第31話 聖女誘拐事件
ミリアから守護者大剣の返却を求められ驚いたロッソは、すぐに彼女に事情をたずねるのだった。
「守護者大剣を返せって…… なにがあった?」
顔をあげたミリアがロッソを潤んだ瞳で見つめる。ロッソが使う守護者大剣は元々ミリアが住む聖都アクアリンドに祀られていた神聖武器の一つだった。キースの旅の助けになるようにと、聖女アルティミシアが彼に授けたものだ。
後にキースが聖剣シーズスターセイバーを入手し、守護者大剣はロッソへと引き継がれた。魔王討伐後にロッソは大剣の返却を申し出たが、聖女アルティミシアから大剣があなたを使用者と選んでいるからずっと使ってくださいと言われて断られていた。
「実はアルティミシア様のためなんです! お願いします!」
「ミッミリアさん…… ちょっと!?」
大きな声でアルティミシアの名前を叫び、懇願したミリアは再度頭を深々と下げた。周りにいた観客が一斉にロッソたちに視線を向けた。
気まずい状況に慌てたシャロがロッソの袖を強く引っ張った。
「おにいちゃん! ここじゃ……」
「わかったよ…… ミリアさんゆっくり話を聞かせてくれないか。俺たちの宿があるからとりあえずそっちへ移動しよう」
「はい。すいません」
三人はミリアを宿へと連れて行く。三人が滞在している宿は、小さい木造りの雰囲気が良い宿だ。恰幅の良いおかみがいて、どこかエルシアンの町の宿屋に似ていた。
ロッソたちは宿の食堂のテーブルを借り、ミリアの話を聞く。シャロとロッソとリーシャが並んで座り、彼らの正面にミリアが座る。真剣な表情でミリアはゆっくりと口を開く。
「ロッソさんはグアルディアって覚えていますか?」
グアルディア、ロッソは久しぶりに聞くその名前に黙って固まっていた。もちろん彼はグアルディアのことは覚えていた。ロッソが勇者の仲間として戦った最後の敵、わすれたくても忘れられない名前だった。
ミリアがジッとロッソの顔を見つめる。シャロとリーシャは何のことかわからないという顔をしていた。
「あぁ。覚えてる。あの戦いの最後の敵だったからな。でも、なんでいまさらあいつが? たしかあいつは魔王城で死んだんじゃ?」
「いえ…… 実は今から一ヵ月ほど前にグアルディアが聖都アクアリンドに現れましたの…… そして聖女アルティミシア様をさらい塔に閉じ込めてしまいました」
「生きてたのか。あいつ…… しかしなんで……」
グアルディアの生存に驚くロッソだった。しかし、彼は納得がいかないという顔をしていた。グアルディアと戦った彼は知っている、グアルディアは人質を取るような姑息な手を使わず、正々堂々と相手に挑んでくる魔族だったのだ。ロッソと対峙した時も部下は連れていたが、彼は部下に手を出させず一対一で向かって来ており、背後からロッソを狙おうとした部下を自ら粛清するほどだった。それとロッソはもう一つ気になることがあった。彼はミリアにたずねる。
「でも…… あいつはどうやってアルティミシア様を? 聖都市には聖騎士団だっているはず」
「わかりません。みなが気づいた時にはアルティミシア様のベッドにグアルディアからの手紙が置いてありました」
「そうか……」
世界最大の信者を誇るアーシア聖教の聖女アルティミシアは各国への影響力が高く。聖都とその身辺は警備が厳しくいくら魔王軍の将軍であるグアルディアであっても、単独でアルティミシアを誘拐することは難しいはずだった。ロッソの顔を見つめミリアさんは話を続けていく。
「グアルディアの要求は守護者大剣を持ってくることです。守護者大剣と交換でアルティミシア様を解放するそうです」
「そうですか…… わかった」
ミリアの話を聞いてロッソは即座に立ち上がり、背負っていた、守護者大剣を外してテーブルの上に置く。ロッソの行動にシャロが驚き目を大きく見開いて彼を見た。
「おにいちゃん!? いいの? その剣は大事なんでしょ?」
「もちろん。大事だ。俺はこの剣に何度も守ってもらったし、シャロやリーシャだってこの剣があったから守ってこれた。でも、人の命がかかっているなら…… 渡すしかないだろ」
「そうだけど……」
うつむいてシャロは複雑な表情をする。朝話した同僚が夕方には墓にいるような、戦争を経験したロッソは命の大切さを思い知らされていた、彼はただの武器と人の命を天秤にかけることなどできなかった。ミリアはテーブルの上に置かれて剣を見て安心したのか少しだけ表情が緩んだ。
「ありがとうございます。やっぱりロッソさんは優しいですね…… 素敵……」
「へっ!?」
潤んだ瞳で上目遣いでロッソの顔を見つめる、ミリアの可愛さに彼は目を奪われにやける。
「痛い! シャロ! やめろ」
「ふん!」
「どうしました?」
