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勇者を守った男は成り下がり少女を守る ~護衛と踊り子の兄妹、歌って踊って傷ついた世界を癒せ!~  作者: ネコ軍団
第2章 空中劇場への招待

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第47話 魔物村の医者

 歩き始めてしばらくして、なぜかミリアは心配そうにリーシャを見つめていた。横に並んで歩くロッソにミリアが顔を向け小声で話しかけてくる。


「ロッソ、リーシャと一緒に歩かせて平気でしょうか…… 村長とはいえ魔族に……」


 ミリアはメディナをチラッと見た。ロッソも視線をナディアに向けた。


「えっ!? たぶん大丈夫だ。心配しすぎだ」


 笑って答えるロッソだった。リーシャと並んで歩くメディナから、特に変わった雰囲気はなく殺気のようなものは一切ロッソは感じなかった。


「ははは…… 聞こえてるよ…… ロッソ、ミリア。魔族の耳はあんた達より優れてるんだよ。うわさ話はもう少し離れた場所でしな」

「あっ!? ごめんなさい」

「そりゃあさ。あたしだって村の外の人間は嫌いだよ。今でもね……」

「そうか……」

「けどね。ここは魔王軍と人間が戦争する前から人間とモンスターと魔族が一緒に暮らしてる村だ。あたしはこの村長だからね。モンスターも魔族も人間もここでは平等っていうルールは守ってるんだ。それだけだよ。だからあんたらもここのルールは守るんだ」


 ロッソとミリアを横目でみながら、静かに低い声でメディナが喋っていた。小さくうなずくロッソだった。これはルールさえ守れば、ロッソたちの安全は保障するから不審な行動をとるなというメディナからの警告だ。


「でも…… ルールは守るか…… グアルディアといいメディナといい魔族にしては真面目だな…… うん!? いや…… 魔族にしてはじゃない。俺は魔族のことやグアルディアのことを…… 何も知らないんだ……」


 メディナとリーシャの歩く後ろ姿を見ながらつぶやき愕然とするロッソ、横に歩き彼の異変に気づいたミリアが声をかけて来る。


「どうしたんですか!?」

「いっいや…… なっ何でもない」


 ロッソは平然を装い視線を前に向ける。ロッソは魔王軍に村を襲われてから、魔王や魔族を倒すことばかり彼らのことを知ろうとなんかしてこなかった。目の前でリーシャが無邪気にメディナと仲良く手をつないでいる光景は、ロッソが魔族のことを知ろうともせずに嫌っている事実を彼に突きつけるのだった。実際にロッソはキースと比べても利用されてるだけとわかった今も、彼は故郷を襲われた恨みでキースより魔族を恨んでるほどだった。

 つないでいたメディナの手をリーシャが両手で握った。少し驚いた顔してメディナがリーシャに視線を向けた。


「リーシャはメディナしゃん好きですよ。大きくてあったかいです」

「あたしも! メディナさんはなんか頼りなるお母さんみたい」


 反対側から明るく声をかけたシャロが、メディナの腕に抱き着いてきた。人間二人から好きと言われてメディナは少し恥ずかしそうに笑うのだった。


「フッ…… そうかい。ありがとうね。二人とも…… ほらドルボンの家が見えてきたよ!」


 道の先をメディナが顎でさした。ロッソたちが歩く道の先に大きな一軒の家が見えてくる。


「なっなんだ!? これ……」


 ドルボンの家と言われた家の前に立ったロッソが声をあげる。ドルボン家は外観が見えないのだ。家は誰も面倒を見てないのか、壁にはツタがびっしりと生えた緑の塊になっていた。これでは壁も窓もドアもわからずどうやって入ればいいのかロッソは戸惑っていた。しかし、すぐにロッソはドルボンが在宅なら、外から呼びかければいいと考え口を開こうと……


「邪魔するよ!」

「えっ!?」


 リーシャの手を離したメディナは、ツタが生い茂る家の隙間から、手慣れてた感じで勝手に扉を開けて入るのだった。


「どうして扉の場所が…… しかも勝手に入っていいのか。いくら村長でも……」


 メディナは戸惑うロッソたちのことなど、構わずリーシャを連れ奥へと入っていく。


「どうしようお兄ちゃん?」

「あぁ! もういいよ。行くしかないだろ」

「そうですわね」


 ロッソとミリアとシャロの三人もメディナに続いて家の中へと入った。日がツタで遮られており家の中は薄暗い。室内に入って目の前にある、ランプが照らす幅の広い薄暗い狭い廊下を、メディナはどんどんと進んでいくのだが見えた。

