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勇者を守った男は成り下がり少女を守る ~護衛と踊り子の兄妹、歌って踊って傷ついた世界を癒せ!~  作者: ネコ軍団
第2章 空中劇場への招待

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第44話 ミリアさんって呼ばないで

「逃がすかよ! いや…… もういいな」


 ロッソは逃げ去っていくウォーウルフにつぶやき大剣を下した。彼は冒険者でもなく勇者でもない、護衛(ボディガード)だ目の前の魔物をすべて倒す必要はない。馬車にいるシャロ、リーシャ、ミリアの三人を守れればそれで良い。


「おぉ! さすが旦那しゃんです! すごいです」

「ありがとう」


 大剣を背中にしまい馬車に戻るロッソを、リーシャは両手をあげ笑顔で迎えるのだった。荷台に戻ろうとするロッソの背中をリーシャがつかむ。


「うん? リーシャ? どうした?」

「一人で寂しいから…… 一緒にいてほしいです」

「えっ!? そうか。わかったよ」


 ロッソはリーシャの隣に座る。横に座る彼を見たリーシャの表情はパぁっと明るくなる。それが嬉しかったのかロッソはリーシャの頭を優しく撫でていた。いつも彼らを乗せ、一人で馬車を操る彼女への労いも含まれていた。


「リーシャにはいつも寂しい想いさせて悪いな」

「いいんです。お馬さんいますしリーシャはお馬さん好きですし…… それに旦那しゃんは悪くないです。シャロとミリアしゃんがずるいんです」

「えぇ!? シャロとミリアさんがずるいって……」

「そうです。ずっと旦那しゃんと一緒にいてずるいんです。今日はずっとリーシャが旦那しゃんと一緒にいるです」


 リーシャがシャロとミリアさんがずるいと叫び、ロッソが動かないように服の袖をギュッとつかむのだった。


「はいはい。俺はどこも行かないよ。今日はリーシャの隣にいるよ」


 ニコッとほほ笑むリーシャの頭を、ロッソはまた撫でるのだった。


「こら! おにいちゃん! リーシャに何を余計なこと吹き込んでるの?」

「シャッシャロ? なにもしてねえよ」

「そうです。シャロには関係ないです。ねぇ!? 旦那しゃん」

「うん。シャロには関係ねえな。俺とリーシャの話だもんなぁ」

「はいです!」

「ふーん……」


 目を細めてロッソとリーシャを交互に見たシャロ、ロッソは目を細めて彼女を見て怪しむ。シャロの口元がにやけている。シャロがこの顔をするときは、何かを企んでいる時だと兄は知っている。


「そうだ! あたしもおにいちゃんの横に座る!」

「あっ! ダメです今は旦那しゃんはリーシャのです!」

「いいじゃん! ちょっとくらい座ったって」


 ニヤあっといやらしく笑い、シャロはロッソとリーシャの間に強引に割り込み座ろうとする。必死にリーシャはシャロのおでこに手をあてて荷台に押し返そうする。リーシャの行動にムキになったシャロは、強引に体をねじ込もうとする。

 馬車を操縦して不利なリーシャに、ロッソもシャロの肩をつかんで加勢するのだった。


「あっ! おにいちゃんのエッチ! 胸触らないでよ!」

「はっ!? 触ってないし! お前の小さい胸なんか触らん」

「なんですって! この!」

「こら! やめろ! くすぐるな」


 シャロはロッソのわきに手を伸ばしてくすぐる。ロッソが手を離したすきに、シャロは彼の隣に座ろとした。


「こら! ダメでーーーーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!!!!!!!!!」

「「わっ!」」


 リーシャがロッソの隣に座った、シャロに向かって叫んだ。大きな声にロッソとシャロは耳をふさいだ。歌手のリーシャは声が大きく通る。


「あらあら…… 三人は仲良しさんですね」


 御者台の後ろの馬車の幌の隙間から、今度はミリアが顔をだしてほほ笑んでいる。


「ミリアしゃんです」

「そうだ! ミリアさんも一緒に座りましょう!」

「えっ!? シャロ! ここに四人は座れるのは無理……」

「いいから! おにいちゃん! もっと向こういって」


 シャロがロッソを押して端においやると、リーシャとシャロの間に隙間が生まれた。ミリアにシャロがその隙間にくるように手で合図した。それをみたリーシャが不満そうに口を尖らせた。

 顎に手をおいて考えて込んでいるミリアが静かに口を開いた。


「そうですね…… ロッソさんの言う通りちょっと狭そうですね。うーん。ロッソさんとわたくしがこちらの荷台に座ってるのはどうですか。シャロちゃんとリーシャちゃんは仲良しですから二人一緒の方がいいですわよね」

