第21話 天使の歌声
町の中心にある街道の交差点から、南北にのびる第二エルシア街道を南へとロッソたちは歩いていた。
「シャロから聞いた話だとそろそろつくはずなだけどな…… あっ! あったあった」
町の中心の交差点から数十メートルほど行った、街道沿いに円形の金属に馬車の形をした、看板が掲げられた大きな建物が見えてきた。この建物が酒場”馬車の通り道”の道だ。おそらく目の前の街道を馬車が、行き交うので馬車の通り道という名前なのだろう。
「じゃあ行くよ。おにいちゃん、リーシャ」
準備中と札が掲げられてる扉をシャロが開けて中へと入った。
酒場は天井が高く広いフロアに、二十人程が座れるであろう、カウンターが設置されている。さらにカウンターの奥にはすごい数の酒瓶が置かれた棚がある。フロアにはいくつもの四角いテーブルと椅子のセットが並びさらに店の一番奥に舞台が見えた。
「広いなぁ。このフロアだけで百人くらいの客が入りそうだ」
ロッソが店内を見渡してつぶやく。入って来たロッソたちを中で準備していた、従業員らしい数人の人たちがこちらを見つめる。
「すみませーん。商業ギルドから紹介されたシャロです。ロドリゴさんいらっしゃいますか!」
フロアの真ん中くらいで、シャロが大声で従業員たちに声をかける。
「おぉ! シャロさん! ようこそおいでくださいました。私がロドリゴです」
弾んだ声がして茶色のエプロンに白いシャツに黒のベストを着た、短く綺麗に整った黒髪の男性がカウンターから出て近づいてくる。
彼がこの店の主人ロドリゴだ。切りそろえられた顎髭に整った顔立ちをしてるカッコいい男だ。ロドリゴはシャロの前に立つと手を胸の前に置いて頭をさげて挨拶する。
「こんにちは! シャロです。よろしくお願いします。ほら二人とも自己紹介して!」
「ロッソだ。彼女の護衛だ」
「よろしくお願いします」
ロッソが自己紹介っすると、ロドリゴは笑顔で手をだして握手を求めてきた。握手が終わるとロドリゴはしゃがんでリーシャにも笑顔に向けた。リーシャは少し恥ずかしそうにしていた。
「リッリーシャです」
「おぉ、かわいいお嬢さんだね」
「彼女は歌がうまいんですよ」
「本当ですか? じゃあ、ぜひうちの舞台で歌ってもらわないとな」
舞台をさしてロドリゴはリーシャにほほ笑みかけた。リーシャは舞台を見て目を輝かせてるのだった。その姿に本当に彼女が歌が好きなんだとロッソとシャロは目を細めるのだった。
「さぁ、お疲れでしょう。店が開くまで少し時間があるので、休憩を取ってください。部屋は用意してあるんで」
「はい。ありがとうございます。宿代は……」
「今回はこちらの無理を聞いてもらったので宿代はいりませんよ。それにシャロさんの踊りなら宿代くらいすぐに取り返せますしね」
「いやー! そんなことないですよ」
褒められて恥ずかしそうに、シャロがロドリゴの肩を叩いていた。ロドリゴは笑顔だが叩かれていたいのか右の眉だけがゆがんでいた。ロッソは褒められているシャロを見つめ頬を緩む、彼女の踊りが評価されていることをしって彼は少しだけ自分の妹を誇りに思うのだった。
「では、部屋に案内しますね。どうぞ」
「わーい。二人とも行くわよ」
ロドリゴの案内で階段を上り、ロッソたちは三階へと移動した。
「こちらです。どうぞ」
三階の廊下の奥のしっかりとした木の扉を開け、ロドリゴはロッソたちを招きいれた。案内された部屋は寝室が二つに応接間が一つ。応接間には高級そうなソファとテーブルのセットが置いてある。
「えっ!?」
驚いて固まるロッソ。宿屋の最上階にある広くて快適なこの部屋は、最高級の部屋であるのは明白で、無料で借りられるわけはないのだ。シャロとリーシャも部屋の大きさに驚いて呆然としていた。
部屋の入り口で固まる、三人にロドリゴが声をかける。
