第113話 歌え歌姫! 退魔師の歌を
「どうするって言われてもな…… なにかいい手があれば俺だって……」
難しい顔で考え込むロッソ、彼はこの状況を打破する手段を考えていた。彼が使う闘気弾丸は実体がないのは当たれば効果があるが、誘導が出来ないため自身で狙って撃つしかなく味方と幻影体が入り混じる今の状況で使えば味方にも被害が出てしまう。
「俺の守護者大剣で、核を斬りつければ倒せるだろうが…… でも…… 数が多すぎる……」
直接、ロッソが守護者大剣で攻撃するには近づくために障壁を外す必要があり、リーシャたちを危険な目に合わせることになってしまう。難しい顔で対策を考えるロッソだった。もしこれが魔王討伐軍にいた頃であればキースかジェリスから味方を巻き込んででも倒せと命令されていただろう。そして彼がそれに逆らうことはなかった……
「うん!? どうしたの?」
リーシャが足元にやってきてズボンをつかんでロッソを呼ぶ。
「あの狼さんは怖い夢を見せるですか?」
「うん…… そうだよ。でも俺と一緒にいればリーシャは大丈夫だよ」
「みんなかわいそうです…… 怖い夢はやーですよ」
「そうだね……」
悲し気なリーシャがうつむく、ロッソは彼女の頭を撫でて慰めるのだった。
「旦那しゃん! 笛を持ってますよね? 吹くですよ!」
「えぇ!? 今かよ。そんなことしてる場合じゃないだろ!」
パぁっと明るい表情で顔をあげて、何かを思いついたリーシャがロッソに笛を吹けと言って来た。唐突に言われたロッソは困惑しながら今はそんな場合ではないとリーシャに注意するのだった。
だが、リーシャはめげずにニコッと笑ってロッソに話を続ける。
「大丈夫です! いやな夢を見てる時はリーシャはお母さんのお歌を聞いたらよく眠れるようになりました」
「そうだよ。ロッソ! 悪夢にはいい夢を見れる音楽だよ! ナディアが小さい頃メディナも同じようにしていた」
リーシャのアイディアにグアルディアも乗って来る。ロッソは二人の言葉に顔をしかめて考え込んでいく。
「やめろ! やめろーーーー! うぎゃーーーー!」
「あぅ来るな! くるなーーー! ぎゃーーーー! あばばぅ」
「グゥアババババーー」
討伐隊の叫び声はどんどん大きくなり、錯乱している者もいるようだ…… 討伐隊が全滅するまで時間はあまりなく迷っている暇はない。
「わかった。リーシャを信じる」
小さくうなずいたロッソ、リーシャの顔が明るくなり笑顔になった。
ロッソは意を決して守護者大剣を逆手に両手で持って切っ先を地面に向けた。そのままロッソは守護者大剣を地面に突き刺した。
「グアルディア! 俺の代わりの魔法障壁に闘気を送りこめ!」
「了解」
弾んだ声で返事をしたグアルディアが、守護者大剣の刀身に手を置き目をつむり集中し始めた。
「リーシャ! 行くよ!」
「はいです!」
道具袋から笛を出しロッソは演奏する構えをする。ミーネはこの状況で歌を披露しようとする、ロッソたちをあきれた顔をしていた。
「いいんだ…… 周りを気にするな。俺はもう勇者パーティの戦士じゃない。音楽パーティブルーセイレーンの一人なんだから…… それよりも」
不安げなロッソ、彼は演奏に自信がなかったのだ。リュート奏者のミリアが加入してから彼自信、笛を吹く機会はほとんどなかったのだ。ロッソはリーシャにどの曲を演奏するのかたずねる。
「何を弾けばいい?」
「”退魔師は今日も誰かを助ける”がいいです! 明るくてかっこいい曲です!」
「おっおう。ふふ。この状況にぴったりな曲だな」
「へへへ」
笑顔をロッソに向けるリーシャだった。”退魔師は今日も誰かを助ける”は古代の結界都市で、恨みなどの負の感情を操る幽霊たちが人々を襲い困っていた、その幽霊たちを退治した退魔師をたたえた歌だ。しかも、この歌は子供でも歌えるように簡単な曲なのでロッソの負担も少ない。彼はにっこりと微笑みリーシャにうなずいた。
「よし! 明るく…… 楽しい感じで…… 行くぞ」
笛かまえたロッソが演奏を始めた。笛の音が響くと、リーシャがリズムに合わせ、シャロのように踊りながら歌い始めた。
「さぁ幻影体さんよく聞きな! ブルーセイレーンの歌姫の歌声をな」
演奏の合間にロッソが叫ぶ。直後にリーシャが口を大きく開け歌い始めた。
"aest arrancum qiod abbreopinquerae pustalo ! "
(得体の知れない何かが隣に!)
