第18話 交差点の町
トロールに壊された柵に応急処置をし、予定より五日遅れでカルア村の祭りは開催された。シャロは延期になった祭りにも踊り子としてちゃんと参加したのだった。
なお、トロール撃退の謝礼で滞在費用は無料になり、出演料も大幅に増やされていたとシャロはホクホクしていた。倒したのロッソなのだが……
カルア村の人々はシャロが雇った護衛を使い、トロールを撃退したと思っているようだった。ロッソの役割はシャロの護衛なので、けして間違いではないが…… 彼は少しだけ納得はいかなかった。
祭りは無事に終わり、ロッソたちは次の目的地ができたので移動を開始した。カルア村を囲む森からでた彼らは街道をエルシアンの町へ方面へと向かっている。
「リーシャ重くない? おにいちゃん! 代わってあげなよ」
「そうだな。やっぱり重いよな」
シャロがリーシャに声をかけ、ロッソはリーシャの前にしゃがみ両手を広げて荷物を受け取ろうとした。
「いいです! これはリーシャのお仕事です! 取らないでください」
ロッソを見て必死に両手で、リュックの紐を掴んでリーシャ目を潤ませた。
リーシャは小さい体に大きな茶色のリュックを背負っており、開いたリュックの口から鋭い牙の先端がのぞいている。彼女の背負うリュックの中には、カルア村で倒したトロールの牙が一本と爪が二枚と氷漬けにしたトロールの肉が入っていた。
カルア村はシャロの出演料を増やしたのはがいいが、金が用意できないからと高く売れそうな武器やアイテムの素材を現物で支給したのだ。
「わかった。でも疲れたら交代するんだよ」
「はいです!」
手を伸ばしロッソのリーシャの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目をつむったのだった。ロッソが撫で終わるとリーシャは足取り軽くロッソとシャロの前を歩き始める。リーシャはボロボロのズボンを履いてシャロのおさがりの上着を羽織っていた。シャロの後ろ姿を見たシャロはロッソの背後へと早足で近づく。
「ねぇ。おにいちゃん。次の仕事の町についたらトロールの素材を換金してリーシャに服を買ってあげようね」
「あぁそうだな。いつまでも奴隷の時の格好じゃかわいそうだしな」
小声でシャロとロッソが話していた。
二時間ほど歩いて俺たちはエルシアンの町へと戻った。だが、落ち着く間もなく次の仕事の依頼主が手配してくれた馬車に乗り込んで旅立つ。シャロの次の仕事はすでに決まっていった。彼女の次の仕事はジブローの村にある”馬車の通り道”という名前の酒場での踊り子だった。
なんでも酒場のの踊り子が怪我をし、一ヵ月ほど治療にかかるため、店主は代役を探していた。食材の仕入れで、たまたま祭りの初日にカルア村に来ていた酒場の主人は、シャロの踊りを見て商業ギルドを通して依頼をしてきたという。ジブローはアクアーラ王国の王都アクアラとエルシアンの町を結ぶ、大きな街道の途中にある小さな町だ。エルシアンの町からジブローの町までは馬車で丸一日かかる。
「うん!? どうした?」
ロッソがのんびり座り馬車に揺られていると、シャロが急に彼の顔を覗き込んで来た。
「仕事を受けられてよかったわ。おにいちゃん! 今度は気を付けてね。いきなり人を投げないのよ!」
「そうですよ。あの人は痛そうだったです」
「わっわかったよ…… もうしつこいな…… 確かに早とちりした俺が悪かったけどさ…… あいつだって急に走ってシャロに近づいてくるんだから護衛としては手をださないと……」
不貞腐れてぶつぶつとつぶやくロッソ、実はカルア村で祭りの出番が終わったシャロに、商業ギルドの人間が次の仕事を伝えようと走ってきた。それを見ていた彼は暴漢だと思いこみとっ捕まえて投げ飛ばした。投げ飛ばされたのは、エルシアンの商業ギルドのかなり偉い人だったため、危うくシャロの仕事がキャンセルになるところだった。人を投げ飛ばす時はしっかりと確認しないといけないということ…… いや! そもそもいきなり人を投げ飛ばしてはいけない。
「ふぅ……」
馬車がのんびりと進み、ゆっくりと時間が流れる。幌付き馬車の荷台の隙間から、外の景色を一生懸命にリーシャが見てる。シャロは座ったまま顔を少し動かして馬車の中を眺めていた。
「いいなぁ。荷物もいっぱい運べるしやっぱり旅をするなら自分の馬車を買わないとね」
小声でうらやましそうにシャロが話している。
「確かに馬車があったら楽だろうけど馬車は高いからな。もう少し稼がないとな」
「うん。頑張る!」
