第41話 不可解な真実
意識を失ったロッソはその後しばらくして目覚めた。
目を開けたロッソに覗き込んで嬉しそうな顔したミリアと…… 目を細めて睨み付けているシャロが見えた。起き上がって二人に声をかけようとすると、彼の右の顎が痛みだし手を当て思わず声をあげる。
「イテテ……」
「大丈夫ですか? もう…… シャロちゃんいきなり人を殴ったらいけませんよ」
「いいのよ。このバカがミリアさんの胸を…… 最低!」
腕を組んでロッソを蔑んだ目で見るシャロだった。
「なっなんだよ。しょうがないだろ! あれは事故なんだから!」
「うるさい!」
「ってか。お前が殴ったのか? いくら俺が頑丈だからってな気が緩んで不意打ちされたら怪我するんだからな」
「べー!」
眉間にシワをよせロッソに向かって舌を出すシャロだった。ロッソは妹のその姿を見て首を横に振った。
「はぁシャロも少しはミリアさんみたいにおしとやかに……」
「はぁ!? まだ殴られ足りないの?」
「なっ!?」
シャロはロッソを睨み拳を振り上げた。ミリアがシャロの手を掴んで優しく止めるのだった。
「もう…… 兄妹は仲良くしないといけないわよ。あっ! そうでしたわ。ロッソさんが目覚めたらアルティミシア様がお部屋に来るように言ってました。大丈夫でしたらご一緒いただいてよろしいいですか?」
「あっ! はい! もう大丈夫です」
ベッドから出てロッソはミリアとシャロともに部屋から出た。どうやら彼は気絶している間に塔から下ろされたようだ。廊下を歩いてアルティミシアのいる礼拝堂へと向かうのだった。扉をあけて入ると礼拝堂の祭壇前のベンチで、リーシャとアルティミシアが楽しそうに話をしている。
「あっ! 旦那しゃん! 起きたですか?」
「おう。もう元気だぞ」
「よかったです。リーシャはちゃんといい子で待ってました」
「おぉ! そうかえらいぞ!」
ロッソに気付いたリーシャが、嬉しそうに走ってきて彼の足に抱き着いた。抱き着いて来たリーシャの頭を撫でるロッソだった。撫でられたリーシャは猫耳を倒し気持ちよさそうに目をつむっている。
「えへへ! アルティミシア様が遊んでくれたです!」
ロッソの脚から離れ振り向くリーシャの視線の、先にアルティミシアがベンチから立ち上がるが見える。ロッソが倒れている間、リーシャの面倒をアルティミシアがみてくれていたようだ。彼はアルティミシアに礼を言おうと、
リーシャと手をつないだロッソは、アルティミシアの前まで歩き声をかけた。
「アルティミシア様! リーシャの面倒をみてくれてたみたいでありがとうございます」
「えっ!? あっあれ!?」
ロッソを見るアルティミシアの視線がすごくつめたかった。まるで汚いものを見るような目で彼を見つめていた。
「ミリアを…… これ以上…… 触ったら…… 許さないわよ…… ロッソ!」
「はっはい!?」
ぶつぶつと聞こえないくらい小さい声で、ロッソにつぶやき怖い顔で彼を睨みつけるのだった。ロッソの後ろにいたミリアとシャロが顔を出すと、アルティミシアは急に優しくほほ笑むのだった。表情の違いを間近に見ていたロッソは、自分がアルティミシアに嫌われていると実感したのだった。
ミリアとシャロにほほ笑んだまま、アルティミシアは話し出した。
「ロッソさん、シャロさん、リーシャさん、ミリア、今回の件はありがとうございました」
「アルティミシア様…… でもキースは一体何をしようとしてるんでしょうか? グアルディアは止めろって言ってましたし……」
「キースの目的はわかりません。魔王討伐後にどこに居るのかも未だに不明ですしね…… ただちょっとこれを見てください」
アルティミシアはベンチに置いてあった、小さい本を開きロッソたちの前に差し出した。ミリアが書物をみて驚いてた顔をする。
「アルティミシア様!? これは預言の書ではないですか」
「予言の書? なんですかそれ?」
「はい。アルティミシア様が主より賜る預言が書き記された書物です。儀式中に賜った預言は自動でこの書物に記されるんです」
「なるほどでもその予言の書がいったい……」
「これを御覧なさい」
アルティミシアがロッソたちに見せたページには、十行に渡り預言がかかれていた。ただし、十行の予言のうち八行には斜線がひかれて読めなくなっていた。
・……
・古き闇の底から魔王が降臨し、世界から喜びと楽しみが消えるであろう
・……
・聖なる光の刻印を持つ者が勇者として降臨し魔王との戦いへと赴くであろう
・……
・……
