第28話 踊り子は馬車を手に入れた
耳から手をはなし、頭を二度ほど横に振ってなんとか体勢を立て直した、コルツォーネの部下たちが各自に武器を構え観客たちに向かって行こうとする。
「そうはいかないわよ! ほーらみんな見てみて! 第二部スタートよ!」
舞台の上で左手を上げ演奏家たちに指示を送ったシャロ、彼女は演奏に合わせて靴のかかとを床に叩きつけ、大きな音をだし踊り始めた。
小刻みにここちよいリズムと刻む足と、怪しい腰つきでコルツォーネの部下たちの目はシャロから離せなくなっていく。シャロの踊りが続くとコルツォーネの部下たちの目がうるみ、まぶたが半分ほど下りてきて力が入らないのか両手を下しダラーンとした姿勢になった。
「「「「「グゥ…… スースー」」」」」」
コルツォーネの部下たちの手から武器が滑り落ちた。直後にみなその場に倒れて眠り始めてしまった。コルツォーネは眠り出した部下を見て顔が青ざめる。
「クソ…… こうなったら! シャロさんあなたには死んでもらいます!」
悔しそうな顔したコルツォーネが、剣を抜いてシャロに向かって走り出って来た。
「へぇ。シャロの踊りが効かないとはやっぱり実力のある冒険者だったんだな。でも…… 遅いぜ!」
ロッソは守護者大剣を右手に持って構えると、シャロに向かって走るコルツォーネの前に飛び出した。
「おっと! ここまでだ。シャロを殺したいなら護衛の俺を倒すんだな!」
「クソがーーー!」
飛び出して来て笑うロッソだった。ロッソを睨み付けたコルツォーネは、右手に持っていた剣を彼に振り下ろした。
「遅いんいだよ!!!!!」
空気を切り裂き鋭い剣がロッソにむかってくる。さすが上位の冒険者というべきなかなか鋭い一撃だった。しかし、勇者の仲間を務めあげ、魔王軍相手の激戦を何度も潜り抜けた、歴戦の強者であるロッソにとってコルツォーネの剣を防ぐのは容易だった。
ロッソは膝をまげ腰を落とし、振り下ろしされるコルツォーネの剣に視線を向け、タイミングを合わせると右手に持った守護者大剣でコルツォーネの剣を横からたたいた。ガキーンという音がして剣をはじかれたコルツォーネは右手を上にあげて体がのけぞった。
「終わりだ」
ロッソ前にでながら、剣を返して彼の横にすり抜けるようにして脇腹を斬りつける。やわらかい肉の手ごたえとあばらが砕かれる硬い手ごたえが彼の右手に順番に伝わってくる。
斜め上に斬りつけたコルツォーネのわき腹から血がたれ、ロッソの守護者大剣の白い刀身に血がついた。コルツォーネの顔が苦痛にゆがむ。
「クッ…… シャロさん……」
コルツォーネの右手から剣が落ち、床につきささり彼はゆっくり膝をついた倒れた。
ロッソは素早く聖守護者大剣を下に動かし血を払うと、剣をおろして新婦側の参列席にいたカールに口を開く。
「カールさん! 後はお願いします」
「はっはい! みんな。コルツォーネと部下たちを捕まえろ! コルツォーネはすぐに回復するんだ。殺すんじゃないぞ!」
カールの指示が飛ぶと、冒険者たちが一斉にコルツォーネと部下たちを縛り上げていくのだった。
こうしてジブローの町周辺を荒らした、山猫山賊団はみな逮捕され壊滅したのだった。
逮捕されたコルツォーネは治療で、除名されカールにより厳しい取り調べがされた。なぜか闇のランタンを受け取った以降の記憶はあいまいで錯乱していたという。
尋問で判明したのはコルツォーネに、闇のランタンを渡したのフードをかぶった小さい男で、彼は男の容姿はほとんど覚えていなかった。冒険者ギルドの仕事を失敗して落ち込んでいた時に、これを使えば失敗を取り戻せると言われて渡されたとのことだった。
