第14話 リーシャの元へ急げ
カルア村を襲ったゴブリンは、森や洞窟などに集落をつくる下級の魔物だ。繁殖力が高く個体の戦闘力は低い魔物で、単体ではなく集団で獲物を狙うのが特徴だ。主に野生動物や魔物が獲物だが、集落の規模が大きくなると人間の村や町を襲って略奪行為を行うこともある。
「シャロ! 避難するぞ。クソ!」
避難しようとロッソはシャロの腕をつかもうと手を伸ばした。大抵のゴブリンの集落は、町や村を襲うほどの規模になる前に、冒険者や軍隊が駆除されるはずだ。カルアのような大きな村を襲える程に発展したゴブリンの集落はめずらしく、おそらく魔王軍との戦争でゴブリンへの監視がゆるんでいたのだろう。
「おい!? 何するんだ!」
シャロは自分の腕をつかもうとするロッソの手をはたいた。
「おにいちゃん! ダメ! あたしはリーシャのとこに行く」
「リーシャのところって!? リーシャだってサーカスの人達と一緒に避難するだろ」
「お願い!」
「シャロ……」
ロッソの両手をつかみ、シャロは涙目で彼の顔を見つめる。
「リーシャがちゃんと避難できたか確認したいの…… あの子…… 首に鎖を着けられてるから…… お願い! お願い!!!」
必死に頼み込むシャロは、ロッソの両手を強くつかみ小刻みに震えている。ロッソは彼女の姿を見て小さく息を吐く。
「はぁ…… わかったよ。ただし、絶対に俺から離れるなよ」
「うん!」
笑顔で何度もシャロが頷く。ロッソは視線をリーシャがいる町はずれの広場へと向けるのだった。
すぐに宿屋に戻ったロッソは装備を整え、シャロと一緒にリーシャがいた村の外れのサーカス会場へと向かう二人の泊っていた宿は、村の中心から少し北に行ったところにある。祭壇の丘は村の北東にあり、リーシャがいたサーカス会場は村の南東にある。
「南側から侵入したみたいだな…… ゴブリンはどうやって…… あいつらには簡単に壊せないだろう」
走りながら逃げる人を見つめるロッソがつぶやく。彼は村人が逃げてくる方角から、ゴブリンたちは村の南側の柵を破壊して侵入したと確信した。だが、村は全方位に城壁のような強固な柵に囲まれ、ゴブリンたちが侵入するのは難しいはずなのだ。
「おにいちゃん! あれ!」
「えっ!?」
逃げ惑う人を避けながら、村の道を走っていると遠くを指さしてシャロが叫ぶ。
シャロが指した方向へと視線を向けるロッソ、木造りの家が並んだ屋根の向こうに、ゆっくりと揺れて動くトロールの頭がみえる。トロールが右手を上げた。
「あのトロールは…… ここに来るときに街道で会った。なるほど」
トロールの上げた右手には、棍棒が握られていた。ロッソたちが森で遭遇したトロールが、ゴブリンを従えて村を襲ってきたったのだ。大柄で力の強いトロールなら村の柵を破壊できる。
「まずいな」
トロールはロッソたちと並ぶようにして、サーカステントがある方角へと歩いている。リーシャがまだ残っていたら彼女はゴブリンとトロールに襲われてしまう。
「うわ!」
ロッソたちの前にゴブリンが二体飛びしてきた。ゴブリンは皮膚が緑色をした一メートルほどの人型の魔物だ。下あごから牙が生え長い鼻に、大きくてぎょろっとした飛び出しそうな楕円形の目をした醜い顔をし、ロッソとシャロを睨みつける。
「下がれ!」
左腕を横に出しロッソは、シャロを自分の背中に後ろに隠した。ニヤッと笑ったゴブリンは、手に持った小さいボロボロの鉄製の剣を振り上げて飛びかかって来た。
「邪魔だ」
ロッソは腰を落とし背負った守護者大剣のグリップを右手でつかむと、飛びかかってきたゴブリンを見てタイミングをはかる。
「はっ!!」
体をひねながらロッソは守護者大剣を抜き。剣を抜いた勢いで飛びかかるる二体のゴブリンを斬りつけた。長い守護者大剣の刀身が空気を切る音をたててゴブリンへと向かって行く。
守護者大剣は飛びかかってきた、二体のゴブリンのうち、一体の体をへそのあたりで真っ二つに切り裂いた。回転しながら下半身はロッソの足元に、上半身は彼の後ろに流れるように落ちていった。タイミングがわずかにずれ、刀身はもう一体のゴブリンの左足に当たり、膝から下を切断した。足を斬られたゴブリンはすれ違い、ロッソの右後方に地面にゴブリンは叩きつけられた。
「ギギャ!? ギギ……」
