第48話 洞窟に巣食うもの
「おっおい!? 魔物でも人間でもモンスターでもない奴らってなんだよ?」
「あたしだって知らないよ。体は魔物みたいに頑丈で、魔族と人間を掛け合わせた姿をして自分たちで武器を作ってるみたいなんだよ……」
「なんだよそれ!? 三つの種族の特徴を全部持ってるのかよ……」
「あぁ…… それにね」
真顔で小さくうなずいた、メディナが洞窟にいる正体不明の生物について説明する。
洞窟に現れた謎の生物は体は人型で、オークのような屈強で体色は緑色、髪はエルフのように輝く金髪で耳の先端は尖って額から角が生えた顔つきは人間に近いという。
「奴らをあたしたちはハイグレードオークって呼んでる」
「ハイグレードオークか…… 厄介そうだな…… うん!?」
ロッソはハッとして何かに気づいた。魔族と人間の特徴を持つのであれば知性があるはずだ。
「対話をしてブラックミラージュ草を分けてもらえば……」
「無駄だよ。この間あたしが洞窟に話をしようとしたら警告もなく矢を放ってきた。言葉は通じてるみたいだけど…… まったく聞いちゃいなよ」
「そうですか。言葉が通じてもいきなり矢を放ってくるなんてそれじゃ対話は無理だな…… しかし奴らの目的は……」
「しかもやたら強くてね。あたしも逃げるのがやっとだったよ。せめてうちの亭主が無事なら討伐もできるんだけどねぇ……」
腕を組んで難しい顔をするロッソだった。話し合いもできないとなると、洞窟にこっそりと近づいて取りにいくしかないが正体不明の敵と対峙するのは危険だ。手をあごに置いて考えていたメディナが、軽く息を吐いて口を開いた。
「ふう。もうしょうがないね。いつまでいるかわからないけど、あいつらがどくまで待つしかないかもね」
「いや…… メディナ…… すまんがそれは無理だ。残念なことにこの灰は後二週間くらいしかグアルディアの魂を維持できない」
「えっ!? なんでだい!?」
「魂を閉じ込めたアルティミシアが人間でグアルディアが拒否反応を示してるからな」
ドルボンが申し訳なさそうに答える。メディナが少しだけ悲しそうな表情をする。
「すまん…… こんなことになるならブラックミラージュ草を村で栽培するようにすればよかった……」
「いや…… 別にあんたのせいじゃないよ。まさか村の近くの洞窟があんなのに占拠されるなんてあたしも思わなかったし……」
メディナが悔しそうに唇をかみしめていた。散々文句を言っていても、メディナは夫であるグアルディアが心配なのだ。
「なに!?」
シャロがロッソの腕を引っ張った。振り返ったロッソの顔を、笑顔のシャロが上目遣いで覗き込ん来た。
「おにいちゃん! あたしたちがそのブラックミラージュ草を取ってくればいいんだよ」
「シャロ!? 何を急に言い出すんだ? 相手は得体の知れない奴らなんだぞ!」
「じゃあ、グアルディアを見捨てるの?」
「見捨てるって…… 俺はあいつの仲間でもないんだぞ。元々は敵同士だ」
笑顔から急にシャロは悲しそうな表情に変わる。複雑な表情をするロッソ、そもそも彼とグアルディアは仲間でもなく、魔族と人間で戦った間柄だ。ロッソが悩んでいるとリーシャが元気よく声をあげた。
「ならリーシャも一緒に行ってあげるです。だからグアルグアルしゃん助けるですよ。旦那しゃん!」
「えっ!? リーシャもか!? うーん…… ミリアは?」
ロッソはミリアに尋ねる。彼女は少し黙って考えた後、真剣な表情をしてゆっくりと口を開いた。
「わたくしは…… やります。だって…… 彼は操られていたとはいえわたくしが…… だからロッソもわたくしと一緒に来てください」
「そうか…… わかった。ブラックミラージュ草を取りに行こうか!」
「あは! うれしい! やっぱりロッソは素敵です」
