第55話 復活? 魔族の将軍
ドルボンの家へと入ったロッソ、すでにグアルディアの治療が始まっていた。シャロとリーシャとミリアが立って治療の様子を眺めていた。ロッソは静かに近づいてシャロたちの横に並んで声をかけた。
「シャロ、グアルディアはどうなった?」
「あっ! おにいちゃん! えっとね。ブラックミラージュ草をすりつぶして灰と混ぜてるとこ……」
「ふーん」
ドルボンに視線を移すロッソ、ドルボンは触手をつかい器用に瓶のふたを開けて、薄いお皿に入れてあるすりつぶしたブラックミラージュ草を瓶に入れていた。
ビンの蓋をしっかりと締めたドルボンは二本の触手で、蓋と瓶の底を抑えて瓶を振って中身を混ぜる。
「ブラックミラージュ草には魔族の体を再結成させる効果が…… よし! もういいかな」
灰とブラックミラージュ草を混ぜ、瓶を床に置くとドルボンは瓶の上に浮かぶ上がった。
「ほう……」
ドルボンの饅頭のような形をした体から、無数の触手がでてきて灰の入った瓶に絡まっていく。触手はビンにからまりながら、蓋を開けて中の灰を床に出した。床にまかれた灰を触手が今度はこねる。とても治療とは思えない光景にロッソは少し心配になっていく。
「旦那しゃん! ドルボンしゃんがグアルグアルしゃんを混ぜてるです!」
「うん…… ドルボン。大丈夫なんだろうな?」
「ふふふ…… 心配しなくても大丈夫ですよ。僕ら殺人クラゲは触手の先から魔法がでるんです。普通は毒の魔法とかですが医者の僕は回復魔法を使えるんですよ」
ロッソの問いかけ自信満々にドルボンが答えている。ドルボンの体の下で無数の触手が絡まって丸まりうごめいている。しばらくすると、ドルボンの触手が膨らんで丸みをおびてくる。
「うぅ…… はっ! ドルボン! ちょっと! やめてよ…… そこ……」
「この声はグアルディア…… でも…… 少し幼い感じが……」
触手の中からロッソが、魔王城やアクアリンドで聞いたグアルディアの声がした。だが、ロッソは聞こえた声が高く幼い少年のような声になっていた。さらに触手の動きが激しくなり治療が進んでいくと……
「あはん! こら! やめてって! ドルボン! なんで!? 君はいつも…… おっお尻に手を…… あぁん! だからやめてって! くすぐったいよ!」
「暴れるなよ! しょうがないだろ! それにこれは手じゃなくて触手! 肉体を蘇生させて内部を形成するには体内に触手を入れておかないといけないの!」
「だったら口で良いじゃん!? こら! アン! 急に動かさないで…… あひぃ! あはん。ダメだって!」
「口に入れたら息できないよ。フフ…… なんせ僕の触手は太いからね。それにね僕だっていやだよ。でも、治療なんだから! 我慢してよ…… ぐへへ」
「やめてーー! そっそこは…… だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
必死な様子のグアルディアの声が部屋に響く。
「何してるんだよ…… お前ら…… しかもドルボンはなんか楽しんでないか……」
冷めた目でドルボンの治療を見つめるロッソだった。
ちなみにドルボンに性別はなく、殺人クラゲは状況に応じてメスにもオスにも変化するのだ。
「あひぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!! やめっやめてー!!!!!!!!! そこを…… いじられると…… だめ!!!! なっなんかおかしくなる!!!!」
「まだまだ! もっとよくしてやるよ!!! はははっーーーー!!!」
うねうねと動く触手の中からグアルディアの苦しそうでもあり、快楽におぼれているようなどっちともつかない声が聞こえていた。ドルボンは嬉しそうに触手を動かしている。
「本当に治療なのか……」
