第36話 操られた魔道士
アルティミシアはミリアに申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい。ミリア、ロッソさん…… 私のわがままですが…… グアルディア殿の話を聞いてください。勇者キースについて二人に話があるそうです」
深刻な顔で語るアルティミシア、キースという言葉にミリアの顔色が変わり食い入るように彼女が話だす。
「キース様の!? わかりました。ロッソさん…… お願いします。アルティミシア様の言う通りに……」
必死な様子でグアルディアの話を聞くようロッソに願いでた。
「わかった。聞こうか」
返事をしたロッソはゆっくりとグラルディアへと近くづく。だんだんと彼が投げた守護者大剣が近づいてきていた。
「ロッソ、どうせ私のことを信じていないだろうから、その剣はお前が持っておけ」
「あぁ。そうだな」
攻撃をする意思も戦う気もないというアピールだろう、グアルディアはロッソに守護者大剣を拾うように指示をした。ロッソはグラルディアに、視線を向けながらかがんで剣を拾い背負った。表情が不明のグアルディアだが、ロッソは彼が笑っているように感じたのだった。
ミリアと並んでロッソは、グラルディアの前に立った。
「ロッソよ。勇者キースを探し出して止めろ…… いや殺せ! あいつは危険だ」
グアルディアはロッソに向かって、勇者キースを殺すように命令をした。
「危険? どういうことだ?」
「私にも詳しくはわからん…… だが…… あいつは人間じゃないぞ。それに…… 人間にも魔族にも深い恨みがあるのだろう」
「ウソよ! キース様は人間で立派な勇者よ! でたらめは言わないでください!」
ロッソとグアルディアの会話に、ミリアが割り込んでくる
ミリアはキースがけなされた激怒しており、普段の優しい彼女とは思えない怖い顔で、グラルディアを睨み付けていた。
「ミリアさん…… そうだ。お前が嘘を言ってないという証拠がないだろ」
グラルディアの赤い眼が光りだした。
「こっこいつ……」
赤い眼がロッソの腹を照らしだす。グアルディアの視線は、ロッソの小さな傷に向けられていた。グアルディアが見つめていたのは魔王城で彼が刺された場所だった。あきれた様子でグアルディアはロッソに口を開く。
「はぁ…… ロッソよ。傷は大丈夫か…… キースに刺された腹のな」
「おっおい!? お前……」
「どういうことですの? キース様がロッソさんを!?」
驚いた顔でミリアがロッソの顔を見つめ詰め寄ってくる。
「お前…… 余計なことを…… なぜ今それを言うんだ!」
「やめなさい。ロッソさん。あなたは魔王城でグアルディア殿に助けられたのですよ」
「なっ!? グアルディアが俺を?」
「そうだ…… キースがお前をさした後にトドメを刺そうしたやつの背中に俺が斬りかかったんだ」
ロッソが魔王城で遠くなる意識の中に最後に聞いた叫び声は、グアルディアが彼をキースから助けようとした時のものだったのだ。守るべき勇者に殺されかけた、ロッソは本気で殺しあった魔族に助けられたのだった。
「かっこ悪いな……」
自分のみじめさに思わずかっこ悪いとつぶやくロッソだった。
「あいつは……」
「ウソよ! 違いますよね? ロッソさん! キース様がロッソさんを刺したなんて…… 何かの間違いですよね?」
グラルディアが話をしようとしたのを遮って、ミリアがロッソの手を掴んで見つめてくる。彼女の目には涙が浮かび悲しそうに潤んでいた。
「ミリアさん…… ごめん。グアルディアの言う通りだ。キースは倒れていた俺を短剣でさした」
「えっ!? そっそんな…… なんで黙っていたんですか!」
「黙っててごめん…… ミリアさんが…… 悲しむと思って……」
「いやあああああ!!!!」
ミリアは手で顔を覆いしゃがんで泣きだしてしまった。彼女の背中を駆けよって来たアルティミシアが優しく撫でていた。ロッソは顔をあげグアルディアを見つめた。
「信じられんかも知れないが…… 私は魔族と人間と魔物をよく知ってる。斬りかかった私を見たあの恨みがこもった輝く瞳は魔族でも人間のものでもなかったよ」
「人間でも魔族でもない…… そんな馬鹿な!? じゃあなんでキースは人間のために勇者を!?」
