第35話 誘拐の黒幕
塔に入った四人は階段を上って最上階へと進む。
内部は広くいくつかの部屋があるが、迷路のようになってるわけでもなく、階段を上ると目の前に廊下があって廊下をまっすぐ進むと上りの階段があるという簡単な構造をしていた。
ロッソは十三階建ての塔の階段を上り、廊下を歩きまた昇りという行動を繰り返していた。暗くて不気味な雰囲気だが、聖都アクアリンドの内部にある施設で魔物が潜んでいるということもない。
「懐かしいですわね。ロッソさん…… 前に上った時は大変でしたわね」
「そうだな…… 確か古代の聖女の霊退治で…… 呪いで塔にうじゃうじゃアンデッド系のモンスターが居たっけな」
「えぇ…… ロッソさんはその時に取りつかれて錯乱して私くしのことをお母さんって……」
「やっやめてください」
「ふふふ」
ほほ笑むミリアに恥ずかしそうにするロッソだった。楽しそうに話しながら歩く二人を、リーシャは話がよくわからずポカーンとしてシャロは不満げに見つめている。
ロッソ達は順調に最上階の手前までやってきた。最後の階段を上がると大きな扉がある。扉の向こうが最上階にある祈りの間だ。年間を通じてここでは聖都の儀式を執り行っている。
扉に手をかけたロッソが振り向き、シャロとリーシャに口を開く。彼の顔はいつになく真面目でリーシャとシャロに緊張感が走る。
「シャロとリーシャは俺とミリアさんの後ろにいるんだ。いつでも外に逃げられるように少し離れていろ」
「でっでも…… おにいちゃん」
「頼む。グラルディアは俺と同等の力を持つんだ。もちろん負けるつもりはないが…… 万が一ってこともあるしな。だからいつでも逃げられるようにしといてくれ……」
「わかったわ……」
シャロは納得がいかないという顔で渋々了承した。ロッソは彼女が言うことを聞いてホッと安堵する。グアルディアは魔王城で、キースの仲間フェリス、バルダイ、トーマス、マルベルと言った実力者を切り捨てロッソに向かってきた。その実力はロッソと同等かそれ以上だ、戦闘になればリーシャとシャロの二人を守りながら戦うことは到底できない。
ロッソはミリアと顔を見合わせた、彼女が小さくうなずくと彼はゆっくりと扉を開けた。薄暗い廊下とは違い明るくはっきりとした照明がロッソたちを照らす。
「ほぇぇぇ! 虹があります」
「ほんと綺麗……」
シャロとリーシャが思わず声をあげた。扉の向こうにはドーム状の透明な複数の色のステンドグラスの空間に、太陽の光がさし、いろんな色の光が反射し幻想的な風景を醸し出していた。
最上階は壁と天井がステンドグラスになっている。磨かれ輝く石の床に天上の光が映り、いくつもの色の光が合わさってまるで床の模様のようになっていた。壁の向こうはそのステンドグラスの掃除やメンテナンス用に作業の足場があり扉でつながっている。部屋の一番奥には儀式用の祭壇と、壁に埋め込まれた巨大なパイプオルガンが置かれていた。
ロッソとミリアが先行して部屋に入り、少し遅れてリーシャとシャロがついてくる。
「へっ…… 良いご身分だな。神聖なる大聖堂の中心の場所に魔族が堂々と座りやがって……」
祭壇の前に玉座のような椅子が置かれ、何者かが座っているのが見えた。部屋の椅子に座るのは紫の禍々しい体色をした魔族グアルディアだった。グアルディアは二メートルに近い巨体に背中には翼が生え、頭には二本のねじれた角が生えた骸骨のような顔に目だけが薄っすら不気味に赤く光っていた。
ロッソがグアルディアと直接剣を交えたのは、魔王城での一回だけだがその感情のわからない顔は鮮明に覚えていた。椅子の十メートルほど前で立ち止まった。
ロッソは振り返り左手を出し、シャロとリーシャにそこで止まるように合図を送った。リーシャとシャロの二人は指示通りに立ち止まり不安そうに彼の顔を見つめるのだった。
「大丈夫だよ。二人には指一本触れさせない」
二人にほほ笑んで顔を前に戻したロッソはグラルディアの顔をジッと見つめ。ロッソが黙っているとグアルディアの方から声をかけてきた。
「久しぶりだな。ロッソよ」
「グアルディア…… お前も生きてたんだな。まぁいい…… 生きていたと言ってもお互い再会を懐かしむ相手でもないだろ。さっさと終わらせようか」
ロッソは背負った守護者大剣を抜きグアルディアが座る椅子の前に投げた。石の床に金属がぶつかる甲高い音がし、グアルディアの目の光が大剣の軌道を追う。
「ほらよ! お前の望みの物だ。くれてやるからさっさとアルティミシア様を離せ!」
「フフ…… わかった。アルティミシアよこちらへ来るがよい」
グラルディアが振り返り、祭壇の後ろに向かって叫んだ。祭壇の袖からゆっくりと一人の人間が歩いて出てきた。出て来たのは白い神官服に身を包んだ女性だった。女性は丁寧にとかれた綺麗な長い黒髪にすらっと綺麗で高い鼻に持つ目はクリっと丸く青い瞳を持つ美女だった。彼女は聖都アクアリンドに住み、世界を支える偉大なる神と四大精霊に仕えし、アーシア聖教の聖女アルティミシアだ。
「アルティミシア様! 大丈夫ですか?」
心配そうにミリアが声をかけると、アルティミシアは笑顔でうなずく。
「ありがとう。ミリア、私は大丈夫です。ロッソさんもありがとうございます」
アルティミシアがグラルディアの元へとゆっくりと歩いていく。彼女は速度はゆっくりだが足取りはしっかりして、顔色も良くとても誘拐されたようには見えない。アルティミシアはグアルディアの隣で止まった。
「グアルディア殿これでよろしいでしょうか? わたくしの助言は役に立ちましたかな?」
「えぇ、ありがとう。アルティミシアよ。あなたの言った通りロッソが来てくれたな」
「では、ミリアとロッソさんにお話しください」
「そうさせてもらうよ。本当にありがとう」
アルティミシアが親し気にグラルディアと言葉をかわした。ロッソとミリアはその様子を見て驚いている。
「どういうことですか!? アルティミシア様! グアルディア殿って……」
ロッソと並んで立って居たミリアが前に出ててアルティミシアに尋ねる。アルティミシアはミリアに少し申し訳なさそうに答える。
「ミリア…… ごめんなさい。私は誘拐などされてません。自分の意志でグアルディア殿と一緒にいるのです」
「なっ!? アルティミシア様!? なんで魔族とアルティミシア様が!?」
「わたしがアルティミシアに頼んだんだ。ロッソに会いたいから協力してくれとな。そしたら自分を誘拐して守護者大剣を要求すれば良いといってくれたんだよ」
ミリアはアルティミシアとグアルディアの言葉に、目を大きく開いて驚きの表情で固まるのだった。