「えっ!? あっ! うん! 頑張る! 俺!」
両手を広げてミリアが、ロッソの大きな体に抱き着いてきた。ミリアはロッソをギュッと優しく抱きしめる。彼女の大きな胸の心地よい感触がロッソの腹に伝わり彼の表情はゆるんでいく。
「こら! ミリア! あんた何どさくさにまぎれておにいちゃんに抱き着いてるの!」
「シャロの言う通りです。離れるです! ミリアはずるいです」
ロッソに抱き着いたミリアを、シャロとリーシャが二人がかりでロッソから強引に離す。離れたミリアは少し寂しそうに手を伸ばして、眼鏡の奥の瞳を潤ませてロッソを見ていた。健気なミリアがかわいくロッソも手を伸ばそうと……
「じー……」
「うっ!?」
シャロが鋭い目でロッソを睨み、彼は名残惜しそうに手を引く。リーシャはほおをプクっと膨らませ不機嫌そうにミリアを見つめていた。
「だいたい何がわたくしと一緒よ。四人みんなで行くのよ! ねぇ!? リーシャ!」
「そうです。みんなで行くですよ! ねぇ? 旦那しゃん」
「えっ!?」
シャロとリーシャがロッソに顔を近づける。二人は村に残って留守番しててもらいたいのがロッソの本音だが、残していったとしても結局ついてくるだろう。であれば手元に置いておくのが安全だ。
「わかった。みんなで行くぞ」
「行くです」
「いきますわ」
「まぁ! あたしが行くっていった時点でおにいちゃんに発言権はないんだけどね」
「うるさいな。だったら俺に聞くなよ…… まったく」
ロッソの横で腕を組んでシャロは、彼に顔を向けて明るく笑っていた。ロッソたちのやり取りをメディナは不思議そうな顔をして見つめていた。
「メディナさん。ブラックミラージュ草は俺たちが取りに行く」
「えぇ!? 本当かい? でも危ないよ」
「大丈夫だ。それにグアルディアは俺たちのせいで灰になったんだからな」
メディナはロッソの顔をジッと見つめ、しばらく難しい顔をして考えていた。
「ふぅ…… 亭主と同じまっすぐな瞳だね…… まったくみんなに迷惑かけてダメ亭主なんだから…… わかった。行っといで!」
急にメディナの口元が緩み笑顔で、ロッソたちがブラックミラージュ草を取りに行くことを許可するのだった。
「ありがとう」
「後、あたしも一緒に行くからね。前は油断したが今度はぶん殴ってやるんだから!」
右手で拳を握り、気合のこもった様子で体の前で左手の手のひらを叩くメディナだった。彼女の顔は復讐に燃えていた。しかし……
「イテテ」
気合が入った表情をしていた、メディナは急に眉をゆがませ、腰に手をまわし痛そうにてさすっている。
メディナの姿にドルボンが呆れたような声で話しかける。
「ダメだよ。修理中の屋根から落っこちて腰打ってるからまだ暴れちゃダメって言っただろ」
「何言ってるんだい。こんなの……」
「それに来週から村の畑の種まきだから準備で、村の水路の様子を見ないといけないんだろ?」
「えぇ…… それは他のやつにやらせるよ」
「他の人って村長の仕事はメディナにしかできないよ。だいたいさハイグレードオークに負けたのも腰痛のせいなんだから無理しないの!」
触手を両手のようにあげてドルボンがメディナを注意しいてる。注意されたメディナはしょげてしょんぼりとしてうつむくのだった。
「うぅ…… じゃあ! うちの娘に洞窟まで道案内させるよ。ロッソ! 家においで!」
「えぇ!? 娘って…… 良いんですか? 危ないですよ?」
「あたしとグアルディアの娘だよ。そこら辺の人間より強いから大丈夫だよ。じゃあドルボン! 邪魔したね」
「あぁ。待って。じゃあドルボン! ありがとう」
笑いながらメディナが部屋から出ていく。ロッソたちはドルボンに礼を言いメディナの後についていくのであった。