片足でバランスを崩して倒れた、ゴブリンは両手ではって逃げようとする。
「逃がすか」
顔にかかったゴブリンの血を左手でぬぐったロッソ。彼は表情一つ変えずにはいずりながら逃げようとする、ゴブリンの背中に守護者大剣を突き刺した。
骨の砕かれる音と何かがつぶれるブシュッという音がし剣はゴブリンを貫く。ゴブリンは手足がビクンと震えて動かなくなった。
「もうここまでゴブリンが…… シャロ! 急ぐぞ」
「うん」
シャロに顔を向けロッソは急ごうと声をかかえた。ロッソシャロはサーカス会場へと走り出すのだった。
二人はサーカス会場がある空き地へ駆け込んだ。サーカスのテントはところどころ破かれて、周囲に人が倒れていた。
「えっと…… こっちか」
昨日リーシャと会った檻の方から、魔物の鳴き声のような音が聞こえた。ロッソは慎重に剣を構え、シャロを背中に隠しリーシャと会った場所へ近づく。
「来るなですーーー! フニャーーー!」
大きな声がリーシャの声が聞こえた。まだ彼女は避難していないようだ。シャロと顔を見合わせて頷いたロッソはリーシャの元へと駆けだした。
ブリザードジャガーがいる檻の前で来たロッソ、リーシャが十体ほどのゴブリン達に囲まれているのが彼に見える。迫ってくるゴブリンに向かって、リーシャは耳と尻尾をピンと立てて大声で威嚇していたようだ。
「リーシャーーー!」
ロッソはリーシャの姿を見て叫んだ。彼の声に気付いたゴブリンたちは振り向き一斉に向かって来る。
「邪魔だ!!! どけーーーーー!!!」
向かってくる醜い顔のゴブリンたちに向け、ロッソは守護者大剣を水平に振りぬく。一撃で二体のゴブリンの体が引き裂かれ、彼の顔に生暖かい血がかかる。ロッソは血を気にすることなく剣を返すとまた水平に剣を振りぬく。ゴブリンが一体、目の前まで迫っていたが、ロッソの大剣が首へとめり込んでいく。ロッソが大剣を振りぬくと、ゴブリンの首は彼の足元へと転がった。右のつま先にコツンと転がったゴブリンの首が当たりロッソは視線を下に向けた。
「ほらよ! 返すぜ」
「グギャ!!」
「「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」
「グギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
右足を振り上げたロッソは、地面に転がったゴブリンの首を蹴りあげた。ポーンと浮かび上がったゴブリンの首は駆けて来た仲間のゴブリンの体に当たった。首をぶつけられたゴブリンは転び、駆けて来るゴブリンたちは踏みつけられたつぶれた。つぶれたゴブリンの血が地面をそれ、駆けてきたゴブリンたちも足をひっかたり滑らせたりして転ぶ。ゴブリンの勢いは完全に消えた。
ロッソは勢いが消えたゴブリンへ向かっていき、一気に距離を詰めて攻撃を続けた。ロッソが剣を振るたびグシャという大剣にゴブリンがつぶされる音と悲鳴が檻の前に響くのだった。
「これで最後だ!」
剣のグリップを通してロッソに手応えが伝わる。彼の振りぬいた守護者大剣がリーシャを囲む最後のゴブリンの首をはね飛ばした。
「ふぅ…… 終わり」
左腕を曲げたロッソは、大剣の刀身を肘に挟むようにして横にスライドさせ血を拭った。そこから大剣を下げた彼はリーシャへと向かって歩いて行く。リーシャはロッソの姿を見て笑顔になった。
「ロッソしゃん!」
大きな声でリーシャはロッソの名を叫び走って来た。ロッソは走る彼女を見つめ、体に傷がないかの確認をする。幸いリーシャに怪我はないようだ。
「リーシャ!!!」
ロッソの横をシャロが駆け抜けていき、リーシャの元へ向かって行く。リーシャは駆けてながらシャロに両手を広げた。
「リーシャ!!! 大丈夫? ケガはない?」
「ケガしてないです」
「よかった……」
シャロとリーシャは抱き合って喜びあっていた。ロッソは周囲に目を配りながら二人のそばに寄り添う。シャロはリーシャの肩をつかんだ。
「なんで逃げないの!」
「だって…… 鎖が…… それに魔物しゃんも逃げてないです……」
うつむいて申し訳なさそうに首の鎖を持ってリーシャが答えた。シャロは優しく微笑むとリーシャの頭を撫でた。
「そっか。サーカスの他の人たちは?」
