第52話 洞窟で見つけたもの
ゴツゴツした岩の間にある、高さ二メートル幅五メートルくらいの洞窟の入り口にロッソたちは立つ。ナディアからの情報によると、ブラックミラージュ草はこの洞窟の奥に生えている。
入り口の横に松明が掲げられ、中を岩の壁と地面をうっすらと照らしている。ロッソはシャロと旅に出る際に、エルシアンで買ったランタンに火を灯し腰に着けた。
「ふふ…… さすが新型ランタンだ。本体にフックがあるから、手持ちの他にベルトにひっかけることができる。 両手で武器を扱う場面の多い俺にはなんと便利なアイテムだな」
にやにやと気味悪く笑いながら腰に付けた、ランタンに軽く撫でるように触れるロッソだった。
ちなみにシャロに内緒で買っててバレた際に、冒険するわけじゃないんだから無駄使いだときつく叱られていた。
洞窟内にハイグレードオークの気配はないが、ロッソは念のため守護者大剣を右手に持って洞窟へ入っていく。
洞窟は入ってからからなだらかな下り坂で、地下へと徐々にさがっていく。硬い岩からすぐに湿った地面へと変わる。
「意外と普通に歩けるんだな。もっと道が悪いと思ってたし灯りも……」
周囲を視線を向けつぶやくロッソだった。洞窟内の道は広く明かりもところどころに松明が置かれており、ランタン無しでも歩けるほどだった。おそらくジャハル村の人たちが薬草採取などのために整備していたのだろう。
「あれ!? 道が分かれている…… ナディア! ブラックミラージュ草が生えてる場所を知ってる?」
「うんとね…… あっち!」
「ありがとう」
道が左右に分かろりロッソがナディアに尋ねる。少し考えて彼女は右の方向を指さす。
「うん!?」
さっきまで明るかったナディアは顔が引きつりロッソをジッと見つめている。洞窟の外では彼女は、こっちだよって言って一人で先に行ってしまったが、ここでは動かずロッソが移動するのを待っているようだ。
首をかしげたロッソがナディアに声をかける。
「ナディアどうした? なんかいるのか? もしかして怖いとか?」
「違うもん! 怖くないもん! 暗いの怖くないもん!」
必死に首を振って目に涙を溜めるナディア、どうやら彼女は暗闇が怖いようだ。ナディアが指さした右の道の先は松明が離れた場所にあるようで真っ暗になっている。闇の力を欲する魔族の彼女が、暗闇を怖がる姿が面白く、ロッソは吹き出しそうなるのをこらえてシャロに指示をする。
「ふっ…… シャロ! ナディアが暗いの怖いらしいから一緒に居てやってくれ」
「わかったわ。ナディア、ほらリーシャと一緒につないであげるからこっちおいで」
「うー! イーだ! ロッソ嫌い!」
眉間にシワを寄せてナディアがロッソに向かい、イーって歯をむき出しにしたあと、シャロと手をつないで嫌いと叫んでいた。
「はぁ…… 本当に見た目は大人なのに子供なんだな。リーシャと一緒だよ……」
首を横に振りため息をついてロッソは洞窟の奥へと向かうのだった。
しばらく行くと狭い洞窟の道から開けた空間に出た。町の広場ほどの大きさの空間は、湿った地面に岩の壁で囲まれていた。
「あれ!? 明るい…… そうか! 天井から日が差してるのか」
高い天井には時折突き出した、岩の隙間からところどころに日が差していた。地面に日が差したところが照らされてそこに黒色の草が生えている。
「あっ!!」
「ちょっとナディア! 待って!」
ナディアがその草を見て嬉しそうにかけていく。ロッソたちは彼女を追いかけ、草の近くでしゃがんだナディアに声をかける。
「それがブラックミラージュ草なのか?」
「うん! そうだよ! いっぱい取って帰らないと! リーシャ、シャロ、ミリア! 手伝って!」
「わかった! 行くよ! リーシャ!」
「行くです」
「あらあら、待ってください。ロッソ! 申し訳ないですけど入り口の警戒をお願いします」
「わかった。ミリアも三人のこと頼む。なんかあったらすぐに呼べよ」
ミリアはほほ笑んでうなずくと、三人を連れてブラックミラージュ草を採取しにむかう。ロッソは広い空間の入り口でハイグレードオークの生き残りがこないか警戒をしていた。
シャロたちがブラックミラージュ草を採取し、始めて十五分ほど時間がすぎた。グアルディアを治すのに必要なブラックミラージュ草は数本だが、今回みたいなことがドルボンから多めに採取するように依頼されており時間がかかる。
「ロッソ! こちらへ来てください」
慌てた感じでロッソを呼びながら駆けて来た。
「どっどうした? ハイグレードオークが現れたか?」
振り返ったロッソの五メートルほど先に、顔色が悪く真っ青になったミリアが立っていた。ロッソは彼女の腰部を見てすぐに駆け寄って声をかけたのだった。
「いえ!? いいから来てください…… 早く!」
「えっ!? ちょっと待って! ミリア!?」
首を横に振りミリアはロッソの腕をつかんで引っ張ると、洞窟の広い空間の入り口から反対側へと連れて行く。空間の反対側には広い空間の壁に穴が開いてさらに空間が出来ているのが見える。縦五メートルほど、横は十メートルほどの穴で奥行きはかなり広くロッソたちがいる正面からは奥に何があるか確認はできない。
「あれは……」
目の前にシャロとリーシャとナディアが並んで立っている。後ろ姿しかわからないが三人ともなにかに怯えているように見えた。三人のそばにきたロッソは声をかける。
「どうしたの!? シャロ!? リーシャ?」
「おにいちゃん! これを見て!」
「旦那しゃん…… ひどいです」
「うぅ…… ひどいよう誰がこんなことを……」
「えっ!? 何これ!? 耳が尖って角が生えてる…… 魔族だな!?」
薄暗く小さい空間の壁に、両手両足を縛り付けられた裸の二十人くらいの魔族の女性たちが居た。地面には魔族特有の赤紫色の血が流れところどころで水たまりのようになっていた。
「まさかハイグレードオークがやったのか」
魔族たちが縛り上げられた光景を見つめるロッソ、歴戦の強者である彼でもこのような異様な光景は見たことがなかった。
「ひどい…… みんな魔族の女のひとだよね?」
シャロが横にたつミリアにたずねる。ミリアは魔族たちから視線を外すようにしてシャロに向かってうなずく。
「はい…… 一体だれがこんなことを」
「あたし! ママを呼んで来る……」
走り出そうとしたナディアをロッソが止める。
「待て! まず俺が様子を見てくる。ミリア…… みんなを少し遠ざけておいてくれ」
「はっはい。ほらみんなここはロッソに任せましょう」
ミリアが三人を連れて離れて行く。シャロとリーシャ心配そうにロッソ方を何度か振り返っていた。
「大丈夫だ。大人しくミリアと一緒にいてくれよ」
シャロとリーシャの背中に声をかけるロッソだった。彼は二十メートルほどシャロたちが離れるのを確認すると、守護者大剣を構えてゆっくりと魔族たちの中へと入っていくのだった。




