第15話 護衛と踊り子、奴隷を救う
鎖に向かってロッソは力いっぱい、守護者大剣を振り下ろした。甲高い金属のぶつかり合う音がして彼の手に硬い手応えが伝わる。しかし、音がしてわずかに震えただけで、鎖は傷一つつかなかった。
「なんで!? 馬鹿な…… 鎖くらい一撃で…… クソ!」
ロッソはもう一度剣を構え、鎖に向けて全力で大剣を振り下ろした。結果は変わらずガンという音がし、一瞬だけ鎖がオレンジ色に光るだけだった。鎖を見たロッソが何かに気付く。
「これは‥… クソ! 魔法で鎖を強化してやがるのか!」
鎖は魔法で強度を上げられており、簡単には切られないようになっていた。トロールの足音が大きくさらに近くなってくる。視線をシャロとリーシャに向けるロッソ、彼はろくに動けないリーシャを守りながら、トロールとゴブリンを相手にしなければならないようだ。ロッソはシャロに顔を向けた。
「シャロ。お前だけでも逃げろ!」
「大丈夫よ。お兄ちゃん。ここはあたしに任せて!」
「えっ!?」
「いいから早くどいて!」
シャロがロッソの前に手を出し、下がるように指示をした。ロッソがリーシャの鎖の前から下がると、割り込むようにして鎖の前に立って大きく息を吸い込んだ。
「シャッシャロ!? お前こんな時に何をやってるんだ!?」
ロッソが叫ぶ。シャロは手をゆっくり斜めに構え、上下に動かし足を擦って優雅に踊り始めた。シャロは踊りを続けながら眉間にシワを寄せ不機嫌そうな顔をロッソに向ける。
「いいからおにいちゃんは黙ってて」
「なっ!? えっ!? これは……」
踊りを続けるシャロ、すぐに地面についていた鎖が勝手に浮かび上がった。さらにシャロが踊りを続けると鎖からオレンジ色の細かい光が飛び出していく。シャロは鎖を見て笑顔になった。
「もういいわ。これで強化魔法を解除できたはずよ」
鎖を指さしたシャロ、彼女は踊りで鎖にかかった魔法を解除したのだ。
「えっ!? シャロお前一体に何を?!」
「いいから! 話は後よ。時間がないから! さぁ早く鎖を斬って!」
「わかった」
うなずいたロッソは鎖を自分の近くへと置き、守護者大剣を上から振り下ろした。先ほどと違い今度はいとも簡単に鎖は断ち切られた。鎖が斬れるとリーシャとシャロは抱き合って喜んでいた。
「さぁ! これでリーシャと一緒に…… チッ! 少し時間をかけすぎたようだな」
大きなトロールはサーカスのテントのそばまで来ており、トロールはロッソたちを見てにんまりと笑っていた。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
巨体を揺らし肩に棍棒をかついだトロールが、ロッソたちに向かってゆっくりと歩いて来る。
トロールの足元には、数十匹のゴブリンが群がり一緒に行動をしていた。トロールがゴブリンを従えてるようだ。迫りくるトロールとゴブリンの集団、シャロとリーシャの顔は恐怖で引きつっているが、歴戦の戦士であるロッソは冷静に状況を確認していた。彼はゴブリンのボスとなった、トロールを倒せば集団は混乱し逃げ出すだろうと予測していた。
「シャロ! リーシャを連れて逃げろ!」
「でも、おにいちゃんは?」
「そうですよ。ロッソしゃんも逃げるです。あんな大きいのに勝てる訳ないです」
「大丈夫。俺がこいつらを何とかする。シャロ! リーシャを頼んだぞ!」
シャロはうなずくとリーシャの手を取って走り出した。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
逃げようとするシャロとリーシャに、棍棒の先を向けてトロールが叫ぶ。一斉にゴブリンがシャロ達に向かっていく。
ロッソは向かって来るゴブリンたちの前へと出ると、守護者大剣を両手に持って構えてゴブリンに剣先を向けた。
「もう手加減はしないからな!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
気合をいれ叫んだロッソは、一気に守護者大剣に闘気をこめた。
