第16話 これからは一緒に
「ふぅ…… やっと外れたよ」
「ほぇ! 苦しいのなくなったです!」
ロッソとシャロの二人はリーシャにシャロの服を着せて、サーカスの人間に見つからないようにして、宿の自室へと連れてきた。
部屋でリーシャの鍵付きの首輪に、シャロがヘアピンを突っ込み、悪戦苦闘しながら開けた。外れた首輪を自慢げにシャロはドアの横に立って外の様子をうかがっているロッソに見せてくる。
外れたリーシャの首輪を見たロッソは、首輪が外れリーシャが解放されたのはうれしいが、シャロがいつの間にピッキングなんか覚えていたことにあきれたのだった。ピッキングをシャロに教えたのは彼女の踊りの師匠だ。
シャロは師匠に踊りの技術以外に、処世術のようなものも教わっていた。
「いい? もうリーシャはあたし達の仲間よ。これからは一緒に旅をしましょう」
「いいんですか!? 嬉しいです」
目に涙をため顔をクシャクシャにし、リーシャはシャロに抱き着いた。シャロは泣きそうなリーシャを抱きしめて愛おしそうに頭を撫でていた。
トロールとゴブリンの襲撃で今日の祭りは中止になった。ただし、カルア村にとっては大事な祭りのため、近い内に再度開催される予定だという。
「うん! 一緒にお母さんとお父さんを探そうね。あとすぐに新しいお洋服とか買ってあげるからね」
「はい」
シャロはリーシャが気に入ったようで嬉しそうに話している。楽し気な二人を見てロッソは彼女が、昔から妹か弟がほしいとか言っていたことを思い出す。
「さて。問題はこれからからだな。このままサーカスのやつらが引き下がるとは思えない…… うん!?」
音がして部屋のドアが急に勢いよく開かれた。ロッソが視線をドアへ向けると、中年と若い男の二人がドアの前にいて部屋に入ろうとしていた。
ロッソは二人の顔を見て思い出した。二人はサーカス会場に居た団員で、中年の男はリーシャを殴った男だった。ドアの横に立っていたロッソは、二人の前に立ちふさがった。
「何の用だ?」
「どけ! あっ! ここにいたのか! リーシャ! 出てこい!!」
中年の男がロッソの隙間から部屋を覗いて叫ぶ。おびえたリーシャが耳をぺたんと下にして、シャロの背中に隠れた。
「てめえ! おいリーシャ! 帰るぞ! どけ」
ドアの前からどかそうと男がロッソの肩を押した。しかし、押されたロッソはびくともせずに、逆に押してきた男の手を左手で払い、彼の首に右手でわしづかみにして持ち上げた。前向きに持ち上げられた男は、足をバタバタさせて苦しそうにしている。ついてきた若い男はロッソの持ち上げられる、中年の男の姿に恐怖し後ずさりしていた。
「くっ苦しい! たっ助けて……」
顔を青くする男を見たロッソはパッと手を開いた。男は落下して地面に落下して尻もちをついた。
「ギャッ!!! 何しやがる!!!!」
「それはこっちのセリフだ。ここはうら若き踊り子の乙女が泊る部屋だぜ。男子禁制に決まってるだろ」
「うっうるせえ! お前だって男じゃねえか!」
「あぁ!? 俺は護衛だから特別に決まってんだろうが。俺が居なきゃお前みたいなのが勝手に入って悪さするだろうが!!?」
「くっ…… とにかくあのリーシャは俺たちの奴隷なんだ! 返せ!」
立ち上がった中年の男は、リーシャを指さしてロッソに向かって叫ぶ。ロッソは威嚇するために拳に力を込め振り上げた。二メートル近い大男のロッソが繰り出そうとする、太くたくましい拳を見た男は顔を青くする。
「ひぃ!!」
怯えた男が手を顔の前に出した。しかし、すぐにシャロが立ち上がり、ロッソの肩に手をかけて止める。
「おにいちゃん! ちょっと待って! 私が話すわ」
「おっおう」
止められたロッソは、拳を下ろした。彼の横を通り過ぎシャロは、中年の男に近づいていく。
「あんた!」
「なっなんでぇ……」
男の前に立って顔を覗き込み、力強い瞳を持つシャロが目を吊り上げて男を睨みつける。顎が小さく凜とした顔つきをしたシャロの鋭い視線に男は圧倒される。
「リーシャの事ははっきりさせてやるわ! ほら! あんた達のボスのところに案内しなさい」
「んだと…… わっわかった! つっついて来い」
中年の男はシャロに圧倒され素直に返事をし、若い男と連れて宿屋の廊下を歩き始めた。男たちが部屋を出るとシャロは振り向いてロッソにほほ笑むのだった。ロッソとシャロとリーシャの三人は、男たちと村の外れにあるサーカス会場へと向かう。
「シャロ…… お前どうするつもりだよ? リーシャのことはっきりさせるって……」
「へへ、任せておいてよ。きっちり話をつけるのよ。おにいちゃんはいざという時まで出ないでいいわよ」
「おっおう…… 大丈夫か……」
ロッソの心配をよそにシャロは、自信ありげに堂々と道を歩いていくのであった。
サーカス会場の広場にある、ゴブリンたち破壊されボロボロになった大きなテントの横の、小さな白いテントの前にロッソ達は連れてこられた。
「ここが団長のテントだ。ちょっと待ってろ。団長…… ただいま戻りました」
男たち二人がロッソたちをテントの前に待たせて中へと入っていった。入り口を閉じられるとシャロがロッソとリーシャに声をかけてきた。
「おにいちゃん、リーシャ、テントに入ったらあたしが良いって言うまであたしの方を見ちゃダメよ」
「えっ!? シャロ? どういうこと?」
「いいから! お願いね」
「はいです」
シャロの提案を不思議に思ったが、ロッソは自信満々な彼女を信じとりあえず同意して頷いた。ロッソがうなずくとシャロはほほ笑むのだった。
「入れ! さっさとしろ!」
テントの中から中年の男が顔をだし、ロッソたちに中へ入るように命令する。シャロを先頭にし、リーシャが続き最後尾にロッソという順でテントの中へ入る。
通されたテントの中には大きな木で出来た机が置かれ、机の後ろにアクアーラ王国の地図が掲げられていた。地図の下には黒い大きな金庫が置いてあった。黒い椅子の奥に置かれた椅子に、黒いスーツに頭にシルクハットをかぶり、胸に蝶ネクタイをつけた鼻の下に立派な髭を生やした男が笑顔で座り待っていた。
ロッソたちを案内した、中年の男と一緒に宿に来た若い男が、机の横に立ち座っているシルクハットの男に声をかける。
「団長! こいつらです」
「おぉそうか! よくいらっしゃいました。私がサーカス団の団長グローリーです」
立ち上がってグローリーは、シルクハットを脱いで胸の前に持ってきて頭を下げ名乗る。
「私はシャロ、こっちは護衛のロッソです」
シャロもグローリーに頭を下げ名乗りロッソを紹介した。シャロを見つめグローリーはにこやかに口を開く。彼の笑顔でわざとらしく、どことなくシャロを見下しているような感じがする。
「リーシャを保護してくれたのですね。ありがとうございます。さっそくですがリーシャは大事なサーカスの一員ですご返却いただけると助かるのですが?」
「保護? 返却? 何を言ってるんですか? リーシャは私の仲間ですよ」
自分のすぐ後ろに居たリーシャを抱き寄せ、シャロは笑いながらグローリーに答えた。グローリーは目を大きく開いて驚いた顔をするのだった。