・勇者は四人の偉大なる者の力を借りて魔王に挑むであろう
・……
・……
・赤い髪の戦士が勇者の盾となり勇者は魔王との戦いに勝利するであろう。
・……
預言に目を通したロッソは、なぜ斜線で預言が消されてるのか気になり、アルティミシアに尋ねる。
「なんで予言が消えているんですか?」
「このページは魔王シャドウサウザーが魔大陸を統一した後に神より賜った勇者の預言です。斜線が引かれている部分はシャドウサウザーが倒される前の日に現れました」
「確か消えてる預言の行はわたくしとロッソさん以外の仲間の記述だったはず……」
「でもこれは魔王が倒されたから予言が消えたんじゃ!?」
「違います。預言が実現したら光って文字が消えて文字は神の石板と呼ばれる聖堂の裏にある石板に移動します。斜線は実行できなくなってしまった預言です」
小さくうなずくロッソだった。消えた預言はおそらく彼らの死んだ仲間たちのことが書かれたいたのだろう。ロッソとミリアとキースの偉大なる四人以外の仲間は死んだのだ。
「えっ!? ちょっと待って! 予言が実現したら消えるって……」
ハッとするロッソだった。預言が消されるのであれば、魔王シャドウサウザーは討伐されたのに、勇者が降臨や魔王に挑むとかの言葉が残っているはずがないのだ。彼はアルティミシアに再度たずねる。
「じゃあおかしいですよね? もう魔王は倒されたのになんでこの記述が残っているんですか?」
「つまり預言が実現されていないということです。そしてロッソさんとミリアさん以外の預言は実現できなくなったと言うことです」
「実現されてない? これって予言なんですよね?」
「よく勘違いされる方がいますが、この書に書かれている言葉は主が試練に対して我々がどうすべきか授けた言葉なんです。つまり未来を伝える予言ではなく主から授かった言葉…… 預言なんです」
「じゃっじゃあ…… かならずこの書物の言う通りになるわけではないということですか?」
「はい」
アルティミシアは複雑な表情でうなずいた。斜線はロッソとミリア以外の記述で、実行されなかったから斜線で消えた。その意味に気づいたロッソの顔が青ざめていく。
「魔王はシャドウサウザーじゃないってことですか?」
「えぇ、おそらくはそうなりますわね…… それに…… 勇者はキース殿ではないと言うことになります」
「ですがアルティミシア様はキース様の紋章を確認したんですよね?」
「えぇ見ました。確かに聖なる神の力を感じました…… でも…… 預言が本当なら彼の紋章は偽物ということですね……」
アルティミシアは申し訳なさそうにロッソとミリアに頭をさげた。悔しそうに拳を握るロッソは下を向いた。
「じゃっじゃあ…… 俺たちの戦いは何だったんだよ…… 勇者が偽物だと…… しかもこれから新たな魔王が現れるなんて…… ふざけやがって」
戦いを終わらせるために死んでいった仲間の顔が、ロッソの脳裏にこびりつく。彼は怒りと悔しさで小刻みに震える。神妙な面持ちでアルティミシアはロッソを見つめたいた。ミリアはロッソに肩に手を置きアルティミシアに訴える。
「アルティミシア様! 今すぐ世界にこれを伝えましょう」
「無駄です…… すでに預言の書のことは各国の王や指導者には通達しています。どの国からも返答はありません。
「なんでだ! これから大変なことになるかも知れないのに……」
「先の大戦で各国は疲弊し国力の回復に努めています。無用な混乱は生みたくないのでしょう」
「じゃあ、アルティミシア様が自ら……」
「ごめんなさい…… ミリア…… 聖都アクアリンドは各国の施しを受けている状況です。許可なくこの事を発表して寄付を打ち切られたら……」
戦争終結から半年、聖都アクアリンドにはまだ多数の避難民がいる。預言の書の真実を各国に無断で公表すれば、各国はアクアリンドの支援を打ち切るだろう。もし各国からの支援がなくなったら避難民は路頭に迷うことになる。なにより魔族が力を無くした状態で、新たな魔王の存在が表ざたになれば戦争の火種になりえる。
「引き続き各国には私から通達を送ります」
「わかりました…… しかしキース様の目的は何なんでしょうか?」
「わかりません。ただ以前に預言の書はキース殿にも見せています。そして熱心に十行の予言を全て書き写されていたので…… もしかしたら……」
「キースが…… 予言の書を…… あいつ何をするつもりなんだ」
難しい顔で考え込むロッソの横でシャロは、両手を頭の後ろへと持っていき、つまらなさそうに口を尖らせるのだった。