守護者大剣を中心に、白く光る透明の魔法障壁がドーム型の形に作られて膨張していく。勢いよく駆けてきたゴブリンたちは展開された障壁に気づかずにぶつかる。
「「「「「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」」」」」
魔法障壁にぶつかったゴブリンたちは、白い光を放ち次々に溶けて肉片となり障壁にこびりつく。仲間の惨状を見たゴブリンは逃げ惑いトロールの体の後ろへと隠れるのだった。
「フン! 甘いんだよ!!!」
ロッソはさらに闘気を強めていく。魔法障壁は膨張を続けトロールへと迫っていく。
「ブホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
前に出てトロールは迫って来た魔法障壁を棍棒を振り下ろした。破壊されたサーカス会場に大きな音が響く。
「ブホォ!? ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
魔法障壁の硬さにトロールの棍棒は弾かれ、さらに膨張する魔法障壁に腹を押されたトロールは背中から倒れた。背後にいたゴブリンたちは倒れてきたトロールの下敷きになる。魔法障壁は膨張を続け、残ったゴブリンを溶かしていく。トロールは魔法障壁で溶けることはなかったが倒れたまま膨張する魔法障壁に引きずられいく。トロールが動くと、つぶれたゴブリンたちの血が地面を染めていった。魔法障壁はサーカス会場となっている広場の端まで広が止まった。動きが止まったゴブリンは頭に手を当て体を起こす。
「ブホォ!!」
たくさんいたはずのゴブリンはすべて魔法障壁によって消えていた。仲間が居なくなったトロールは悲し気な声をあげるのだった。
「さぁ…… トロールさんこれで一対一だな。せっかくこの間は見逃してやったのにのこのこ出てきたことを後悔させてやるよ!」
右腕を伸ばし大剣の切っ先をトロールに向けロッソが叫ぶ。
「ぶおおおおーー!」
起き上がったトロールはロッソを睨む。美味しい餌と忠実な部下を失ったトロールは怒っている。近くの地面に転がっていた棍棒を拾ったトロールは駆け出した。駆け出してすぐにトロールは、右手に持った棍棒を背中まで振り上げそのままロッソへと駆けて来る。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーン!!!!!!!!!」
トロールはロッソの頭へとめがけて棍棒を振り下ろす。巨大な棍棒の影が、大柄なロッソを覆い周囲を暗くする。静かにロッソは振り下ろされる棍棒を見上げていた。
「ほい!」
タイミングを合わせてロッソは右手に持った守護者大剣を振り上げた。鋭くのびる守護者大剣が棍棒を迎え撃った。棍棒と大剣がぶつかり大きな音が響く。
「クッ! さすがに図体がでかいだけあるな!!!」
眉間にシワをよせ顔をしかめるロッソ、振り下ろされた棍棒の威力に彼の手が少ししびれたのだ。ロッソは手のしびれなどにかまわず守護者大剣を振りぬいた。大剣は棍棒を切り裂き真っ二つにし、棍棒の丸い先端が回転しながら飛んで行った。
大剣を振りぬいたロッソはそのまま左前へと足をだす、彼はトロールの巨体の横を通り過ぎ、体を入れ替えるようにしてトロールの右後方へと回りこむ。ロッソは振りぬいた姿勢のまま自分の体の左へと持って来ていた守護者大剣に左手を持って行き両手でしっかり握り構えた。
「ふがぁ!?」
切り裂かれた棍棒の先端を見たトロールは間抜けな声をだす。背後に回られロッソを見失ったトロールは困った様子で首を左右に動かして探す。ロッソはその様子を見て笑顔でトロールに声をかける。
「よぉ! でも、もう遅いぞ……」
ロッソの声に反応し、トロールは後ろを向いた。トロールはロッソを見ると、急いで体を反転しようとした。しかし、ロッソは再び前に出る、守護者大剣を地面をほぼ水平に、横に薙ぎ払うようにしてトロールの右足をふくらはぎの後ろから切りつけた。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