「みんなリーシャのことを置いて逃げたです」
「そう…… もう大丈夫よ。あたしとおにいちゃんが一緒にいるからね。もう安心だよ」
「はい!」
リーシャは笑顔でうなずき、シャロは彼女をそっと優しく抱きしめるのだった。
「さて…… まだ安心ってわけでもないみたいだな」
視線を左右に動かすロッソ。複数の小さい動物が動いているような足音が彼らに近づいてきていた。シャロとリーシャの前に立ってロッソは剣を構えた。
「「「「「「「「ギギャーーーーー!」」」」」」」」
ゴブリンの集団がロッソたちの周りに集まってきた。ロッソたちを取り囲み、醜い顔のゴブリンは彼らを見ながら舌なめずりをしながら笑い余計に醜くなっていた。
「一、二、三…… 二十匹くらいか。何ニヤニヤしてんだよ。まさか数の多さで勝つ気でいるんじゃねえだろうな…… なめるなよ!!!」
叫んだロッソは守護者大剣を大きく振り上げ、切っ先を下に向け振り下ろし地面につきさした。ゴブリンたちは彼の行動を見てまだ笑っていた。
「これでも俺はな。勇者キースのパーティメンバーだったんだ。集団だからってたかがゴブリンごときには負けねるわけねえんだよ!!!!」
突き刺した守護者大剣を強く握ったロッソだった。
「不可侵領域!」
ロッソは大剣に闘気を送り込む。剣を中心にドーム型の薄い光の壁が俺とシャロとリーシャを包む。
守護者大剣は使用者の闘気を魔力に変換し光属性の魔法障壁へを生み出す。現れた魔法障壁に不思議な顔をしたゴブリンだったが、すぐに武器を構えて飛びかかった。一斉に飛び上がったゴブリンが剣で魔法障壁を斬りつける
「「「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」」」」」
魔法障壁を斬りつけたゴブリンは、白い光に照らされ体が溶けていく。肉が溶け次に目玉や臓物が溶け最後に骨が溶けた。ゴブリンを形成していた薄汚い緑の液体が壁につたい落ち、続いてゴブリンが持っていた短い石の剣と、身に着けていた革の腰巻が魔法障壁からずり落ちて地面に転がる。
守護者大剣が発する光属性の魔法障壁は、ゴブリン程度の下級モンスターであれば触れただけで消滅してしまうのだ。
残ったゴブリンたちは驚愕の表情をうかべ後ずさりを始めた。
「ほらほら! そんなにのんびりしてて平気かい?」
ロッソはさらに闘気を守護者大剣に送り込んでいく。魔法障壁がどんどん膨張していきゴブリンたちへと迫っていく。
「「「「「「ギギャアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」」」」」
迫って来る光の壁を見たゴブリンたちは、恐怖に顔を引きつらせ一斉にロッソたちに背中を見せて逃げ始めた。
「逃がすかよ!」
送り込む闘気を増やしたロッソ、魔法障壁が膨張スピードが上がりゴブリンたちの背後に迫る。
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」」」」」
ゴブリンの断末魔が響き渡る。膨張した魔法障壁がゴブリンたちに追いついた。光の壁に触れたゴブリンは溶けて薄汚い緑の液体へと変わり、ロッソを取り囲んだゴブリンは全て消滅した。
「ふぅ……」
剣を抜いた振り向いたロッソにシャロとリーシャは笑顔を見せた。ロッソはリーシャに視線を向ける。彼女の首には鎖が繋がれた首輪がある。リーシャの首輪には外れないように鍵かかけられており、彼女と一緒に逃げるにははまず首輪を外さなければならなかった。
「リーシャ。首輪の鍵は?」
「どこにあるか知らないです……」
「そっか……」
「あたし探してくる!」
「待て! 静かに!」
立ち上がって走りだそうとする、シャロの手をロッソがつかんで止めた。直後にズシーンズシーンという大きな足音が三人の耳に届く。トロールがこちらに近づいてきているようだ。
鍵を探して首輪を外している余裕はない。ロッソは守護者大剣を強く握る。
「シャロ! リーシャから離れろ。俺が鎖を叩き斬る!」
立ち上がってリーシャからシャロが離れた。ロッソは鎖を伸ばし、地面に置き背中のまで剣を振り上げた。
「うおりゃーーー!!!!!!!!!!!!!」
全力でロッソは守護者大剣を振り下ろすのだった。




