第114話 幻影の正体
幻影体が集まってきた時と違う、ガササという激しい音が近づいてくる。暗い平原の奥から、幻影体のリトルフェンリルの倍以上の大きさはある、灰色の狼が飛び出してきた。
「ガウアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
灰色の狼が餌の置かれた台の前で、牙をむき出しにして唸り声をあげる。
「こいつが本体ってわけだな。はっ!!!」
大きく息を吐き出し気合を入れロッソは、両手で守護者大剣を持って前に出る。
「グアルディア! リーシャを頼んだぞ!」
「任せて」
振り返りグアルディアにリーシャを託して、ロッソはゆっくりと灰色の狼の前へと歩いていく。リトルフェンリルは目を細く吊り上げロッソを睨みつけている。十メートルくらいの距離をあけ、ロッソと灰色の狼は対峙した。
「グルルゥ!」
ギラギラと青く目を光らせて、ヨダレを垂らして牙をむき威嚇する灰色の狼。
「しかし…… こいつは何だ? 見たことない魔物だぞ…… 本物の幻獣フェンリル…… んなわけないか。伝説の幻獣がこんな平原に出てくるわけないしな」
ジッと目の前にいる灰色の狼を見つめるロッソだった。魔物との戦闘経験が豊富な彼であったが目の前にいる巨大な狼は見たことがなかった。
膝を曲げ腰を落としたロッソは、剣を水平にし右手を引いて横に構えた。
「来る…… !!!」
威嚇する灰色の狼が体勢を低くして足を引いた。狼の体がしなって、前脚を上げロッソに向かって飛びかかった。大きな口が開けて鋭い牙を向けた、灰色の狼がロッソの目の前へと迫って来た。
「ハッ!」
飛び掛かって来る灰色の狼を冷静に見つめながら、タイミングを合わせて大剣を横に振りぬいたロッソだった。
バキっという音がした。横から伸びたロッソの大剣が、灰色の狼の左脚から肩の間のやや肩よりの辺りに命中しきりつけていく。斬りつけられた灰色の狼は横に吹き飛ばされ苦痛にゆがむ。
「キュゥ!」
甲高い鳴き声をあげ灰色の狼は、吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「ふぅ…… さすがに一撃じゃ終わらないよな」
すぐに起き上がった灰色の狼は、体勢をたて直し頭を低くし、ロッソに再び牙をむいて威嚇する。
「グルルゥ」
威嚇して吠えるしわの寄った灰色の狼の額に、パチパチと紫色がした光が集約されていく。
「うん!? 魔法か!? させるかよ!」
大剣を構えて駆けだしたロッソは灰色の狼の手前で飛び上がり、両腕をあげて大剣を背中につくくらいまで振り上げた。
「遅い!」
ロッソの接近に気づき灰色の狼が顔を上に向けた。だが、ロッソはすでに灰色の狼の目前に達していた。今から灰色の狼が彼の攻撃を防ぐのは無理だ。
「はい! 終わり!!!!」
灰色の狼の額めがけてロッソが大剣を振り下ろした。硬い物に剣が当たった大きな衝撃が、大剣を通しロッソの手に伝わる。彼の振り下ろした剣は、色の狼の額へと叩きつけられめり込んでいく。
「キャィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
悲鳴を上げ額から血をながす灰色の狼、ロッソの静かに大剣を持ち上げた。大剣が額からはなれると、灰色の狼の巨体が力なくフラフラと揺れ倒れていった。地面に灰色の狼の体が叩きつけられた砂煙が舞う。
倒れたまま体をピクンピクンと痙攣させ灰色の狼は動かなくなっていた。
「ふぅ…… しかし……」
倒れた灰色の狼を不思議そうに見つめるロッソだった。
「大きな体の割には威圧感もなかったな。それにニ撃であっさりと倒れるとは…… あっ! そうだ! ガントレットで!!」
すぐに守護者大剣を背中にしまったロッソは、左手に装備していたガントレットを倒れた灰色の狼に向けた。
「えっ!? あれ!?」
ガントレットから光が出る前に、巨大な灰色の狼の体が激しく白く光りだした。あっという間に光は灰色の狼を覆った。徐々に光が小さくなると同時に、光に包まれた灰色の狼の体もどんどん小さくなっていった。
最終的に灰色の狼はロッソの手に乗るほどの、小さな黒い毛の子犬になった。黒い毛の子犬になった灰色の狼は立ち上がり震えながらこちらに歩いてくる。ロッソを見てまだ闘争心が残っているのか牙を向ける。
「あっ!? こら! 待って!」
リーシャが子犬に駆け寄る。ロッソは慌てて彼女を追いかける。子犬の前にしゃがんでリーシャが手をだした。
「ダメ! リーシャ! 危ないよ!」
ロッソが慌ててリーシャを止めると、彼女は振り返ってニコってほほ笑んだ。
「旦那しゃん! 平気です! ほら怖くないですよ。こっちに来るですよ…… あっ!」
フラフラと歩いていた子犬が倒れた。すぐにリーシャは倒れ込んだ、子犬の側まで走っていった。
「どうしたですか? うん!? 教えてください!」
しゃがんで背中をさりながらリーシャは子犬に声をかけている。
「何を…… リーシャ?」
倒れてまま子犬は何度も顔を横に振り、前足で鼻の辺りをこすって、口を開けたり閉めたりしてる。
「お口がおかしいですか? アーンってするです!」
優しく声をかけてリーシャは、慣れた手つきで子犬の口を押えて開く。彼女は子犬が何を訴えているのかわかるようだ。
「そうか…… リーシャはサーカスの奴隷時代に魔物の世話をしてたんだっけな」
ロッソは子犬に話かけるリーシャの背後にたって彼女の様子を見つめている。
「旦那しゃん! 見てください!!」
慌てた様子でリーシャが振り返った。ロッソはすぐに彼女の横にしゃがんだ。近くで見ていた、グアルディアとミーネも一緒にリーシャの元へと駆け寄るのだった。




