第115話 魔物討伐完了
ロッソはリーシャの横から彼女に声をかける。
「どうしたの?」
「これを見てください。黒い骨が引っかかってるです!」
横を向いたリーシャは子犬の口を持って開かせ、ロッソに突き出すように見せて来た。
「えっ!? あっ! 本当だな。喉の奥に魚の骨みたいな棘がささってやがる」
子犬の口から見える、喉の奥に細く黒い棘のようなものがささっていた。
「こんなの刺さっていたら痛くて大変だよな。もしかして痛いから暴れまわっていたのかも知れないな
ロッソは子犬の口をまじまじと見つめるのだった。グアルディアがロッソの横に立ち、心配そうに子犬の口を覗き込んできた。
「どうしようロッソ。あんなに奥だと手じゃ取れないよ」
「そうだ! この間のグアルグアルしゃんの伸びるお指ならとれませんか?」
リーシャがグアルディアが尋ねる。子犬の口を覗き込んでいた、グアルディアが少し間を置いて答える。
「うーん…… 僕のデーモンフィンガーか…… いいよ。やってみる」
グアルディアが左腕をまげ、右手で左肘と左手首の間くらいを掴む。褐色の小さい彼の左手が、紫色の皮膚がボコボコの禍々しい手に変わる。
「大丈夫ですよ。痛い痛いとってくれるです」
リーシャが子犬をなだめながら、グアルディアの方を向けて口を開かせた。ゆっくりとグアルディアは、子犬の口に左手の人差し指向けて近づけた。グアルディアの人差し指が、口の手前にくると人差し指が徐々に伸びて行く。
真剣な表情で慎重にグアルディアは、人差し指を子犬の口の中に伸ばしてく。
「ははっ! 待って…… 指を舐めないで…… くすぐったいよ」
「メーですよ。大人しくするですよ!」
子犬の頭を強く握ってリーシャが大人しくさせる。くすぐったくて笑っていたグアルディアは真面目な顔に戻り、指を口に突っ込んで作業をする。
しばらくすると、グアルディアがリーシャの顔を見てほほ笑む。
「よし!」
グアルディアが明るく声をだすと、同時に一気に彼の指が元に戻っていった。口からから出た彼の左手の先に黒い棘が握られていた。
「ふぅ。うまくいってよかった。あれ!? ロッソ!?」
抜けた棘はグアルディアの指から離れると、黒い煙になって一瞬に消えてしまった。
「これは…… 呪いをかけられていたのか。似たような物をみたことあるような…… しかもこれは明らかに誰かの意図で作られた物だよな」
棘は呪いをかけられていたようで、誰かが子犬を暴れさせるために棘を使用したようだ。ロッソは難しそうな顔で消えた棘があった地面を見つめていた。
「くぅーん」
棘が抜けて子犬は穏やかな表情をしていて小さく鳴く。もう子犬が暴れたりすることはないだろう。
「やったです! わっわ! くすぐったいです!」
リーシャが思わず子犬を抱きしめ、子犬は彼女のほっぺたを必死になめていた。
「犬が無事でよかったな」
「はいです」
「……」
ロッソが声をかけるとリーシャは満面の笑みでうなずく。彼女の横でミーネは、子犬を抱っこするリーシャを複雑な表情で見つめていた。
リーシャが子犬を抱き上げてロッソの足元へとやってきた。
「旦那しゃん! この子! 一緒に連れて帰るです!」
抱きかかえた子犬をロッソの前へと出し連れて帰るというリーシャだった。ロッソは驚き彼女に向かって首を横に振る。
「ダメだ。こいつは魔物だぞ。置いて帰れ」
「ちっさいこの子は親とはぐれた思うです。リーシャと一緒です…… だからリーシャがこの子の親を探してあげるです……」
「リーシャ……」
目に涙をためリーシャはロッソを見つめるのだった。困った様子でロッソは頭をかく仕草をしリーシャに尋ねる。
「持って帰ってもこの子の世話とかどうするんだ?」
「リーシャがやるです! リーシャは前に魔物のお世話してたから大丈夫です! ロッソにもミリアにもシャロにも迷惑かけないです!」
「いや。リーシャには歌手の仕事があるだろ?」
「うぅ……」
「ロッソ! いいじゃん! 僕もリーシャと一緒にお世話にするから! いいでしょ! それに子犬なら僕の護衛の仕事も手伝えると思えるんだ!」
「えっ!? グアルディア…… もう!」
グアルディアがロッソの説得に参加し、二人で彼の前に立ち目を潤ませながらねだって来る。
「あぁ! もう。わかったよ。でも…… シャロが良いって言わないと俺たちと一緒に行けないかな。あいつが俺たちのリーダーなんだから」
「わかったです! やったです! 連れて帰るです」
「やったね。リーシャ」
グアルディアとリーシャが抱き合って喜ぶ。
「二人ともシャロの許可が取れないとダメだってわかってんのか。でもあいつは……」
喜ぶ二人をロッソは優しく見つめるのだった。だが、慌てたミーネがやってきてリーシャを止める。
「ちょっと待って! その魔物を私たちは討伐に来たのよ! 持って帰るなんてダメよ!」
「えぇ!? 何でだよ?」
「依頼主の領主に報告をしないといけないのよ。討伐してないってバレたら…… あたしたちが投獄されてしまうわ」
「チッ! でも…… この子犬はもう暴れねえよ。さっきの棘が原因だかな。もう討伐したのと一緒だ。頼む」
ロッソはミーネさんに頭を下げた。子犬は暴れた魔物ではあるが、暴れたのは黒い棘のせいだ。だから穏やかにリーシャに抱かれてる子犬がもう一度暴れる可能性は低い。
何度もミーネに頭を下げるロッソだった。ミーネは中々許可が出来ずに困った様子で彼を見つめていた。
「そうです。この子は悪い子じゃないです! お願いです」
「僕からもお願い」
リーシャとグアルディアの二人も、ロッソの横に並んでミーネに頭を下げる。三人に頭を下げられたミーネは、少し考えてため息をついた。
「はぁ…… わかったわよ…… リーシャちゃん。ちょっとその子の毛を頂戴ね」
「えっ!?」
「大丈夫だ。リーシャ。ミーネさんに任せろ」
「わかったです」
優しく抱っこしたリーシャが、ミーネに子犬を差し出す。ミーネはナイフを取り出し、子犬の尻尾の毛を切り取った。切り取った毛を見てミーネはほほ笑む。
「これでいいわよ。毛を証拠にして適当に報告書あげておくわ」
「ミーネさん…… ありがとう」
「いいのよ。さぁ。これで魔物討伐は完了よ。帰りましょう」
魔物討伐は終わった。ロッソたちはみなが目覚めてから帰路へとついた。夜明けが近く町へ戻る途中で東の空が白み始めていた。