顔の前で拳を握って気合をいれるシャロ、リーシャが彼女の真似をし、ロッソは二人を見てほほ笑むのだった。
途中で休憩を取りながら馬車は進み、次の日の昼過ぎ三人はジブローの町に到着した。
ジブローはアクアーラ王国の北側を東西に走る横切る第一アクア街道と、王国の中心からやや西よりに南北に縦断する第二エルシア街道が交差する地点に出来た町だ。街道が交わる交差点を中心に円形に組まれた城壁に石造りの町並みがある。
町の規模は大きくはないが、街道が交差する重要拠点である。そのためジブローには商人や旅人がひっきりなしに訪れ、アクアーラ王国各地の名産が集まってくる。なお、近隣は行き交う商人や旅人を狙う山賊が、たびたび現れ周辺の治安はあまりよくない。
ロッソたちはジブローの町の中心にある、街道の交差地点の手前で馬車を降りた。この交差地点は馬車の停車場や馬小屋が並んでいた。
「あっあれ…… もう帰るのか」
ロッソ達が乗ってきた馬車は、急に向きを変えて慌てた様子で、来た道を引き返していった。
「そういえば……」
不思議そうに周囲を見たロッソ、停車場の看板はあるが馬車は一台もないのだ。さらに馬小屋にも馬は一頭もおらずがらんとしている。町の雰囲気も少し寂しく人通りも少なかった。彼はキースとの旅でこの町を訪れており、その時と比べるとかなりさびれていた。ロッソが考え込んでいるとシャロが声をかけてくる。
「おにいちゃん? どうしたの?」
「いや…… なんか町がさみしいような気がして……」
「そう? こんなもんじゃない。ほら!? もうすぐ夕方だしみんな家でゆっくりしてるのよ! いいからいくよ」
「あっ! 待て!」
シャロがリーシャを連れて歩き出した。ロッソは慌てて二人の後を追う。自分が考えすぎで、シャロの言う通りなのかと疑問に思うロッソだったが、リーシャが着ているボロボロの服をなんとかするのが先だった。彼はまずは彼女が背負ったリュックに入ったアイテムを換金し衣服代にしようと考え二人に声をあっけr。
「シャロ、リーシャ、冒険者ギルドにトロールの素材を換金しに行こうか」
「行こう! 行こう!」
「行くです!」
魔物の爪や牙などは武具の素材と高く売れ、肉や体液などは食用になったり薬になるためこれも高く売れる。鍛冶屋や道具屋に直接持って行って売ることもできるが、トロールを解体してくれた冒険者が言うには冒険者ギルドで換金する方が良いという。理由は商人でもない素人が店に売りに行っても、難癖をつけられて安く買い叩かれるからだそうだ。
街道が交差する場所の一角にジブローの冒険者ギルドはある。なお、通りを挟んで向かい側は商業ギルドの建物となっている。
「なんだ!?」
シャロが冒険者ギルドの十メートルほど手前まで来ると振り向き、リーシャとつないでいる手をロッソへと差し出した。ロッソが手を前にだすと、シャロはリーシャから手をはなし、リーシャの手を今度はロッソが握る。
「はい。リーシャをお願いね。リーシャ。おにいちゃんと二人で換金お願いね。あたしは商業ギルドの支部に行ってくるからね」
「何しに行くんだ? もう仕事はもらっただろ?」
「あぁ、まわしてもらう仕事に歌も追加しておくのよ。大きな町の方なら手続きも早いからね」
得意気にシャロは胸を張って腰に両手を置いて話している。ロッソとリーシャは顔を見合わせた首をかしげるのだった。顔をあげたロッソはリーシャを見ながらシャロにたずねる。
「歌ってリーシャのことだよな?」
「当たり前でしょ? おにいちゃんは護衛であたしは踊り子なんだから! 踊りと歌の仕事受けれればもっと稼げるし演芸商売免状は一人が持って居ればメンバーを追加してもかまわないからね」
「でもリーシャは人前で歌ったことないだろ。大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。仕事を受けるのはリーシャを訓練してからにするから! じゃあ気を付けてね。二人とも!」
シャロは笑顔でリーシャに手を振り、颯爽と商業ギルドの建物中に入っていった。
「もう…… 俺は護衛でシャロは踊り子なのはわかってるよ。誰が歌の訓練をするんだ? 大丈夫かな……」
商業ギルドに入るシャロの背中を呆れた顔で、見つめてるロッソの手をリーシャが引っ張る。
「なに? リーシャ」
「旦那しゃん! 早く行くです」
「ごめんごめん。じゃあ行こうか」
「はい! いくです」
冒険者のギルドを指して早く行こうというリーシャにロッソは笑顔でうなずいた。二人は手をつないで、五階建ての大きな冒険者ギルドの建物へと向かうのだった。