トロールの悲痛な叫び声が轟く。トロールの右足首から、人間と同じ赤い血が噴き出す。足を斬りつけたロッソはそのまま駆け抜けトロールの背後へ、彼は背後へと抜けても走り続けトロールから五メートルほど距離を取った。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
眉間にシワをよせ苦痛に顔をゆがめたトロールは、立ち止まったロッソに向けて棍棒を投げた。
「おっと!」
冷静にロッソは右へ飛んだ。トロールの投げた棍棒は、ロッソが居た場所へと投げつけられ、地面がえぐれ砂埃が舞う。
着地すると同時にロッソは走り出し、弧を描くようにしてトロールの右に回り込み、彼は大剣を構えた。トロールは拳を握った右手で、ロッソへ殴りかかってくる。鋭い拳が彼へと突き出される。
「よっと!」
ロッソはトロールの拳をひきつけ、ギリギリのところで横へ足をだしてかわす。彼の体をすぐ横を拳が通過して地面に向かっていく。地面に叩きつけられた拳が土を巻き上げて煙がロッソの周りに充満する。
目の前に見える叩きつけられた、トロールの拳にそこから伸びる右腕。ロッソは体の向きを変え両手を上にあげた、彼はトロールの右手首に向かって守護者大剣を振り下ろす。
「おりゃああああああああ!!!!!!!!!」
すっとロッソの大剣は地面へと落ちて行った。彼が繰り出した鋭い守護者大剣の一撃はトロールの右手首の先をいとも簡単に切り落とした。
「ブホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
叫び声をあげながらトロールは、苦痛の表情を浮かべ左手で右手首を抑えた。周囲には手首から吹き出した血が舞いロッソの体にもふりかける。
彼は血を気にすることなく、駆けだし再度トロールの右足首を斬りつけた。守護者大剣の刃が足首と肉と骨をえぐり、生暖かい液体がまたロッソの顔にかかる。ロッソはそのまま駆け抜けてトロールの背後へと移動した。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
大きな音がして地面がわずかに揺れる。トロールは悲鳴をあげながら、バランスと崩し横に倒れたのだった。トロールはのたうち回りうつ伏せになり膝を立て、左手で血が流れる右手を抑えてうずくまった。
ロッソは守護者大剣を器用に回しながら、ゆっくりとトロールの顔へと回り込んむ。顔の前までくると苦しそうな顔をした、トロールが彼に視線を向けた。顎を地面につけ顔をあげたトロールのロッソを見る目は涙で潤み表情は引きつりひどく怯えていた。
「そういう目で見られるのは久しぶりだな。うん…… いや…… 待て! シャロのせいで二日前にリーシャに怯えた顔で見られたっけ…… まぁいい!」
首を横に振ったロッソは足を曲げ腰を落とし、守護者大剣の剣先をトロールへと向けた。
「お前に恨みはない。ただ…… 今の俺には守らなきゃいけない人がいるんだ。悪いな」
トロールに話しかけたロッソは、右腕を勢いよく突き出してトロールの額に守護者大剣を突き立てた。
にぶい音がして守護者大剣はトロールの頭蓋骨を砕いた。刺さった刀身と額に開いた穴の隙間から血がしたたり落ちていく。額に剣を突き刺されたトロールは声も出さずに動かなくなった。ロッソはトロールの顔に足をかけて大剣を抜く。
「ふぅ、これで終わりだな」
地面についてロッソは、小さく息を吐いてつぶやき大剣を軽く振り、次に左腕を曲げ袖に刀身をはわせるようにして血を拭うのだった。
トロールが死にボスを失ったゴブリンたちは統率を失い逃げ惑う。その後、ゴブリン襲撃の通報を聞いてやってきた冒険者たちは逃げ遅れたゴブリンたちを討伐したのだった。
ちなみにロッソは助けに来た、冒険者たちから感謝されると期待したのだが、逆に獲物のトロールを奪ったと文句を言われたのだった。