「すいません。ちょっと狭いけど三人で同じ部屋でよろしいんでしたよね」
「狭いなんて…… 本当にいいんですか? こんな良い部屋を借りてしまって」
「えぇ、大丈夫ですよ……」
笑顔でうなずくロドリゴだったが、表情がわずかに寂しそうにしていた。
「旦那! ちょっと来て下せえ!」
「ちょっと待ってな。じゃあ、シャロさん達はお店を開けるまでは自由にしててください! では!」
店の従業員が呼びにきてロドリゴは慌てた様子で、ロッソ達の部屋から出ていったのだった。
ロッソは扉が閉まるとシャロに声をかける。
「こんなとこいい部屋を無料で借りられるのか? この仕事…… 大丈夫か?」
「商業ギルドの紹介なら危険はないはずよ。問題があるなら仕事の紹介を断るはずだから」
「そっか……」
「とにかく移動で疲れたから少し休もう!」
笑顔で部屋の奥を指すシャロに、ロッソは小さくうなずくのだった。
ロッソたちの酒場”馬車の通り道”での生活が始まった。酒場は夜十七時から二十四時までの営業で、シャロは休憩を挟みながら一時間おきに舞台で踊る。ロッソは舞台の袖に待機し、踊るシャロを護衛する。シャロが舞台にいる間、リーシャは彼の近くに空き箱で作った机と椅子で、夕飯を食べたり一人で遊んでいた。
わずか三日でシャロの踊りは、町で噂になり徐々に見に来る客が増えてきた。
「不思議だな……」
舞台の袖から観客を見つめながらロッソがつぶやく。シャロの踊りを見に来るのは、街道沿いの町で大きな酒場にもかかわらず町の住民ばかりなのだった。行商人や旅人や観光客などはほどんど見ないのだ。
また、シャロを見る町人たちは笑顔ではあるが、どこか疲れた顔をしていた。ロッソは町に来た時に見た馬車が即座に帰るのを思い出した。ジブローは外部の人を寄り付かせない何かがあるのかもしれない。
「ふぅ! 疲れた」
踊りが終わって舞台の袖へと戻ってきたシャロが額の汗をぬぐう。ロッソが手に持っていたタオルを渡すとシャロは笑顔で受け取る。シャロは汗を拭きながら、近くの空き箱で作った椅子に座るリーシャの元へと向かう。
「おにいちゃん! 大変よ。リーシャが!」
「えっ!? あぁ!? ごめん!」
リーシャが椅子の上で眠そうに、うつらうつらと頭を上下に動かしていた。
「もう二十二時だもんね。昨日まではなんとか寝ないで頑張ってくれてたし…… ありがとうね」
ほほ笑みシャロはしゃがんでリーシャの頭を撫でた。彼女はすぐに立ち上がり振り向いてロッソに声をかける。
「こんなところで寝たら風邪ひいちゃうわ。部屋に連れて行ってあげて」
「でも、シャロは? 一人で大丈夫か?」
「少しくらい大丈夫だよ。リーシャをお願いね」
「わかった。すぐ戻るからな。気を付けてな。リーシャ行くよ」
ロッソは目をこすってうつらうつらと船をこぐ、リーシャを抱きかかえて酒場の三階にある自分の部屋へと戻る。
「ふう……」
リーシャを寝室のベッドに寝かせたロッソは、布団をかけようと手を伸ばした。
「うーん…… ハッ! 旦那しゃん!」
「あっ! 起きちゃった? ごめんね」
「いいです…… シャロは?」
「まだ踊ってるよ。リーシャはもう寝なさい」
目を覚ましたリーシャに布団をかけて、ゆっくりと腹の辺りをポンポンと叩くロッソだった。眠りたくないのかリーシャは、目をつむらず必死に起きようとしていた。
「どうしたの? 寝ないの?」
「うぅ…… 一人は嫌です。旦那しゃんそばにいてください」
「わかったよ。そばにいるからね」
リーシャの腹をポンポンと優しく叩きながらロッソは話す。嬉しそうな顔をしたリーシャは、ロッソの腰につけた道具袋を指さした。
「笛ふいてください!」
「えっ!? ダメだよ…… 今は夜だし……」
「リーシャ…… 旦那しゃんの笛大好きです。聞きたいです」
「もう…… わかったよ。じゃあ、一曲だけだよ。それ聞いたら寝るんだよ」
「わかったです」