ロッソはあきれシャロは苦い顔してミリアは黙って、そっとリーシャの耳をふさぐのだった。
「はぁはぁ…… もっもうすぐだよ…… グアルディア! いっ! いくよ!!!!!!!!!!」
「まっ待て! なんか来る!? ダメ! ダメ! ダメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
グアルディアとドルボンの声が響くポンという何かが勢いよく抜ける音がして、褐色の塊がドルボンの触手の中から出てきて床に落ちた。
「何をしてるんだが…… 魔物がやる魔族の治療ってみんなこうなのか? なんかドルボンの趣味なだけな気がするが…… だいたいグアルディアも仮にも将軍なのに治療くらいで情けない声だすなよ」
ロッソは地面に落ちた褐色の塊を見て、額に手を置いて小さく首を横に振るのだった。
「ふぅ…… すっきり!!! 治療完了だよ!」
「お前…… すっきりって……」
ドルボンはてかてかと光り、床に落ちた塊へと飛んでいく。床に落ちた褐色の塊は、白いドロドロの液体に覆われて形がよく見えない。ロッソはドルボンに続いて塊に近づく。
「なんだ!? これ? グアルディア…… なのか!?」
褐色の塊は、丸まった人型の何かで、何回かビクンビクンと痙攣していた。
「はぁはぁ…… ドルボンめぇ…… よくも…… 僕の操を……」
グアルディアの声がして褐色の塊が、手足を伸ばしてゆっくりと起き上がった。塊はグアルディアだった。彼は口から垂れる白い液体を拭ってドルボンを睨みつけるグアルディアだった。
「やっぱり、この塊がグアルディアなんだな…… でも……」
ロッソは立ち上がったグアルディアを見てジッと見つめている。
「見てください!グアルグアルしゃん小っちゃいです」
「本当だ! かわいいね」
「うん…… お前誰だよ!? グアルディアじゃねえだろ……」
起き上がったグアルディアは、褐色の肌にクリっとした丸い紫の目をして口から八重歯がのぞく、十歳くらいのかわいらしい少年の姿になっていた。肩くらい長さをした銀色のサラサラヘアで、前髪の一部が左目にかかっている。耳は先端が細長くなり尖っていて頭の左右に小さい二本の角を生やしている。親子なので当然なのだが、体の色といい髪色といいナディアにそっくりだった。
グアルディアは裸だから男だってすぐわかるけど、見た目がナディアそっくりだけなので少女でも通用しそうだ。
「はぁあ!? 何を言うんだ! ロッソ!」
「何をくそもよくてめえの体を見てみろよ」
「へっ!? なっなんだこれ!?」
下を向いたグアルディアは、自分の体みて顔を触って慌てている。ロッソはさらにシャロが持っている手鏡をグアルディアに渡す。渡された鏡を覗いたグアルディアは、目を大きく開いて驚愕した表情に変わった。姿が変わり骸骨の時は出なかった表情が、出るようになったグアルディアはロッソを睨みつける。
「ロッソ! もう…… どういうつもり!? なんだよ。これ!」
「えっ!? 俺が知るかよ。おいドルボン! なんでグアルディアが人間の姿になったんだ?」
「うーん…… 多分体に魔族封じの呪いを掛けられてるんじゃないかな? 呪いで魔族の力が減少してた上に、祈りを込めたアルティミシアの聖なる力の影響を受けたんだろう。それでうまく再生できずに小さくて姿を変えたんだと思う」
「魔封じの呪い!? 君がそんなことを……」
ドルボンの答えにグアルディアがミリアを睨みつける。聖都アクアリンドで自分を灰にしたミリアの魔法が原因だとグアルディアは思ったのだ。
「そっそんな!? わたくしは魔族封じの呪いを込めた魔法なんて使えませんよ」
「あぁ。ミリアは魔法使いではあるが呪いに詳しくはねえな」
「じゃあ誰なんだよ!!!」
ロッソは心当たりが一人いる。彼らの仲間だった人間で呪い詳しいのは一人しかいない。