"het paricallu empindanta laitemdan aest"
(あなたに危険が迫る)
"quain vacavlit ? "
(誰を呼ぶ?)
"itue! meagisteler vencioss ! "
(そう! それは退魔師だ!)
軽快で明るい音楽に合わせて、リーシャは楽しそうに明るく歌い上げていく。松明の光だけで暗闇に覆われている草原が、彼女の歌声で少し明るくなったように錯覚するほどだった。
「ロッソ。口元が動いてるよ」
笛を吹くロッソのズボンのすそをグアルディアがつかんで呼んだ。何事か彼がグアルディアに視線を向けると、グアルディアはミーネを指さした。
「あまりに楽しそうだから、思わず口ずさみたくなったのかな。まぁ気持ちわかるけどね」
明るくグアルディアが笑顔を向けている。ミーネはリーシャを聞きながらかすかに口元を動いていた。リーシャの歌を聞いた、リトルフェンリルの体が歪み始めて苦しそうな表情へと変わった。だが、彼女の歌は止まらない。
"palicalosium esit im inpoltamt ! "
(その危険な何かは手に負えない!)
"salean enfastarm faumiilesr ! "
(家族の身が危険だ!)
"quain vacavlit ? "
(誰を呼ぶ?)
"itue! meagisteler vencioss ! "
(そう! それは退魔師だ!)
"veclerer mesi qauian deasboli ! "
(どんな怨霊も怖くないぜ! )
"veclerer mesi qauian deasboli ! "
(どんな怨霊も怖くないぜ! )
歌が終盤にさしかかり、リーシャが大きく口を開けた。
「悪霊退散!」
精霊の歌の歌詞を口にするリーシャ、精霊の歌は歌うことで魔法のような効果を発揮する歌だ。リーシャの声が平原に響きわたる。歌声を響くと同時に討伐隊を襲っていたリトルフェンリルの幻影体は、煙のようになって跡形もなく消えていた。
笛の音が最後の音を奏でる。
「よし! これでもう大丈夫だな」
笛を口からはなし大きくうなずくロッソ、彼は静かに視線を動かし平原を見渡す。静かになった平原でロッソは、リーシャの歌の余韻に浸るのだった。
「終わりです!」
「やった! リーシャちゃん! ロッソさん! すごいわ!」
歌い終わったリーシャが、周りを見て得意げに腰に手を当てた。リーシャに近寄ってミーネが、感動した様子で肩に手をかけてほめていた。少し恥ずかしそうにリーシャは頭に手を置いて笑うのだった。
「ありがとな。助かった」
「ロッソの笛はなかなかだったよ」
「やめろよ。恥ずかしいな」
ロッソは笛をしまい障壁を展開していたグアルディアを労う。直後にロッソは守護者大剣を地面から引き抜くのだった。
「さてリトルフェンリルはなんとかできたけど…… 後はみんなの治療をしないとな」
幻影を退けたが討伐隊にも損害が出ている。ロッソはすぐにミーネに声をかける。
「ミーネさん! みんなを助けよう」
「わかったわ」
ロッソたちは手分けてして討伐隊の様子を見に行く。
「旦那しゃん…… この人クークーしてるです」
「そうだね。ただ寝てるだけみたいだ。とりあえず、人数も多いしこのまま寝かせといて、目が覚ますのを待った方がいいかな。」
リトルフェンリルから、解放された討伐隊はみな地面に転がって動かない。ただ息はしてるし穏やかな顔をして眠っているだけのようだ。
「ワォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
狼の鳴き声が平原に鳴り響いた。
「チッ…… そりゃそうだよな……」
舌打ちをしたロッソが視線を周囲に向ける。幻影体が襲って来たということは、作り出した魔物が近くにいるということだ。ロッソたちは、幻影体を作り出した魔物の本体と対峙することになる。