ロッソは笛を聞きたいというシャロの要望に応え、腰の袋から笛を取り出した。寝ながらリーシャは彼の笛を見つめて目を輝かせている。
「曲は何がいい?」
「”虹を越えて”を吹いてください。」
リーシャがリクエストした曲”虹を超えて”はアクアーラ王国が、建国されて間もない頃に王都アクアラで流行った。苦難を乗り越えて国を建国した初代王をたたえるものになっている。
「了解、じゃあいくよ!」
笛を持って口をつけるロッソ、これから始まる曲にリーシャの顔は期待で輝く。テンポの早くやや明るめの雰囲気の曲が部屋に流れる。真顔で必死に笛を吹いていた、ロッソが目を大きく見開いた。
リーシャは体を起こして歌い始めた。本来は止めないといけないが、ロッソは歌えばリーシャが素直に寝てくれると思いあえて止めなかった。
”ddeultra plaribuis airkkyus"
(幾重にも空にかかる虹を超えて行こう)
”duohominesys, contacius aircussupera bitt”
(二人で今こそ空へと飛び出すんだ)
”ulpparvai visstenlaes rumines”
(希望の光よ星に届け!)
”Nunm consedemus hiarcintihon birdll”
(叶えよ。君の希望を青き鋼の翼の鳥よ)
透き通るリーシャの歌声が部屋に響く。曲が最終節へとさしかかる。ロッソは笛を吹きながら、リーシャに視線を向ける。立ち上がった彼女はは気持ちよさそうに目をつむり、ベッドの上を舞台にして歌っていた。
「えっ!?」
部屋の扉が急に開いた。リーシャは歌うのやめてしまった。ロッソが振り向くと、シャロとロドリゴが並んで立っていた。どうやらリーシャの歌声は壁を通り抜け下の店まで届いていたようだ。
「いっいま歌っていたのはこちらのお嬢さんですか!?」
「はい…… すいませんうるさかったですよね。夜中に…… へっ!?」
ロッソの話を最後まで聞かずにロドリゴは、歌っていたリーシャの前にいくと手を握っている。
「すばらしい! お嬢さんは天才だ!」
「へへ…… うれしいです」
「あの!? ロドリゴさん?」
ロドリゴはロッソの声に反応し、リーシャの手を離し彼の方を向き興奮気味に話し出す。
「このお嬢さんもうちの酒場の舞台に立ってもらいたいんですが。よろしいですか?」
「えっ!? リーシャをですか?」
「はい! 彼女はすごいですよ。まさに天使の歌声です! きっと大人気になりますよ」
「ほんとですか! やりたいです。でも……」
リーシャがロッソとシャロの顔を交互に見てる。ロッソはリーシャの頭の撫でた。彼はリーシャが歌いたいのなら歌手をすることは止めるつもりはなかった。ロッソはシャロを説得しようと口を開こうとしたが、より先にシャロが口を開いてロドリゴに答える。
「ぜひお願いします! ただし…… 彼女は私と別なので…… 出演料は別料金になりますけど?」
「かまいません! 払います!」
「毎度あり!」
「もう…… シャロ! 金の話でそんな顔するなよ。みっともない」
「えっ!? えっ!?」
いやらしくにんまり笑っていたシャロは、ロッソに指摘されると頬を両手をあて直そうとしていた。
「じゃあ具体的な話を…… シャロさん」
「はい! 行きましょう」
リーシャのスケジュールを決めようと、ロドリゴがシャロを連れて部屋から出ていった。しばらくしてシャロが部屋に戻ってきて翌日から、リーシャも酒場の舞台で歌うことを告げられた。リーシャと同じ舞台に立てるとシャロは嬉しそうにしてる。
シャロの話を聞いてリーシャも飛び上がって喜んでいた。
「嬉しいのはわかるけど…… リーシャはもう寝ような」
ロッソがリーシャの寝かしつけが出来たのは深夜を過ぎてからだった。思いのほか早くにリーシャの歌手デビューが決まったのだった。