 廊下は幅が広く四人がならんで歩けるほどで、天井も見上げるほど高い。家の高さから三階建てくらいだと思われたがどうやら天井が高いだけで家は平屋のようだ。


「ドルボン、お客さんだよ。あんた達こっちこっち!」


 廊下の突き当りの大きな扉を少しだけあけて、振り返ったメディアがロッソたちを手招きでよぶ。ロッソたちが近づくとメディナは扉を全て開ける。

 ロッソたちは部屋の中へと入る。部屋の中はカーテンのついたベッドと、椅子が一つと机と棚が置かれた広い部屋だった。ベッドも大きく人間が三人くらい縦に並んで寝られそうだった。


「そうか! 廊下や天井も広いの人間よりも体格の良い魔物や魔族をいれるためのスペースか…… でもドルボンはどこに?」


 広い部屋を見渡すロッソ、メディアが呼びかけたドルボンの姿が見えないのだ。


「いらっしゃい。おぉ! メディナ村長か! 用は何だい?」


 上空から声がし視線を上に向けるロッソだった。


「あぁドルボンは浮遊殺人クラゲなのか……」


 天井にぷよぷよ浮かんでいた一体の魔物が下りてきた。浮かんでいた魔物は浮遊殺人クラゲだ。水色で丸い饅頭のような形をした、透明の体の下に無数の触手を一杯生やした空に浮かぶクラゲの魔物だ。

 浮遊殺人クラゲは毒のついた透明な触手を、道や木の上から伸ばし毒に触れて倒れた人間や獣などを食べる魔物だ。


「ドルボン! うちのボンクラ亭主がさぁ。またやられて……」

「えっ!? またかい? この間キースにやられた傷が癒えたばかだったのに……」

「ごめんね。また頼むよ」

「わかったよ。あれ!? こっちの人間は? 村じゃ見ない顔だけど?」

「あぁ! こっちロッソとミリアとシャロにリーシャだ。ほら前にはなしたろ? 勇者キースの仲間だよ」


 メディナがドルボンにロッソたちを紹介する。一人ずつ自己紹介をすますとドルボンがロッソの前に止まった。


「なるほどね。君がグアルディアの言ってたロッソか……」


 ドルボンは頭の真ん中にある、二つのつぶらな瞳でロッソのことをジッと見つめている。

 横にいたリーシャが静かに口を開いた。


「ドルボンしゃんも旦那しゃんとミリアを嫌うですか?」

「ははは、僕はモンスターだからね。魔族とは違って人間に恨みはないよ。むしろ魔王が僕の仲間を魔王軍に無理矢理入れて使役したことに腹を立ててるんだよ」


 笑いながらドルボンは答える。魔族と魔物は人間から見たらどちらも人間を襲う存在だが少し違う。

 魔族はシャドウサウザーやグアルディアなどのように、知性を持ち人間と違う独自の文化を持つ。魔物はドルボンやオークなどの例外を除いて知性が低く獣のようなものなである。

 古来から魔物は人間と生存競争を繰り広げる。そして魔族は彼らが人間に戦争をしかけるたびに魔物を捕らえ、無理矢理に使役していたのである。


「さて…… ロッソ! グアルディアを見せてくれるかい?」

「ほら。これだ」


 ロッソはドルボンが伸ばしてきた、触腕にグアルディアの入った瓶を乗せる。器用に触腕の先端をまるめ、瓶を掴みドルボンは顔の前まで瓶を持っていった。


「うーん…… これか…… なるほど……」


 顔の前で瓶の中身をみながら、ドルボンはぶつぶつとつぶやいていた。


「治りそうか?」

「あぁ治療はできる…… でも、残念だが薬の材料がたりない。しかもその薬の材料は今は簡単に入手はできない」

「えっ!? 入手できないってどういうことですか?」


 思わず声をだしたロッソに、ドルボンは申し訳なさそうに瓶を持った触腕で器用に頭をかくような仕草をする。

 ロッソの横からメディナが話に入って来る。


「もしかして薬の材料ってブラックミラージュ草かい?」

「あぁ…… そうだ」

「そうかい。そりゃあ無理だね……」

「そのブラックミラージュ草ってそんな貴重な草なんですか?」


 メディナとドルボンは、ロッソの問いかけに少し困った顔し、メディナが首を横に振って答える。


「ううん…… ここから西にある洞窟に年中生えてる草だよ」

「じゃあ、すぐに行きましょうよ」

「それが…… ダメなんだよ。人間でも魔族でも魔物でもない奴らが洞窟に住みついちまってね…… 洞窟に入る者を攻撃してくるんだよ」

 

 近くにあった椅子に座り、メディナは小さく息を吐いて悔しそうな顔をするのだった。彼女が人間でも魔族でも魔物でもないものとは一体……

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