第17話 踊り子の交渉術
「へっ!? 何を言ってるんですか? こいつは私たちの奴隷だ。契約書もあるんだ!」
「そうだそうだ! 役人のところに行こうじゃないか!! そうすればお前たちは奴隷泥棒だぞ!」
グローリーと中年の男の言葉にロッソは二人を睨み、前に出ようと一歩踏み出した。
「なっ!?」
「大丈夫。任せて」
手をロッソの前にだしほほ笑んで彼を制するシャロだった。真顔になった彼女は静かに手を動かし始める。
ピンと両手の指を伸ばしたシャロは、両手を広げて優雅に手だけで踊りを始める。
「何が契約書よ…… リーシャを捨てて逃げたくせに……」
グローリーと男二人を睨みつけつぶやくシャロ。急に踊り始めたシャロを驚いた彼らは口を開けて見つめていた。シャロはゆっくりと両手を自分の顔の前で交差させ、指を反らせながら離すということを何度か繰り返していた。
男たち三人の視線はシャロの両手に釘付けであった。
「あっあれ…… なんか俺も……」
シャロの動きを見ていたロッソは視線を釘付けにされはなせなくなりうつろな顔に変わっていく。
「はっ!? そうだった……」
ロッソは視線を下に向け床を見つめる。シャロが彼の方を向き、声を出さずに口元を見るなと動かしたのだ。リーシャはシャロが動き始めてから、ずっと必死に目をつむっていた。しばらくしてシャロは踊りをやめゆっくりと二人に口を開く。
「リーシャ、おにいちゃん! こっちを見ても平気だよ」
勢いよくリーシャが目を開け、ロッソは顔をあげ三人の男たちに視線を向けた。男たちは三人とも目がトローンとしてシャロが踊っていた場所を黙って見つめていた。
「さぁグローリーさん! リーシャの契約書がありますよね? それを出してください。あと新しい契約書をつくりましょう」
グローリーはシャロの言葉に、嬉しそうに頷くと机の中から鍵を取り出して金庫を開け始めた。
ガチャンという音がして金庫が開くと、彼は中から紙の束をだして一枚抜いた、グローリーはシャロに紙を渡す。シャロはそれを近くにあったろうそくの火で燃やした。そしてグローリーは、何も書いてない紙を一枚取り出してペンを持つ。
「わたしグローリーはシャロ・フォーゲルに奴隷リーシャを一リロで売却します」
手に持ったペンでグローリーは、シャロの言った通りの文言を紙に書いていく。どうやらシャロはグローリーにリーシャをシャロにゆずると契約書を作らせているようだ。
「お兄ちゃん! 売却ってこれであってる?」
「えっ!?」
シャロが何度かロッソを呼び、契約書のわからない言葉とかを確認する。彼も詳しいわけではないが知ってる限りの言葉を伝えるのだった。
「さぁ。ここにサインして……」
最後にシャロはグローリーに契約のサインをするように促し、笑顔で彼は契約書にサインをするのだった。シャロは契約書を受け取ってロッソとリーシャに見せる。
「シャロ!? グローリーたちに何をしたんだ?」
「へへっ誘惑の踊りよ。あたしの踊りで相手を幻惑して言うことを聞かせるのよ」
「あっ! もしかしてリーシャの鎖の時も同じことを?」
「うん! 鎖の時は解呪の踊りを踊ったの。全部師匠に教わったのよ。踊りは旅の踊り子の身を守るすべだからね。他にも力増幅の踊りとか体力吸収とか踊れるわよ」
「おっおう。すごいな。シャロ」
シャロは自分の胸を叩き得意げに笑う。ロッソは感心してうなずく。シャロは師匠から魔法のような効果がある踊りを習得していた。ただし、そのような踊りを使うには高い踊りの技量が必要で習得には時間がかかる。踊りを始めて短いシャロが、魔法のような踊りを使いこなすことは彼女の才能が高いことを物語っていた。
処世術に長けさらに高度な踊りまで指導できるシャロの師匠に、ロッソは興味を持ちあってみたくなるのだった。
「うん!?」
しまったいう顔をしてシャロが慌てた様子でロッソの前で両手を合わせていた。
「おにいちゃん! ごめん! 一リロ貸して! 私はまだ出演料受け取ってない!」
「はぁ!? もう…… ほらよ!」
「せっかくほめたのに…… つめが甘いな」
「うるさいわね」
ロッソはやれやれと言った様子で、自分の財布から一リロ銅貨を出してシャロに渡した。シャロは悔しそうに彼から一リロ銅貨を受け取るのだった。
「ふぅ」
軽く息を吐いたシャロはグローリーの前に立って指をパチンと鳴らす。グローリーたちのトローンとした目が普通に戻った。
