第51話 遭遇! ハイグレードオーク
翌日、朝早くナディアとともにロッソたちは、ブラックミラージュ草が生える洞窟へと向かった。人が二人ほどが並んで歩くのがやっとの道を歩き、うすぐらい黒霧の森の奥深くへとやってきた。
ナディアが先頭を行き並ぶようにして少し後ろを歩くロッソ、その後に並んでシャロとリーシャが続き、最後尾はミリアの順で森の道を進む。
「うーん」
ロッソの横で時折がナディアが首をかしげて考えており、ロッソは道に迷っていないかと不安そうに彼女を見つめる。
「えっと…… あの木があそこにあって…… うん! 大丈夫だよ! もうすぐ洞窟だよ!」
「ちょっと! ナディア!? 走っちゃダメ!」
急にナディアが駆けだした。ロッソは慌てて彼女の後を追いかけていく。駆け出して足音が大きいナディア、ロッソは早く止めないとハイグレードオークと呼ばれる、得体の知れない何かに気づかれると思い彼女に追いつくろ必死に手を伸ばした。
「はっ!」
「えっ!? ロッソ!? なにするの?」
ロッソはナディアの手首を掴んで止めた。振り返って不満そうにするナディアにロッソは強く注意する。
「ナディア! 静かにしろ。ハイグレードオークに見つかるぞ!」
「あっ! そうだった…… ごめんなさーい。でも、もう洞窟についたよ」
「えっ!? 本当だ……」
ナディアが指をさして笑う。彼女が指した先は道から少し外れた、木々の先になだらかな斜面の上に大きな岩山だ。その岩山の麓に大きな穴が開いているのが見える。
「あの大きな岩山の麓にあるのががブラックミラージュ草が生えてる洞窟なの?」
「うん! そうだよ。あそこの洞窟だよ!」
嬉しそうに頷いてナディアが答える。
「じゃあ…… シャロ達を待たないとな」
ナディアと追いかけたことで二人はシャロたちと少し離れてしまった。待っていると離れていたシャロたちがおいついて来る。リーシャとシャロは不満そげにロッソを見ている。
「もう…… ナディアとおにいちゃん先に行っちゃうんだもんひどいよ。ねぇ?」
「そうです! 旦那しゃん! リーシャを置いてっちゃダメです」
「リーシャちゃんもシャロちゃんもあんまり怒らないの」
「ごめんな。シャロ、リーシャ」
プクッと頬を膨らませたリーシャに怒られたロッソは二人に謝る。ミリアは二人をなだめているのだった。
ずっと頬を膨らませているリーシャの頭をロッソが優しく撫でる。彼女は気持ち良さそうに耳を傾けて機嫌よく尻尾を振りだした。機嫌が直ったようだ。笑ったロッソはリーシャの頭から手を離し洞窟を指さした。
「ここからは俺が先行する。シャロとリーシャとナディアは一緒にいてミリアから離れるなよ」
「わかったわ。おにいちゃんも気を付けてね」
「あぁ。大丈夫だ」
ロッソは背負っている守護者大剣に手をかけて慎重に洞窟へと近づく。
少し離れてシャロたちが彼の後に続く。斜面の上にある洞窟が近づくと、徐々に木がすくなくなっていく。正面からではなく回り込み横からゆっくりと洞窟に近づいていく。ハイグレードオークと言われた化け物はまだ出てこない。
「うん!?」
慎重に草や岩などに身を隠しながらロッソは、洞窟の前が見えるところに来た。洞窟の前にたき火の後と木箱やテントが置いてあるが見えロッソは足を止めた。誰かが野営をしているようだ。
「あれが…… モンスターでも人間でも魔族でもない存在ハイグレードオークか……」
野営のテントの前には、三体のハイグレードオークが座っている。何を話しているのか聞き取れないが笑って楽しそうに談笑しているようだった。
ハイグレードオークはオークのようなごつく筋肉質の紫色の体に、腰に獣皮を巻いて座っている足元の地面には石で出来た槍が置いてあった。綺麗な金色髪に目は青い色の瞳をして目元は人間に近く端正な顔をしているが、鼻は豚みたいで下あごから牙が生えている。耳はながく先端が尖り頭の上には二本の角が生えていた。
ハイグレードオークを監視しながらロッソは振り返り、少し離れた場所にいたシャロたちを手招きして呼び寄せる。ロッソの横に来たシャロたちも身をかがめ、ハイグレードオークを物珍しそうに覗く。
「おにいちゃんどうするの?」
ロッソの隣にしゃがんで、ハイグレードオークを見ていたシャロが、顔を横に向け彼に問いかける。
「どうするってもなぁ。あまり戦いたくはないが…… 洞窟に行くにはあいつらの前を行くしかない。近づいて攻撃されたやるよ」
「大丈夫? 勝てそう?」
「さぁな。得体の知れない相手だからな。みんなはここから動くなよ。ミリア、シャロたちを頼む」
「はい。お任せください」
シャロたちをミリアに託し、ロッソは守護者大剣に手をかけてゆっくりとハイグレードオークたちに近づいていく。ふと彼が元いた場所を見ると心配そうな顔でシャロとリーシャ見つめていた。
「確かに異質な存在だけど…… 大丈夫だ。俺は…… 元勇者の仲間なんだからな」
ハイグレードオークたちは下をむき、何かをみているようでロッソが近づくのに気が付いてない。
