第13話 決意
シャロは頬を膨らませた、逃げるリーシャを追いかけ彼女は飛びついて抱き着いた。
「もう! こうしてやる!」
リーシャに抱き着いたシャロは、自分のほっぺたをリーシャのほっぺたに擦りつけたいた。驚いたリーシャは声を上げてシャロを離そうとする。
「うわぁダメです!」
「いいんだよ。リーシャ…… 気にしないで大丈夫よ。大丈夫だからね……」
「シャロしゃん……」
腕に力をこめてシャロは、精一杯強くリーシャのことを抱きしめる。彼女はリーシャの耳元で、小さな声で大丈夫と何度も伝えていた。リーシャは泣きそうな顔でシャロの腕をつかんでいた。
「そうだ! リーシャの髪を洗ってあげる」
「ダメですよ。ここにお水ないですし…… 勝手に使ったら怒られます」
「大丈夫よ。おにいちゃん! 宿の人にお湯を沸かしてもらって桶に入れてもってきて」
シャロは笑顔で宿がある方角を指さし、ロッソに向かって宿でお湯をもらってこいと命令する。急に命令され驚き呆然とするロッソだった。シャロは彼が動かないことに、不満そうに頬を膨らませると、駆け寄って手を掴んで立たそうとする。
「おっおい!?」
「いいから! 早く立ちなさい! ほら! おにいちゃんは体大きいんだからそれくらい簡単に運べるでしょ? はい! ほら早く持ってくる」
「なっなんだよ。もう……」
シャロに手を引っ張られたロッソは、渋々立ち上がるとリーシャに手を振り、宿へと向かい歩き出した。
「ほぇ! シャロしゃん猛獣使いみたいです」
「でしょ! 実は私はすごい猛獣使いなのよ!」
「ほぇぇぇぇ!」
「嘘をつくな! ただの駆け出しの踊り子だろうが」
「へへへ」
背後で聞こえる適当な会話を正すために振り向き叫ぶロッソだった。シャロはニヤつきながら頭をかく仕草をするのだった。
宿に戻ったロッソは桶に湯を入れ持ってきた。彼の鞄からシャンプーを取り出した、シャロは桶のお湯をつかいリーシャの髪を洗い始めた。
「ゴシゴシ! リーシャの髪…… フワフワして柔らかーい。しかもすごい綺麗だね」
「ほんとですか!? うれしいです」
リーシャの声が弾んおりすごく喜んでいるようで安心するロッソだった。
優しい手つきでシャロは、リーシャの髪を洗い。リーシャは気持ち良さそうに目をつむっている。
洗髪が終わりロッソとシャロのリーシャの三人は並んで座って話をした。リーシャはすごくうれしかったのかシャロが洗った髪の毛をずっと触っていた。
「リーシャはどうして奴隷にされてるの?」
「そっそれは……」
シャロの問いかけにうつむきリーシャがゆっくりと話しだした。
二年ほど前に彼女の村は魔王軍に襲われ、家族はバラバラになってしまった。一人で逃げていたリーシャは、サーカスに偶然に拾われたという。食べ物や飲み物を与えられ、家族を探してくれるという話だったが、リーシャはサーカスに騙され奴隷にされてしまったという。
シャロはリーシャの話を聞き、彼女を抱きしめていた。ロッソやシャロのこともリーシャが聞いたので二人は自分の子供のころなど話をたくさんリーシャに聞かせた。
三人で話す楽しい時間は、あっという間にすぎ真夜中になった。ロッソとシャロは宿へと戻った。
宿に戻りベッドに座ったシャロは、窓を眺めてずっと寂しそうにしていた。隣のベッドで横になったロッソにシャロが顔を向ける。
「ねぇ!? おにいちゃん! リーシャの歌すごかったね」
「そうだな。まさかあんなにうまいとは思わなかったよ」
「リーシャ…… 明日でお別れ…… せっかく仲良くなったのに……」
「シャロ……」
サーカスの公演も祭りと同じく明日で終わりとなる。公演が終わればリーシャとロッソたちはそれぞれ旅立ち離れ離れになる。
目に涙を溜めシャロは、ロッソに背中を向けると窓の外をジッと見つめていた。彼女の顔は真剣で何やら決意に満ち溢れていた。
「うん……」
目覚めたロッソが体を起こす。ふと見た窓の外は暗いまだ夜明けの前のようだ。リーシャのところに行き夜更かしして興奮したせいだろうか、祭りの二日目の早朝まだ暗いうちに彼は目覚めた。
目をこすりながら起き上がり両手を挙げて伸びをして隣のベッドを見た。
「あれ!? シャロがいない。どこへ行った?!」
隣の寝てるはずのシャロの姿がなかった。ベッドから出たロッソに窓の外に人影が動くの見えた。
「何してるんだ!?」
窓に近づくと宿屋の前に生えている木の前に立つシャロの姿が見えた。ロッソはすぐに着替え、シャロの元へと向かう。
「シャロ! お前は勝手にいなくなるなよ」
「あっ! おにいちゃん! 聞いて! あたしね。リーシャをあたし達の旅に一緒に連れて行こうと思うの」
振り向いたシャロは笑顔でリーシャを連れて行くと言い出した。
「シャロ!? 何を急に? いくらリーシャがかわいそうだからってそんなの無理だよ……」
「違うわよ。かわいそうだからじゃないの! リーシャの歌を聞いたでしょ?」
「聞いたよ。確かにすごい歌だったけど……」
「リーシャをあたし達の仲間にしたら踊りと歌で芸の幅が広がると思うのよ。あの歌声は必ず人気になるわ。しかもリーシャはあんなにかわいいし! そしたらいっぱい稼げるでしょ!」
嬉しそうに少し早口で、シャロはロッソに話しながら、右手で耳の裏をかく。彼女の口調からは必死さがにじみ出ていた。
「(こっちが本音と見せかけてシャロはリーシャを助けたいってことか。シャロはウソをついたり何かをごまかそうとすると耳の裏をかく非常にわかりやすい。まぁ稼げるってのも本当だろうがな)」
必死にしゃべるシャロの話を聞いていたロッソは真顔で口を開く。
「でも、リーシャはサーカスの奴隷だぞ? 魔物の世話をしてるみたいだし簡単に手放す訳ないだろう」
「大丈夫。サーカスの団長さんとはあたしが交渉するわ! おにいちゃんは黙って立ってればいいから」
シャロは胸を張って自信満々に答える。彼女の態度と黙って立っていろと言われ少し不安がよぎるロッソだった。
「なっなんだ!?」
いきなり何かが破裂したような大きな音が響いた。直後に村の見張り台から、カンカンと緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
「ゴブリンが襲撃してきたぞ! みんな祭壇へ避難しろ!」
見張り台の上で必死に村人が叫ぶ声が聞こえる。遠くでゴブリンの鳴き声と村人たちの悲鳴がこだまするのだった。




