第42話 旅はまだまだ続く
「まぁどうでもいいじゃない勇者キースや預言なんてさ」
少しイライラした表情でシャロがロッソの背中を軽く叩いた。驚いて振り向いたロッソにシャロはほほ笑んで右手をあげた。
「アルティミシア様! もういいですか? あたし達は踊り子と歌手ですそしておにいちゃんはただの護衛です。もう魔王だの勇者だのって巻き込まないでくれます?」
「おい! シャロ!? 何を言い出すんだ」
「だって! そうでしょ? あたしたちの旅の目的は四大劇場制覇と踊りと歌で戦争で傷ついたみんなを楽しませることなんだよ?」
「そうだけど…… 少しくらい協力したって……」
協力をしようというロッソの言葉にシャロは激しく反応する。
「少しくらい協力しろですって!? さっきだって頼まれてやって来たら殺されかけたのよ!!!! あたし…… お兄ちゃんがいなくなるなんて…… 絶対にいやだよ!」
涙を流しながらシャロはロッソの腕にしがみつく。ロッソはシャロの顔をジッと見つめた。目に涙を溜め顔をクシャクシャにして必死にロッソに訴えかけるようにシャロは彼を見つめている。
「シャロ……」
ロッソの頭に過去の記憶がよみがえってくる。シャロの顔は数年前の彼が魔王軍との戦いに行く時と同じだったのだ。その時の彼はシャロと振り切り家を出た。しかし、今は違う。
「シャロ…… 心配かけてごめん。ありがとうな」
「うん…… おにいちゃんはどこにもいっちゃダメ…… もうおにいちゃんの剣はあたしとリーシャを守るためだけに使って……」
腕にしがみついたシャロの頭を撫でてロッソは大きく頷いた。彼はもう魔王と戦う勇者の仲間の一人ではない。踊り子シャロと歌手リーシャの安全を守るただの護衛なのだ。
「アルティミシア様…… 俺はもうただの護衛です。キースがどうなろうが俺たちには関係ありません」
「そうよ。お兄ちゃんはもうみんなの英雄じゃないの。あたしたちの護衛なの。そして私たちはただの旅の踊り子一座なんですから!」
涙を拭いて毅然とした顔で、アルティミシアに向かってシャロは強い口調で言葉を放った。ロッソたちの二人の様子を見ていたミリアは唖然としていたが、アルティミシアは動じることなく、ほほ笑みゆっくりと口を開く。
「そうですわね。これがあなたたちのこととは限りませんね。シャロさんの言う通り勇者キースのことを気にせずに自分の道をお進みください」
「アッアルティミシア様!? よろしいのですか?」
「えぇ、ロッソさんたちには預言を伝えましたしそれをどうするかは彼らの意志ですよ…… キース殿の時も右手に紋章があっただけで大騒ぎして勇者にしましたが、彼はどうやら勇者ではないようですしね……」
「でも…… 魔王がこれから復活するのに…… ロッソさんがいれば……」
「大丈夫です。預言がまだ残ってるということは実行される可能性があるということですからね。すべては主のご意思ままになるでしょう」
アルティミシアの言葉を聞いて大きく頷いた、笑顔でシャロはロッソの腕を引っ張る。リーシャも反対側の手をつかんでロッソを引っ張っていく。
「じゃあ、アルティミシア様! あたし達はもう旅にでます。また機会があったら会いましょう! ほらリーシャもバイバイして!」
「バイバイです! アルティミシア様と遊べて楽しかったです!」
「シャロ!? リーシャ!? ちょっと待って! あぁ! もう! ミリアさん、アルティミシア様! また何かあれば呼んでください!」
ロッソはシャロとリーシャに引っ張られて礼拝堂の入り口に向かう。振り返り慌ててアルティミシアとミリアに挨拶をするロッソだった。
「あっあれ!?」
首をかしげるロッソだった。ミリアは何か悩んでいるのかアルティミシアとロッソたちを交互に見て不安そうにしている。アルティミシアはミリアの顔をみてニッコリとほほ笑んだ。そして小さく息を吐く。
「ミリア…… あなたを今日付けで破門にします。直ちにここから出ていきなさい」