「そこまではわからん。だがやつの目的は我が主人シャドウサウザー様を倒すことではないはずだ……」
「なっなんだって…… おい! どうしてお前が俺それを伝える」
「なんでだろうな。ただ…… お前を刺した時の奴の顔が少しだけお前を恐れていた…… 私はお前が奴の脅威になる存在と思ったから必死に守った…… ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!」
話しをしていたグラルディアの体が、燃えさかる炎に包まれ彼の叫び声がこだまする。
「ミリア!? あなたなんてことを!?」
アルティミシアの怒鳴り声し、ロッソが振り返るとそこにはミリアがグラルディアに右手を向けて立っていた。彼女の右手からうっすらと白い煙が天井へと上っていた。
「うるさい! キース様は勇者よ! 勇者の邪魔をするやつは誰でも許さない!」
激しく野太い叫び声がミリアの口から飛び出した。
「これはミリアさんの声じゃない……
普段とは違う恨みのこもった鋭い眼光を、ロッソやアルティミシアに向けるミリア。ブツブツといいながらミリアの手に赤い光が集約されている。
「あの赤い瞳は…… 確か幻惑魔法の症状…… チッ!」
眼鏡の向こうに見えるミリアの瞳が赤く光っている。瞳の光はその人間が幻惑で操られている症状だった。
「ちょっと!? ミリアさん急に何を!?」
「やめるです。ダメですよ!」
「シャロ! リーシャ来るな! アルティミシア様もこっちへ!」
「キャッ!」
駆け寄ろうとしたシャロとリーシャを叫んで止めると、ロッソは剣に右手をかけ、左手をアルティミシアへと伸ばす。アルティミシアの手首をつかんだロッソは強引に彼女を引き寄せ、ミリアからはなして自分の背中にかくまった。
ミリアはロッソとアルティミシアに右手を向けた。赤い光の粒のような物がどんどん集まっていく。
「剣を返してもらっといてよかったぜ…… まずは」
ロッソは視線を横に移動させミリアの後ろに居るシャロとリーシャを見た。
「リーシャ! シャロ! ミリアさんは誰かに操られているからゆっくりと部屋から出るんだ」
「操られている!? 大丈夫よ。おにいちゃん! 私に任せて!」
「おっおい!? 何する気だ!?」
シャロはスカートを緩め手を胸の前にクロスさせ、勢いよく自分の服を脱いだ。
「ほっ…… 驚かせやがって下に着てたのか……」
少し残念そうにするロッソだった。シャロは服の下に踊り子の衣装を、着ていて服を脱ぐと踊り子の格好に変わった。
「ミリアさん! こっちですよ!」
「キース様……」
ミリアがシャロを睨みつける。睨まれたシャロはミリアにほほ笑み小さく息を吐く。彼女は手をゆっくり斜めに構え上下に動かし足を擦りながら優雅に踊りだした。
「これは…… リーシャの鎖を切った時に踊っていた解呪の踊り……」
優雅に手を動かし踊るシャロに、ミリアの目が釘付けになっていく。ミリアさんの手がブラーンとなって右手に集約されていた光が拡散した。
「はぁ……」
「ミリアさん!」
力なくミリアが。膝から崩れ落ちて倒れそうになる。素早くロッソが駆け寄りミリアを抱きとめた。うまくいったようでミリアの様子を見が、シャロは踊りをやめて笑顔でまた小さく息を吐いた。
「もう大丈夫よ。次に目覚めた時は正気に戻ってるはずよ」
「そうか…… よかった…… うん!?」
ミリアの背中から何か札のような物がヒラヒラと舞い落ちた。
「これは……」
地面に落ちたのは白いカードだった。カードの真ん中になにやら三角形の紫色の魔法陣のようなものが書いてあった。ロッソはそのカードに見覚えがあった。
「へぇ…… せっかくのうちの弟がしかけた幻惑術を解くなんて…… その子はすごいじゃん。あんたと違ってさ」
どこからか声がする。ツンとして人を突き放すような感じの声にロッソは聞き覚えがあった。
「あいつか…… 相変わらずいつも人を見下していやなやつだな」
ロッソは抱きとめていたミリアを、静かに床に寝かせると、剣に手をかけて立ち上がった。
「アンナ! 出てこい!」
声の主は勇者と一緒に行方不明になった、キースの偉大なる四人の一人、アンナのものだった。ロッソは彼女に出てくるように叫ぶのだった。




