第43話 ボディガードは森について行く
聖都アクアリンドでの、聖女アルティミシア誘拐事件が解決してから二週間が過ぎた。
ミリアを加え四人となったロッソたちは、船でアクアリンドのあったセントニリア島から、アクアーラ王国のジェルボ大陸に戻り、大陸の西にひろがる黒霧の森の奥へ馬車を走らせていた。アルティミシアの依頼でグアルディアを治療するために、黒霧の森にいる医者ドルボンに会うためである。
うっそうと木々がしげる薄暗い森の中を、リーシャが操る馬車がゆっくりと進む。人の行き来がまったくない森だが、馬車が通れるほどの幅を持った道が整備されていた。かつては森を抜けた先にあった、港町との往来が激しかったという。二十年ほど前に発生した嵐により、港町が壊滅したため現在この森を訪れる人はほとんどいない。
御者台に座るリーシャの背中を見ながら、眠気と戦うロッソだった。幌付きの馬車の荷台に心地よい、馬の足音と穏やかな振動が続いていた。
「ふわわあああああ! はっ!?」
背伸びをしてあくびをロッソが慌てて口を押えた。ずっと馬車を操縦するリーシャの横であくびをするのが彼女に申し訳ないと思い口を押えたのだ。
「うわ!」
不意にロッソの鼻のしたに綺麗な金色の髪が撫でた。ロッソの横に座っていた普段着のシャロが眠ってしまい寄りかかってきたのだ。
「もう…… びっくりしただろうが。俺が大きいからって寄りかかるのやめてくれよ」
ロッソはぶつくさいいながら、シャロの頭を右手で押した。彼女の体はまっすぐに戻っていった。
「よし!」
自立したシャロの頭からロッソはゆっくりと慎重に手を離した。
「うわ!? なっなんだ!?」
目の前が緑一色になって暗くなってりロッソが思わず声をあげた。今度は反対側に座っていたミリアも寝てしまったのか寄りかかってきたのだ。
「なっなんで!?」
ミリアをはなそうとすると、シャロが戻ってきた。ロッソはシャロとミリアに挟まれてしまった。
「旦那しゃん! 旦那しゃん!」
「うん!?」
馬車の御者台に座るリーシャが慌てた様子で振り返りロッソを呼ぶ。ロッソは両手を開くようにして、シャロとミリアの頭をどかしリーシャの元へと向かうのだった。
ロッソが荷台から体をだし、リーシャに声をかける。
「どうした?」
「道の真ん中にオオカミさんがいるです!」
ロッソに顔を向けながら、リーシャが道の先を指さした。彼女の指した道の上に灰色の大きな狼が三頭たっていた。
「ほんとうだ。あれはウォーウルフだね。きっとこの辺が縄張りなんだろうな」
狼を見たロッソがリーシャに答える。ウォーウルフは狼が魔族の血を摂取することによって、魔物化したものだ。魔族の血によって普通の狼より、一回りほど大きくなり、力も強力で魔法も使用する。また、狼の特性も残り群れで行動し狩りを行う。特に強力な魔物ではないが、砂漠地方や寒冷地などに素早く適応できるため、魔王軍では野良のウォーウルフを捕まえ、ゴブリン兵などの乗せて馬の代わりにしていた。
ちなみに、砂漠や雪山に適したものは能力は同じだが地域によって名前が違う。寒冷地ではアイスウルフとか砂漠ではデザートウルフとか呼ばれる。目の前にいるウォーウルフは森に生息するため本来はフォレストウルフと呼ばれるはずだが、ロッソは面倒なのでリーシャにはウォーウルフと答えていた。
「さて…… じゃあ後は任せな」
ロッソは立ち上がって背中の守護者大剣に手をかけた。
「戦うですか? リーシャも声で狼しゃん吹き飛ばすように頑張るです」
「ははっ。リーシャは優しいな。でも、ダメだ。リーシャの声は戦いに使うものじゃない。こういうのは俺の仕事だ。すぐに馬車を止めるんだ」
「はいです」
自分を見上げ元気に答え馬車を停めた、リーシャの頭をロッソは軽くなでた。彼女の猫耳が揺れて一緒にシャロが以前リーシャに買ってつけた白い花の髪飾りも揺れている。
リーシャは頭を撫でられて気持ちよさそうにしていた。ウォーウルフ達は身構えて牙をむき出しにして威嚇すると駆けだしたきた。
「よし」
ロッソは馬車を飛び降りて前にでた。馬車の前に立ったロッソとウォーウルフが対峙した。ウォーウルフたちは三頭ならんでロッソへと向かって来る。ウォーウルフが五メートルほどの距離に近づくと、ロッソは背中の守護者大剣をいきおいよく引き抜いた。
「ガウアア!!!!!!!!!」
剣を抜くと同時に一頭のウォーウルフがロッソに向かって飛びかかって来る。
「リーシャとシャロとミリアさんの三人にはどんなやつらだって手を出させねえよ。だって…… 俺が三人の護衛をやってるんだからな!!! いけ! 不可侵領域!」
ロッソは叫び両手で握った大剣に闘気を送り込んだ。大剣に送り込まれた闘気が、魔法の光る白い光の壁となって彼の周囲に展開された。守護者大剣は使用者の闘気を魔力に変換して光属性の魔法障壁を展開できる魔法道具だ。ドーム型の魔法障壁はあっという間に、大きくなりロッソと馬車を包みこんだ。
飛びかかったウォーウルフは現れた魔法障壁に気づいたようだが、止まれずに飛びかかった体勢のまま障壁にぶつかった。
「キュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」
悲鳴のような甲高い断末魔が森に響く。障壁に灰色の毛と赤い液体がだけが残り、ウォーウルフは消えてしまった。魔法障壁は敵の攻撃を防ぐものだが、守護者大剣の作り出す障壁は、聖なる光の力を持ち下級の魔物程度なら触れただけで消えてしまう。
「グルルゥ!」
「ガウガウァ!」
残ったウォーウルフたちが、ロッソに向かって牙をむき出しにし、激しく威嚇をする。
「引かないか…… ならしょうがない。もう少し懲らしめてやるよ」
ロッソはさらに守護者大剣にさらに闘気を送り込んだ。白く光る障壁がドンドンと膨らんでいき徐々にウォーウルフへと迫っていった。
「「キュゥイーン……」」
迫る魔法障壁におびえたように鳴き声をあげ、二頭のウォーウルフは森の奥へと逃げていった。




