第30話 護衛を探す人
広大な畑をつらぬくような街道を、進むと木で出来た大きなアーチが見えてきた。アーチには横断幕が貼られてようこそ野菜品評会と書かれていた。リンバフェストの町に着いた。
リンバフェストは木造で出来たの家が並ぶ、のどかな雰囲気の町だった。野菜品評会は町の中央にある巨大な広場で行われる。広場には木で舞台が組まれ、頭の上には旗が飾られ屋台には野菜料理が並んでいる。
なかでも目を引くのは広場の中央に置かれた台の上に、品評会用に収穫された野菜が並んでいる光景だ。各野菜の前には木のネームプレートが置かれている。ネームプレートには野菜の名前と作られた畑の名前が書かれていた。
会場に並べられた野菜を、リーシャが目をかがやかせて見つめている。
「ほぇぇぇ! お野菜いっぱいです!」
「いっぱいあっておいしそうだね。リーシャは野菜大好きだもんね。それに…… 比べて……」
「なっ何だよ!?」
シャロがロッソを呆れた顔で見ている。
「別に……」
目を細めたシャロは首を横に振りロッソに背中を向けるのだった。ロッソは肉が好きで野菜が苦手で、ほとんど食べられないのだ。
「クソ! 少しくらい食えるぞ……」
並ぶ野菜を見つめ悔しそうにするロッソだった。
「あっそういえば……」
ロッソは野菜を見ながら、魔王討伐軍時代の同僚ミリアがよく作ってくれた野菜スープを思い出していた。ロッソは野菜が苦手だが、ミリアが作るスープは野菜が細かく刻んであり美味しく食べられたのだ
「あれ…… もう一回食べたいな… それに…… ミリアさんどうしてるかな?」
ミリアの野菜スープの味を思い出しつぶやくロッソだった。
品評会は三日にわたり行われ、最終日に結果が発表され表彰式が行われる。リンバフェストの村でシャロとリーシャは品評会の合間に踊りと歌を披露する。会場には品評会を見ようと観光客が詰めかけていた。
「さて…… 結構人が多いからしっかり警戒しないとな。さすがにもうシャロに結婚を迫るようなやつはいないだろうけど……」
観光客の人ごみの中をロッソたちは、リンバフェストの村に用意された宿へ向かおうと歩き出した……
「あぁ! ロッソさーん! やっとみつけましたーーー! うれしいーーー!」
「うわあああああああああ!!!!」
甘くおっとりとした声で呼ばれた、ロッソは振り返った。直後に彼の視界は真っ暗になってしまった。誰かがラロッソの首に手をまわし彼を抱きしめているようだ。
「探しましたよー! 冒険者ギルドに登録あったのに行方は知らないって言われるし。色々回って商業ギルドに聞いたらこの町にいるって言われて…… やっとですよ! もうーーー!」
「えっ!? なになに!? なんだって? なんですか!? うっ……」
正体不明の誰かがの腕が強くなり、ロッソの首を締めつけていく。話しかけてくる声にロッソは、聞き覚えのあったが、締め付けられ息苦しくて思い出すところではなかった。
「でも……」
ロッソは締め付けてくてくる何者かに嫌な感情をいただかなった。抱きしめてくる腕や体は心地よくやわらかく。特に顔を覆う体はプニンプニンと、気持ちよい感触がし左右のほほが挟まってうまっていく。漂う香りも良くロッソは目をつむり柔らかい感触と匂いに身をゆだねるのだった。
「何してるですか? 旦那しゃんから離れるです」
「あっ…… あぁ! 残念……」
リーシャが叫んだ直後にロッソは、心地よい感触からはなされてしまった。しかし、彼は目をつむったまま感触の余韻に浸っていた。
「いた!」
声をあげ目を開けたロッソ、誰かが彼の尻をいきおいよく蹴りあげたのだった。
「誰だ! いま俺のことを蹴ったやつ!」
「うるさい! ニタニタしてばっかじゃないの!?」
振り返るとそこには眉間にシワを寄せ怖い顔で、シャロが腰にてを当ててロッソを睨み付けていた。シャロの迫力にロッソはビビッて前を向き彼女の視線から逃げようとしていた。前を向くとリーシャが女性の腕をつかみ拘束して姿が見えた。
「うん!? リーシャ! ダメだ。手を離すんだ!」
「ぶぅです……」
拘束された女性を見たロッソは、慌ててリーシャの手をつかんで女性からはなす。頬を膨らませてリーシャが不満そうにする。