「あっあの!?」
「がうぁ?! がーーーー!」
「えっ!? いきなりかよ! 好戦的なやつらだな」
ロッソが十メートルくらい手前で声をかけると、ハイグレードオークは叫びながら地面に置いてあった槍を拾って構えて彼に向けてきた。
「おっと!」
一体のハイグレードオークが構えた槍でロッソを突く。とっさに右足を引いて半身になってロッソは槍をかわす。彼の横をハイグレードオークの槍が通過していく。
「意外と速い…… まぁでも。アンナに比べればまだまだだけどな」
右足を前にだし槍で突いてきたハイグレードオークの横に周り込みながらロッソは、右手で大剣のグリップを握って抜刀しながら首を斬りつけた。
「がっは!!!!!!!!!!!!!」
柔らかい感触が大剣を腰にロッソの手に伝わり、目の前が赤い水が吹き出した噴水のように見える。赤い血を噴き出しながらハイグレードオークの首のない体が膝をついた。
「がぅあーーーー!」
「おっと!」
仲間がやられて興奮したのか、叫び声をあげながら近くにいたハイグレードオークが槍を振りかぶり、ロッソの頭へめがけ叩きつけてきた。
振り下ろされた石の槍をロッソは簡単に大剣で受け止めた。彼の手に剣を通して重たい手応え感じる。
「なるほどけっこう力も強いんだな。でも…… これもまだまだだ」
両手で大剣のグリップを持ったロッソは、受け止めたハイグレードオークの石の槍を押し返した。
「うがあああ!?」
彼の力に押し負けたハイグレードオークは、両手をあげて三歩ほど後ろに下がり体勢を崩される。
「もらった!」
腰を落としてロッソは、剣先をハイグレードオークに向けると素早く突き出す。がら空きとなったハイグレードオークの腹を大剣が貫通する。
「うがあああああああああああ!?!?!?!?!?!!!!!!!!!!!!!」
岩山にハイグレードオークの悲鳴が響く。ハイグレードオークの腹から飛び散った数滴の血がロッソの目の前を飛んでいた。
左を前にだしハイグレードオークの胸を押し右手を引くロッソだった。ハイグレードオークの腹から大剣が抜けていく。引き抜かれた守護者大剣の白い刀身には血がつき抜く時に伸ばされてかすれていた。
「がーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「なっなんだ!?」
最後に残ったハイグレードオークが手を前にだして叫ぶ。叫び声とハイグレードオークの右手に赤い光が集約していく。
「こいつ…… 魔法を使おうをしてるのか!? チッ!」
ハイグレードオークはロッソへ右手を向けた。赤い光がうねって炎の玉へと変わっていく。
大剣を体の横へともっていき構えロッソは前に出た。彼は手を前に出して魔法を唱えようとしてるハイグレードオークとの距離を一気につめていく。
「遅い!」
ロッソはハイグレードオークの前に出した、手を横から大剣で斬りつけた。バシュっと音がして、ハイグレードオークの右肘から先の腕が回転しながら空中を舞った。
ハイグレードオークは苦痛の表情を浮かべ、残った左手で右手首を押さえて膝をついた。すれ違うようにしてロッソはハイグレードオークの背後に回り、彼は大剣を返すと膝まずき右腕を抑えるハイグレードオークの背中を大剣で斬りつける。斜めに振り下ろされたロッソの大剣は、ハイグレードオークの左肩から右のわき腹にかけてを切り裂いていった。
グシャと音がしてロッソに大剣から硬い骨を砕く感触が伝わる。ロッソが大剣を振り切ると、背中をそらしてハイグレードオークが前のめりに倒れて動かなかくなるのだった。
「ふぅ…… もういいぞ」
守護者大剣を背中にしまったロッソは、シャロたちにこっちに来るように手招きをする。
「うん!? 何だこれ?」
ロッソはハイグレードオークが座っていた場所に、一冊の本が置かれているのに気づいた。
「これは…… 軍隊で使ってた教練書みたいなものか」
本を拾い上げて中を確認するロッソ、そこには武器の作り方や毛皮の加工の仕方等がかかれていた。ページの最後の方には魔法の習得方法まで記載されていた。
「こいつら…… この本を見て腰巻も石の槍も自分たちで作ったのか。すげえな」
ハイグレードオークの死体を見てつぶやくロッソ。彼らの身体能力が高く、槍の扱いもそれなりにできていた。本の内容からおそらく彼らは誰かに教わったのではなく、本を見て独自に魔法や槍の扱い方を学んだのだろう。彼らと戦ったロッソは、動きも魔法も未熟だったが、高い戦闘能力と学習能力を有しているのを感じ取っていた。同時に胸の奥が不気味にざわめくのも感じていた。
「なんなんだこいつら……」
深刻そうにつぶやきロッソはしばらく拾った本を眺めていた。
「おにいちゃん? どうしたの? その本がなにか?」
「なっ何でもないよ。洞窟に行こうか」
「うん!」
シャロが心配そうに声をかけてきた。ロッソはとっさに本を鞄にしまって洞窟へと向かうのであった。