「えっ!? うわ! ちょっと!? ミリアさん! 危ない」


 ほほ笑んでロッソの腕を引っ張り、ミリアは彼を荷台に引っ張り込もうとした。


「ちょっとミリアさん! ずるいですよ! ねぇ!? リーシャ?」

「はい! シャロの言う通りです。ミリアしゃんずるいです! 旦那しゃんを返すです」


 ミリアの行動に慌ててロッソを取られまいと、シャロとリーシャが彼女に向かって叫ぶ。


「あっあれ!?」


 首をかしげるロッソ、ミリアが引っ張っていた彼の手を急に離したのだ。眼鏡の奥の瞳に涙を浮かべ、ミリアは悲しそうげな表情をしている。ロッソはミリアを見て二人に注意をする。


「こら! シャロとリーシャが二人でずるいずるい言うから…… ミリアさんが悲しんでるじゃないか!」

「なっなによ! あたしは別に本気でミリアさんのこと……」

「リーシャも本当にミリアしゃんのことずるいって思ってたわけじゃないです……」

「ごめんな。ミリアさん」


 ミリアがハッという顔して慌てて首を横に振った。


「違うんです…… 二人はリーシャ、シャロって呼び合って楽しそうで…… わたくしだけミリアさんなんだって思ったら少し悲しく…… あっあのね。シャロちゃん、リーシャちゃん…… ミリアって呼んでください……」


 別に誰が決めたわけじゃないが、ミリアはロッソよりも年上であり、この中で一番年齢が上で落ち着いた大人の雰囲気を持っているため、ロッソもシャロも馴れ馴れしく呼び捨てで呼ぶのを控えていた。リーシャはロッソたちが、ミリアさんと呼ぶのでそのまま呼んでいるだけだ。


「えっ!? なんだ…… いいですよ。ミリア!」

「ミリアです!」

「ありがとう…… わたくしとてもうれしいです」


 嬉しそうにミリアが笑う。笑顔のミリアを見たロッソは安堵の表情を浮かべる。


「えっ!? どうしたんですか?」


 ミリアがロッソの手をつかみ、恥ずかしそうにうつむきわずかに体を揺らしている。ロッソは彼女の行動に首をかしげるのだった。


「あと…… ロッソさんもミリアって呼んでください」

「えっ!? 良いんですか?」

「はい。その代わり…… わたしくしもロッ…… ロッ…… ロ、ロッソって呼ばせてください…… ダメですか?」


 上目遣いでロッソに頼むミリアだった。ロッソはミリアに見つめられた恥ずかしく頬を赤くしていた。動揺するロッソだったが、ミリアの頼みを断ることが出来ずに意を決して彼女の名前を口にするのだった。


「えっと…… 恥ずかしいな…… ミッミリア!」


 必死にミリアを呼ぶロッソ、呼ばれたミリアは頬を赤くし、下を向いて恥ずかしそうにしていた。ロッソは自分だけ彼女の名前を呼んだの恥ずかしく自分の名前を呼ぶように促す。


「ミリアも俺の名前を…… 早く!」

「はっはい。ロッ…… ロッソ…… キャッ!」


 潤んだ綺麗な瞳のつやっぽい唇からロッソの名前が聞こえる。ミリアの口から発した自分の名前が耳に吸収されるとロッソは何ともいえない気持ちよさを感じるのだった。恥ずかしいのかミリアはロッソの手を握ったまま頬を赤くしてうつむいていた。

 ロッソは恥ずかしそうにするミリアがかわいく表情が緩む。二人の茶番をみていたリーシャとシャロは、目を細めて不満そうにしていた。


「ケッ…… やっぱりミリアさんに戻そう。ねぇ!? リーシャ」

「はい! そうするです。ミリアしゃんです」

「えぇ!? そんなひどいわリーシャちゃん! シャロちゃん!」

「えっ!? なんでですか!」

「こっこら! 二人ともひどいぞ!」


 泣きそうになっているミリアに、不服そうに腕を組みそっぽを向くシャロとリーシャだった。この後、必死にミリアが泣いて頼みミリアと呼ぶことは二人に了承されたのだった。


「ジー!!」


 なぜかロッソはシャロからものすごく睨まれたのだった。


「なんだよ…… はぁもういいや。早く行こうぜ」


 ロッソたちはこうして少しずつ絆を深め、黒霧の森の奥にある、魔族の医者ドルボンがいる村を目指し進むのだった。

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