「ごめんね…… この人は悪い人じゃないよ」
拘束を解かれた女性は緑色の髪に眼鏡をかけていた。この女性は……
「ミリアさん! ここで何を……」
「はい。ロッソさんを探しに来ました」
「えっ!? 俺を探しに?」
ミリアは笑顔でうなずき返事をする。膝を曲げちょこんと座りながら、ズレた眼鏡のツルを指で押して直し、ミリアはロッソの顔を目を輝かせて見つめていた。リーシャが捕まえたのはミリア、彼女はロッソと同じく勇者キースパーティに所属していた。
「てか誰よ? この女!」
「そうです! 誰ですか? リーシャに内緒はメーです!」
「なんだよ!? こっちはこっちで……」
腕を組んで口をとがらせ、不満そうにシャロがミリアさんに顔を近づけて睨みつけている。リーシャもシャロと同じように腕を組んでいる。
「こら! 二人とも何してるの!? 態度わるいぞ。後、シャロそういのやめろ。リーシャが真似してるじゃないか!」
シャロは振り返りロッソを睨みつけ、彼の言うことを無視しミリアを睨みつける。リーシャもシャロの真似をする。二人に睨まれたミリアは困った様子でロッソにたずねる。
「あのロッソさん? こちらの方々は? わたくしのこと睨んでますけど……」
「あぁ! すいません。こら! リーシャ、シャロ! やめなさい」
ロッソはシャロたちとミリアの間に入って二人を遠ざけた。
「ちょっと! あたしたちよりその女の肩をもつの!? ひどい!」
「違う! この人はミリアさん。俺と一緒で勇者キースの仲間だった人だよ」
「ふーん…… 本当に? 突然抱き着くなんて…… いかがわしいお店の人じゃないの?」
「おい! ってかお前はどこでそういうこと覚えて…… こら! シャロ!」
必死にロッソがミリアのことをシャロとリーシャに説明するが、二人は疑った顔で信じていないようだ。
「もう…… 信じてくれよ。はぁ…… あっ。ごめんなさい」
「あっありがとうございます……」
慌ててロッソは座っていたミリアに手を差し出す。ミリアは頬を赤くして彼の手をつかんで起き上がった。シャロとリーシャは彼がミリアに手を、差し伸べたのが不満だったようで二人を見て口をとがらせていた。
立ち上がったミリアにロッソは二人を紹介する。
「ミリアさん、すいません。こっちは俺の妹シャロです。猫耳の小さい子がリーシャといって俺の仲間です」
「あらあら、そうなんですね。ミリア・シモンと申します。ロッソさんの言う通り元キース様のパーティの一人です。今は聖都アクアリンドでアルティミシア様にお仕えしております。よろしくお願いします。シャロちゃん、リーシャちゃん!」
丁寧に二人にミリアが挨拶をする。彼女はしゃがんで優しく微笑みリーシャに手を出した。優しく太陽のように明るいミリアの笑顔にリーシャの顔も自然とほころび嬉しそうに彼女はミリアと握手をするのだった。
立ち上がったミリアはシャロに体を向け、手をだして握手をもとめた。
「ブゥ……」
「おい! シャロ! 俺の友人に失礼なこと……」
「フンだ!」
「あらあら、緊張してるのかしら?」
シャロは腕を組んだまま口を尖らせて、ミリアが握手をしようとしたのを無視したのだった。大人げないシャロの行動を注意するロッソにシャロはそっぽをむいた。
「まったく子供だな……」
ミリアは態度の悪いシャロにも優しく声をかけ、首をかしげてニコニコと笑っていた。
「すいません…… 後で叱っておくんで…… それでミリアさんは俺を探してるってさっき……」
「はい! わたくしロッソさんにお願いがありまして…… この村にきました」
「お願い? 俺にですか? 何でしょう?」
ミリアがロッソに近づき彼の顔をジッと見つめた。彼女の眼鏡越しの綺麗な紫の瞳に見つめられたロッソは恥ずかしくなって頬をあからめている。だが、期待とは裏腹にミリアの視線は、彼の背中にある守護者大剣に向けられていた。
「あの…… ロッソさんの守護者大剣を聖都アクアリンドに返してください。お願いします」
守護者大剣を返してくれと言った、ミリアは深々と頭を下げたのだった。