闇のランタンはカールが冒険者ギルドの金庫に保管して、いずれアクアーラ王国軍に引き渡すとのことだ。コルツォーネもいずれ裁きが下るだろう。
ロッソとシャロとリーシャの三人は、町の人々に感謝され祝宴で二人は踊りと歌を披露した。山猫山賊団を倒した歌姫と踊り子がいると、翌日からロドリゴの酒場”馬車の通り道”は連日大盛況となった。
一ヵ月後…… ロドリゴとの契約は終わった。ロッソたちは次の町へと移動する。ロッソとシャロは店の前でならんでロドリゴに最後の挨拶をしていた。
「それじゃあ、ロドリゴさんお世話になりました」
「気を付けて…… あぁ…… シャロさんとリーシャさんが居なくなると売り上げが減って困るな」
「大丈夫ですよ。あたし達が居なくてもコルツォーネもいなくなって平和になったから売り上げは減りませんよ。いつでもまた依頼してくださいね」
「はい。ぜひまたお願いします」
ロドリゴが名残惜しそうにシャロを送り出そうとしていた。シャロは謙遜してるが、二人のおかげで連日酒場は満員だった。あれだけ盛況なら二人の出演料を高くしても引き止めておきたいだろう。
「じゃあ行こう。お兄ちゃん」
「あぁ!」
「ふふふ。宿代はかからなかったし…… たくさん稼いだからお菓子を買おうっと」
「食いすぎるなよ」
「べー!!!」
余計なことを言ったロッソに舌を出すシャロだった。シャロとリーシャの一日の出演料は一人十リロだ。一ヵ月で六百リロの報酬となり、食事にかかった百五十リロを引いて四百五十リロの収入になった。旅の費用にもこれで少し余裕が出ることになった。また、三人には他にも冒険者ギルドから追加の報酬が三百リロほどあったがそれはあることに消えてしまっていた……
「待ってくださーい!」
「うん!?」
「カールさんだよ。お兄ちゃん!」
「はぁはぁ…… 間に合った」
通りをすごい勢いでカールが走って来た。ロッソたちの前にくるとカールは、膝に手をおいて肩で息をしている。ロドリゴがカールの肩に手をおいて背中をさすり声をかける。
「どうしたんですか? カール。シャロさんたちを見送りに来てたんですか?」
「はぁはぁ…… ちっ違います…… ロッソさん!」
カールは体を起こし真顔でロッソの方を向いて口を開く。
「私はあなたをぜひジブローの町の冒険者として向かい入れたい。どうですか? 今ならランクA1での待遇を……」
「はぁ!?」
驚いて声をあげるロッソだった。彼は冒険者になる気など毛頭ない。断ろうと口を開こうとするとロッソより早くシャロがカールの前に出て口を開いた。
「ダメよ! おにいちゃんはあたしとリーシャの護衛なんだから!」
「うん。そうだ。悪い。断りだな」
「そんなぁ……」
がっくりと肩を落とし、カールがうなだれている。ロドリゴがカールの肩をささえて笑っていた。
「シャロ、旦那しゃん! 挨拶おわりましたか? 早く乗ってください!」
リーシャがロッソたちを呼ぶ。呼ばれて振り返った二人の前には真新しい白い帆をはられた馬車と、それを引っ張る黒く大きな馬がいる。馬につながった手綱の先の御者台にリーシャが笑顔で座っていた。
「おぉ! ごめんな。リーシャ」
「すぐ行くよ。さぁ行こう! おにいちゃん!」
「あぁ。行こうか!」
ロッソとシャロは馬車に乗り込む。この馬車はシャロが約束したコルツォーネ討伐の報酬で冒険者ギルドからもらったものだ。馬の代金と内装を直すのにコルツォーネの討伐の報酬三百リロは使ったのだった。
「出発するです。ロドリゴしゃん! ありがとうです」
リーシャが笑顔でロドリゴたちに手を振った。彼女は慣れた手つきで手綱で馬を軽く叩いくと馬車がゆっくりと進む。ロッソとシャロとリーシャの三人は、馬車を手に入れて次なる舞台へと旅立つのだった。




