情報を事前に入手できたら迂回してさけるしな」
ロッソは笑いながらグアルディアに答える。彼が以前に登録だけ行った、冒険者ギルドからどのあたりに山賊がいて治安が悪いとかの情報は手に入る。予め情報を持っていれば、山賊のコルツォーネのような山賊が暴れている場所を避けることができるのだ。
「まぁ、シャロがどうしても行くと言ったら山賊が居ようが行かなきゃいけないけどな」
シャロの踊りに視線を向けるロッソだった。グアルディアは彼の横で真面目な顔で考えていた。
「なるほど…… 踊り子の護衛もなかなか…… 奥が深いんだね」
酒が入ったグラスを傾けながらグアルディアはつぶやいた。そして彼もシャロたちの演奏を感慨深げに見つめるのだった。
「なにかっこつけてるんだよ…… あと勝手に人のグラスを使うな」
「あぁ! 何をするんだ」
ロッソは手を伸ばしグアルディアが持っていた、グラスを奪って掲げるようにして上にあげた。グアルディアは両手を上にあげて必死にグラスを奪い返そうとするが、身長差がかなりあるためロッソが伸ばした手に彼が届くはずはなかった。
「返せ!」
「これはゴルベさんが俺に出した酒だ。お前は自分の飲め」
ロッソはグラスと反対の手でグアルディアの前のテーブルを指さした。そこにはグラスに入ったミルクが置かれている。ちなみにロッソの故郷アクアーラ王国の法律では、飲酒可能年齢は成人となる十五歳からである。
「いやだよ。僕だって酒くらい飲めるんだからな。大人なんだぞ」
「今は子供だろうが! ややこしいことになるから大人しくそれを飲め!」
「クッ……」
悔しそうにロッソを睨みつけグアルディアは、自分の前に置かれたミルクが入ったグラスを持つのだった。
「おっ! そろそろみんなの出番が終わるな。この後がまた大変だぞ?」
「なに!? まだなにかあるの?」
大変だと笑顔で言うロッソに、顔をしかめるグアルディアだった。
「まぁ見てからのお楽しみだよ……」
シャロたちが舞台から下り、控え室への廊下へと向かう。ロッソはシャロたちに追いつき、一人ずつにタオルを渡し声をかける。
「お疲れ様! シャロ、リーシャ、ミリア!」
「ありがとう。おにいちゃん! さっ! じゃあ…… 晩御飯を食べよう!」
「お魚しゃんです」
「嫌よ魚なんて! 体力消耗したんだからケーキに決まってるじゃない」
「まぁシャロちゃん! ケーキはご飯になりませんよ。やはりお野菜を……」
「だからー! お魚しゃんです!」
三人が一斉にしゃべりだし、グアルディアは驚いた顔になる。
「わっわ!? なにこれ? 三人が喧嘩し始めたよ」
「うん。みんな好物がバラバラだから毎回こんな感じなんだ。特に演奏が終わった後は気がたってるからな」
グアルディアが三人の迫力に圧倒されて固まっていた。シャロが急にロッソに顔を向け叫ぶ。
「おにいちゃんは何がいい?」
「やっぱ肉だな」
「却下! グアルディアちゃんは?」
「僕も肉が良いな」
「よーしじゃあお肉にしよう! 今日はグアルディアちゃんが頑張ってたからご褒美だよ」
「おっおい! なんで俺の時はダメでグアルディアならいいんだよ!?」
「ふふん」
ロッソの言葉を鼻で笑って相手にしないシャロだった。
「まったく……」
この後、シャロの独断で決まった肉という、選択にミリアとリーシャが反発していた。三人はしばらく晩御飯を何にするかでもめるのだった。
「はぁ……」
グアルディアはもめる三人を見て大きくため息をついた。
「大変だろ? まぁ護衛なんてこんなもんだ」
「あぁ…… これは大変だね。覚悟しておくよ」
ロッソがグアルディアの肩に手を置いた。勇者の護衛と魔王の護衛だった二人の男たちは、目の前に起きている三人の平和な争いにあきれながらも楽しそうに笑うのだった。