「えっ!? アルティミシア様!? どうして? わたくし何かそそうをしたでしょうか?」
「いえ…… あなたはあなたがやりたいと思うことをしなさい。もう決まってるんでしょう?」
「やりたいこと…… でも……」
ミリアは言葉につまり躊躇している。ミリアの両手をつかんで、アルティミシアは彼女の顔を覗き込み優しくほほ笑む。
「赤ん坊だったあなたを聖堂の外で見つけた時にオリヴィア様と決めていたのよ…… あなたが進む道を決めたら…… 応援しようって! だから行きなさい。これはアルティミシアお姉ちゃんとオリヴィエ母さんからの命令よ」
オリヴィアとは先代の聖女である。アルティミシアがオリヴィアの元で修行始めた頃、赤ん坊だったミリアは聖堂の近くに捨てられておりオリヴィアとアルティミシアに拾われ育てられのだ。
そのため、普段は二人共のかくしているが、アルティミシアとミリア関係は聖女とシスターというより姉妹に近い。
アルティミシアは手をロッソたちへ向け、ミリアを促すような仕草をした。ミリアの顔がパアっと明るくなっていく。
「うん…… ありがとう。アルティミシアお姉ちゃん! 大好きだよ」
涙でいっぱいにした目で必死に笑って、アルティミシアに深く頭を下げたミリアはロッソたちに向かって駆けだした。ミリアはロッソたちの前に回り込んだ。立ち止まるロッソたちにミリアは笑顔で深々と頭をさげた。
ミリアの様子をみたシャロとリーシャの二人は、こうなるのがわかっていたようににんまりと笑っていた。
「あっあの…… シャロちゃん! わたくしも旅に同行させてください! わっ!? えっ!? えぇ!?」
喜びであふれた笑顔でシャロとリーシャの二人は、いきなりミリアに抱き着いた。二人に抱き着きつかれたミリアは驚き戸惑うのだった。
「もちろん。いいわよ。ねぇ? リーシャ?」
「はい。うれしいです!」
「シャロちゃん…… リーシャちゃん…… ありがとう……」
「おにいちゃんは…… 聞かなくていいわね。護衛に発言権はないから!」
「もちろんです。旦那しゃんはリーシャとシャロの言うことを聞くですよ!」
「はいはい。好きにしろよ……」
蚊帳の外に置かれた不貞腐れるロッソだった。ミリアはロッソたちの会話を聞いて笑っていた。
「あっ! 忘れてました。お待ちください。最後にもう一つだけわがままを聞いてください」
「何ですか?」
アルティミシアが駆けてきてロッソたちを呼び止めた。振り返ったロッソに紫色をした細かな黒い粒が入った小さい瓶をアルティミシアが差し出した来た。ロッソは瓶を受け取った。顔の近くに瓶を持って来て中を見たロッソがアルティミシアを見て尋ねる。
「こっこれは?」
「グアルディア殿の遺体の灰です。わたしが祈りを込めて魂をこの世にとどめてあります。アクアーラ王国のあるジェルボ大陸の西にある黒霧の森のジャハル村にドルボンという魔物の医者がおります。彼にこれを渡してグアルディア殿を救ってほしいのです」
「俺たちがですが?」
「そうよ。どうしてあたしたちが?」
「私はあくまで聖女ですから…… 魔族を助けたというのは少し世間体が……」
気まずそうにして顔の前で手を合わせるアルティミシアだった。魔族を聖女が治したなんて噂がたつとまずいので、ロッソたちにグアルディアの治療を託したいようだ。
ロッソはうなずいてシャロに瓶を見せるようにして視線を向けた。
「わかりました。シャロ? どうする? お前がリーダーだ」
「わかったわ。いいですよ。いいよね? リーシャ、ミリアさん」
「いいです。グアルグアルしゃん助けるです!」
「ぜひ! だって彼はわたくしが……」
「じゃあ決まりね」
こうしてロッソたちの旅に新たに演奏者としてミリアが加わった。
聖都アクアリンドを後にしたロッソたちは灰となった、グアルディアを助けるために、アクアーラ王国の西にひろがる森に向かうことになった。