「なっなんでもない」
眉間にシワをよせロッソの太ももの肉をシャロがつねる。ロッソはミリアにバレないように必死に我慢しシャロの手をはたくのだった。
「それと図々しいお願いなんですが。守護者大剣をわたしくしと一緒にグアルディアのところに行ってほしいんです」
「えっ!? 俺が?」
「はい。グアルディアと戦った経験を持つロッソさんが一緒なら心強いですから…… お願いします。アルティミシア様を救出に力を貸してください」
立ち上がったミリアはまた深々と頭をさげた。ロッソは少し困った顔で返事をできずにいた。守護者大剣を聖都に届けるだけなら彼でなくてもいいのだ。しかし、万が一にグアルディアと戦闘になったらミリアが危険にさられる。ロッソは黙って考えているとシャロが立ち上がった。
「ダメよ! おにいちゃんを連れて行くなんて…… あなた一人で剣を持って帰りなさい!」
「おい! シャロ!」
「なによ! その剣はおにいちゃんのだから好きにしていいけど…… おにいちゃんは勇者キースパーティの仲間じゃなくて今はあたしの護衛よ。それにリンバフェストの村の野菜品評会の仕事はどうするのよ?」
目に涙をためて悲しげに、シャロはロッソを見つめている。彼女の顔を見たロッソは、うつむきすぐに顔をあげた。
「ごめん。ミリアさん。シャロの言う通りだ。今は仕事中で……」
「そうですか…… わかりました。しょうがないですね…… 守護者大剣だけ持っていきます」
しょんぼりと残念そうに立ち上がった、ミリアは守護者大剣を両手で抱きかかえるようにして持ち、ロッソたちに背中を向け宿の出口へと歩き出す。
うつむき悲しそうなミリアの後姿にロッソは、何度も声をかけそうになりながらも耐え黙って見送るのだった。ずっと黙っていたリーシャが、シャロの顔を下から覗き込むようにして口を開く。
「シャロ…… ミリアさん行っちゃいますよ? ミリアさんの事が嫌いですか?」
「えっ!? きっ嫌いじゃないわよ。ただ…… お兄ちゃんは……」
「リーシャはミリアさんしゅきです! 握手した時の手があったかくてやわらかくてお母さんみたいでした。きっとシャロも旦那しゃんやリーシャみたいにミリアさんしゅきになります!」
「えっ!? リーシャ!?」
椅子からおりたリーシャが、ミリアに向かって駆けだした。彼女の前に回り込んだリーシャが両手を広げて止まるように合図をした。
「もう! ダメだよ」
ロッソはリーシャを連れ戻そうとミリアに元へと向かう。突然のリーシャの登場に驚いたミリアだったが、すぐにほほ笑みしゃがんでリーシャに声をかけた。
「どうしたの? リーシャちゃん?」
「ミリアさんは一人でこれから怖いとこいくですか?」
「えっ!? そうね…… いっぱい怖いとこに行くわね……」
「じゃあ旦那しゃんの代わりにリーシャが一緒に行くです」
歯を見せてニカっと元気に笑うリーシャに、ミリアは彼女の頭をやさしく撫で立ち上がった。
「リーシャちゃん…… ありがとう。でも大丈夫よ。お姉ちゃんだっていっぱい強いから一人でも……」
「ダメです! 怖いところに一人で行くのは寂しいですよ。リーシャずっと一人だったからわかります…… ミリアさん悲しいです…… だから一緒にいたいです!」
「あらあら…… リーシャちゃん」
リーシャをよけて進もうとした、ミリアの足元に泣きそうな顔でリーシャが必死にしがみく。振り返り自分の足元にしがみつくリーシャをミリアは守護者大剣を抱え困った顔をしていた。
「リーシャ…… ダメだよ」
二人に近づいてきたロッソは、右手でリーシャの手をつかみミリアからはなそうとする。リーシャは泣きそうな顔でロッソを見つめるのだった。
「そんな顔するな。大丈夫だから……」
次にロッソは守護者大剣を抱える、ミリアの手の上に自分の左手を置いた。ミリアが恥ずかしそうにロッソから視線をそらす。
シャロに視線をむけたロッソ、彼女は三人から顔を背けて気まずそうにしてる。
「シャロ…… ごめん。俺はやっぱりミリアさんと一緒に行く」
「もう…… わかったわよ。このままじゃあたし一人だけ悪者みたいじゃない! ただし! この町の野菜品評会の仕事はもうキャンセルできないから終わってからしてね」
「シャロ! ありがとう!」
「ありがとうです!」
「シャロちゃん…… ありがとう……」
「でも、平気ですか? アルティミシア様が人質なのに時間をかけて……」
「大丈夫です。ロッソさんも知ってのとおり…… グアルディアは魔族ですが嘘をつくようなことはしません。期限内に大剣を持っていけばアルティミシア様を傷つけるような真似はしないでしょう」
ロッソたちはリンバフェストでの仕事が終わり次第、聖都アクアリンドへと向かうことになった。