「はっ! お嬢さんわかったかな? リーシャは…… うん!?」
「これを見なさい!」
「なっなんだこれは!?」
先ほど作った契約書をシャロが、グローリーの目の前にだした。契約書の内容をジッと見つめたグローリーは驚き顔は青ざめていく。横に居た中年の男と若い男二人も、グローリーの肩越しに契約書を見て驚いていた。
「なんだこれは!? いつの間に!?」
「契約書でしょ? あなたのサイン入り! 一リロでリーシャを譲ってくれるのよね? はい! これあげるわ!」
シャロは笑いながら、一リロ銅貨をグローリーの机の上に置いた。グローリーは悔しそうに歯をきしませていた。
「こっこんなの無効……」
「どうぞ! 役人に言えば? 自分でサインしといて無効って認められるのかしらね? これでリーシャはあたし達の仲間よ! 文句はないわね?」
「うぐ……」
「じゃあね! 行くわよリーシャ! バイバイしなさい」
「バイバイです!」
笑ってシャロは右手に契約書を持ったまま振り向き、リーシャにグローリー達に挨拶するようにうながす。グローリー達にバイバイと手を振ったリーシャ。シャロはそれを見て優しく微笑み左手をリーシャに伸ばす。
リーシャは嬉しそうに笑って、シャロの左手をつかみ二人は一緒に歩きだす。ロッソは二人の後からテントの入り口へと歩き出す。
「おい! あいつらを!」
小声でグローリーが男たちに命令をだした。
「聞こえてるぞ。無駄なあがきはやめろ!」
ロッソが守護者大剣に手をかけて睨むと、三人は彼の気迫に威圧されしょんぼりとうつむくのだった。
テントから最後に出たロッソ、先を歩くシャロとリーシャが振り返った。二人は満面の笑みで嬉しさがにじみでていた。
「じゃあ、行こう! おにいちゃん、リーシャ!」
「あっ! 待ってほしいです。シャロしゃん! ロッソしゃん!」
「おい!? ちょっとリーシャ!? どこへ行くんだ」
「リーシャ!? 待って」
駆けだしたリーシャをロッソとシャロが追いかける。リーシャは大きなテント近くの自分がつながれていた檻の前まで来た。
「いい子にしてるですよ。言うこと聞かないと鞭で叩かれますからね」
リーシャは檻の中にいるブリザードジャガーに優しく声をかけている。世話をしていたブリザードジャガーに彼女は別れを言いにきたのだ。
前脚に顔をおいて目をつむっていたブリザードジャガーは、リーシャの顔をチラッとみただけで、すぐにまた目をつむった。
「リーシャ! そろそろ行くよ」
「はいです! バイバイです」
シャロがリーシャに声をかけるとリーシャは、ブリザードジャガーの檻の前から駆けだした。嬉しそうに駆けて寄ってきてリーシャはシャロの横までくるとシャロの右手と握って手を繋ぐ。
寂しそうに振り返って、リーシャはブリザードジャガーに手をつないでない方の手を振っていた。歩き出して檻が見えなくなるとリーシャ前を向いた歩きだした。
「えっ!? 俺もなの…… わかったよ」
嬉しそうに必死に手を伸ばしてリーシャはロッソの手もつなごうとする。リーシャを真ん中にして三人で並んで歩く。
「ねぇ、リーシャ! これからは私のことシャロさんじゃなくてシャロでいいよ」
「何でですか? リーシャは小さいから……」
「小さくても仲間なんだから! じゃあ、あたしはリーシャさんって呼んじゃう」
「わかったです…… シャっシャロ」
「リーシャ」
手をつなぎ見つめあって、リーシャはシャロと何度もお互いの名前を呼び合っていた。
「いいなぁ。なんか二人で名前呼び合って仲よしで…… うん!?」
リーシャがロッソを見上げてジッと考えてる。彼は今ここでリーシャに願えばロッソと呼んでもらえると考えた。
「あっ!、俺もロッソでいいよ」
「ロッソしゃんは…… 旦那しゃんです」
「えぇ!? なんで!?」
「えっと…… 大きくて強い人は旦那しゃんです! それに男の人の名前をそのまま呼ぶの少し恥ずかしいです……」
「なんか変なの。まぁリーシャがそう呼びたいなら止めないけどさ……」
ロッソを見上げリーシャは頬を赤くする。
「旦那さんねぇ…… ふーん。まぁおにいちゃんはあたしの護衛であたしがリーダーなんだからね」
「わかってるよ! うるせえな」
「ふん!」
シャロはリーシャの頭をなでながら、なぜか少し不満そうに口をとがらせていた。こうしてシャロとロッソの短い二人旅は終わリ、これからはリーシャを加えた三人の旅が始まるのだった。