「ミリアを操った時に呪いをかけたんだ…… ジェリスがな」
ジェリスはアンナの弟でキースの偉大なる四人の一人だ。魔法文字や魔法書に詳しくカードを使用する。彼は魔法の他に呪いや毒などの知識に長けていた。
「ジェリス…… あのキースの横にいたガキか……」
「ガキって今はお前の方ががきだけどな」
「うっうるさい!!」
「おっと」
「クっ! クソ!!」
悔しそうにグアルディアは両手をあげロッソに向かって行く。ロッソは笑いながら腕を伸ばし、グアルディアの額を手で押さえ止めた。二メートル近いロッソと子供のグアルディアの体格差は歴然でグアルディアが必死に腕を伸ばしてもロッソに届かない。グアルディアはロッソに停められる屈辱に耐えきれずすぐに離れるのだった。ロッソから離れたグアルディアはドルボンの元へ向かう。
「ドルボン! どうやったら? この呪いは解ける?」
「それは僕にもわからない。呪いをかけて人間に聞くしかないよ」
「そうか……」
グアルディアは深刻な表情で考えている。
「うん!?」
ミリアがうつむいてグアルディアから顔をそらした。おそらく彼女は、グアルディアに魔法で殺そうとしたことをまだ気にしているのだろう…… 小さく消えそうな声でミリアはグアルディアに声をかける。
「あっあの…… グアルディアさん…… 前を隠してください…… わたくし……」
「ブラブラしてるです!」
「えっ!? わっわっ!? 恥ずかしい…… ドルボン! 服をかして」
「人間の服なんかないよ。そこの棚にモンスターを温める用に毛皮があるからそれをつけなよ」
顔を真っ赤にしてミリアは顔を背けた。彼女はグアルディアの裸を見るのが恥ずかしく、目をそらしてただけだった。
「確かにそんな粗末な物をずっとさらされても気分のいいもんじゃないから早くしまえよ」
「うるさいぞ! ロッソ!」
グアルディアはドルボンが指さした、近くの棚に毛皮を取りにロッソたちに背を向けた。そのまま棚の前まで歩き置いてあった毛皮を取った。リーシャがグアルディアに駆け寄っていく。
「旦那しゃん! 見てください! お尻にリーシャ達と一緒の三角があるです!」
「わっ!? リーシャって言ったっけ? やだ! やめて!」
リーシャが腰に毛皮をまこうとした、グアルディアの両手をつかんで止めて、彼の尻の辺りジッと指さしロッソを呼ぶ。慌ててシャロがリーシャを止める。
「こらリーシャ! やめなさい。グアルディアちゃんが恥ずかしがっているでしょ!」
「でも! 見てください。リーシャたちと一緒です」
「あっほんとだ! みてみておにいちゃん!」
「なんだよ。魔族の尻に何が…… あれ!? 本当だ?」
ロッソとシャロがグアルディアに近づいてリーシャが指しているところ見る。リーシャの言った通りグアルディアの腰あたりに、シャロたちと同じ三角形のアザがあるのが見えた。
「ミリアも見てください! ほらほら」
「あの…… リーシャちゃん…… いいから服を着せてあげてグアルディアさん泣きそうよ……」
「やめてったら…… 早くはなして…… グスン……」
「あっ! 悪い悪い。ほらリーシャわかったからとりあえず着替えさせてやれ」
「わかったです」
リーシャの手をほどいてロッソは、グアルディアを解放するのだった。
恥ずかしそうに腰に毛皮を巻くグアルディアは、なぜか毛皮を着るまでロッソを睨み付けていたのだった。
「しかし…… あのアザは…… 同じようなアザが、シャロには首の裏、リーシャは右胸、ミリアは左胸にある…… なんか変なの」
ロッソは着替えるグアルディアを不思議そうに見つめるのだった。
ドルボンから体が再生したので、もう問題ないとお墨付きが出た。ロッソたちは小さくなったグアルディアを連れてメディナの家へ向かうのであった。




