第108話 また仕事を探す護衛
サンクレト村への荷物の配送の翌日。
宿屋の部屋で、ロッソとグラルディアとリーシャの三人が座る椅子の前にミリアが立っている。シャロはロッソたちから少し離れた場所に置かれた椅子に座って彼らを心配そうにみていた。
ミリアとシャロは、食堂での給仕係の仕事を見つけ今日から開始する。ロッソたちは昨日に続いて冒険者ギルドで仕事探しだ。
だが…… ミリアがロッソたちの一人ずつの顔を覗き込んでいく。
グラルディア、リーシャと続いて最後にロッソの顔を覗き込んだ。目を潤ませて頬を少しプクッと膨らませてミリアがロッソに口を開く。
「ロッソ! いいですね?! ネコババしたお金は働いて冒険者ギルドに返すんですよ!」
「わかってるよ…… でも…… 俺じゃなくてほとんどリーシャとグアルディアが……」
「子供のせいにしないの! あなたが監督しないでどうするんですか!」
ミリアが涙目でロッソを見つめて説教を始めた。
「わかった。わかったから…… もういつも頭がかたいんだから……」
「あなたがしっかりしないからでしょ!!!」
「わぁ。ごめんごめん!」
両手を前にだして必死に謝るロッソ、ミリアは小さく息を吐いて彼に背中を向けた。
「まったく…… まぁしゃあねえ。真面目なのがミリアのいいところだしな」
ミリアの背中を見てほほ笑むロッソだった。
なぜロッソたちが朝、説教をくらっているかというと。ロッソたちは橋の上で違法に通行料を徴収していた、冒険者ラミレスから通行料600リロを取り戻した。本来なら金を冒険者ギルドへ届け出なければならないが…… グラルディアとリーシャが菓子を大量に買ってしまった。なお、二人のせいにしているが、ロッソもこっそりと新しいナイフと新型の手袋を買っている。それはミリアには内緒だ。菓子とロッソの道具の購入で通行料はわずか30リロしか残っていない。
馬車に大量につんでいた菓子にまずシャロが気づいた。ミリアに報告しようとしたシャロに、ロッソは分け前をやることで説得に成功した。ここまでは良かった……
しかし、菓子の量からすぐにミリアの耳にも入ると考えた、ロッソは先手を打ってミリアにも分け前を提示することで説得を試みた。だが…… ミリアはダメだった…… そのままロッソたち三人は、夜中まで説教を聞かされることになった。そして今日、出かける前の追い説教をくらっているわけだ。
振り向いたミリアが今度は三人に向かって説教を始めた。ロッソは説教が長くなることを察知し、神妙に聞いているふりをするためうつむく。
「はぁ…… 早く終わらねえかな……」
説教を聞き流しながら小声でつぶやくロッソだった。直後に彼の肩を誰かがつかみ視界が黒い影で覆われる。
「ロッソ! 聞いてますか?」
「はっ!? きっ聞いてるよ!」
「本当ですか? 真面目に聞いてくださいね!」
ロッソの肩をつかんだのはミリアで、顔を彼へと近づけていく…… 眼鏡の奥の綺麗な紫の瞳が、少しだけ細くなって笑っているように見えた。
不真面目なロッソは怒られながらも、怒った顔のミリアもかわいいななんて思って顔がわずかに緩む。
「ミリアー! お兄ちゃん! 反省してないみたいだよ! 顔がいやらしい」
「まっ! ロッソ!」
「いや! 反省してるよ! 反省してるって! シャロ! 余計なこと言うな!」
「フンだ!」
ロッソがシャロを睨むと、彼女は椅子に座って腕を組んで不満そうにしていた。真面目に聞いてないと判断された、ロッソへのミリアのお説教はその後三十分も続いた。
「クソ…… シャロめ余計なことを……」
「ロッソが余計なこと言うからだよ」
「うるせえ! はぁ、もういいや。早くいい仕事を探してお金を返そうっと」
ロッソとリーシャとグラルディアは、昨日と同じく冒険者ギルドへとやってきた。
「なんかいいクエストあるといいな…… フフ…… なんか変なの」
依頼書が貼ってある掲示板から、少し離れた場所にグラルディアとリーシャの姿がロッソに見えた。 二人は手をつないで掲示板から依頼を見つめている。本来は他人の魔族と獣人だが、なんとなく仲良しの兄妹みたいにみえるその光景に自然と頬が緩む。
「あっ! ロッソさん!」
「うん!?」
呼ばれたロッソが振り返ると、昨日の受付の犬耳の女性が、カウンターからでて彼に近づいてきていた。
「あっ! 昨日はどうも! えっと…… 受付のお姉さん!」
「えっ!? ごめん。名乗ってなかったわよね。私はミーネよ」
受付の女性は笑顔でロッソに、頭を下げてミーネを名乗った。顔をあげたミーネはうきうきした様子で、ロッソの顔を覗き込むようにして話をする。
「ねぇねぇ、昨日何かラミレスたちにしたの? あいつらが赤い髪の男とガキ二人にひどい目に合わされたって言ってたのよ。あなたたちのことだよね?」
「あぁそれは……」
ロッソたちが昨日ラミレスたちに橋の通行料を集られたので、懲らしめた話をするとミーネさんは顔が緩みプルプルと震えて吹きだした。
「あははは! そりゃあいくら今ウチで一番ランク高いと言ってもロッソさんには勝てるわけないでしょ。本当にあいつはバカなのね」
ラミレスの話を聞いたミーネは手を叩いて大声で笑っている。同じ冒険者ギルドに所属している、いわば仲間のことを笑う彼女をロッソは首をかしげるのだった。
「ははっ…… 仲間がひどい目にあったのに笑うんですね」
「仲間? 違うわよ。あいつは冒険者、私は受付だから仕事だけの関係で別に仲間じゃないわよ。それにあいついやらしいこと言ってきたり他の冒険者に絡んだりして調子に乗ってるからいい気味だわ」
ミーネは嬉しそうに受付のカウンターにいた、他の職員たちの元へと駆けていって何やら話している。どうやらロッソたちから聞いた話をしているようだ。彼女の話を聞いた職員たちはみんな笑って和気あいあいと言った様子だ。
「あいつ…… 相当きらわれてるんだな」
ロッソはカウンターの様子を横目で見ながら、ラミレスの人望のなさにあきれる。話が終わったのかミーネがロッソの元へと戻ってきた。
「あー! すっきりした。ありがとう。ラミレスの話を聞いてみんな喜んでたわ」
「はぁ……」
「それで? ロッソさんは今日も仕事探しに来たの? 昨日の稼ぎじゃ足りなかったの?」
「あぁ。ラミレスが巻きあげて金を回収したんだけどさ。使っちまったから返さなくちゃいけなくてな」
「えっ!? そんなの別に…… はっ?!」
ミーネは話の途中で急にしまったという顔をした。ロッソは彼女の表情が、変わったのに気づいたが特に気にはしなかった。彼女は一瞬何かを考えてすぐに話を始める。
「そうなんだぁ。あっあのね…… そういうことならロッソさんに稼げるいい依頼があるわよ!」
急に声が調子が明るく変わりわざとらしくミーネが仕事の紹介を始めた。ロッソは先ほどの表情の変化と彼女の口調から怪しさを覚えたが、ミーネからは悪意のようなものを感じず稼げるクエスト紹介してもらえるのは悪くないと思い話に乗る。
「その仕事はなんだ?」
「多分もう誰かから話しを聞いてるかも知れないけど、最近この辺りに強力な魔物が出たのよ」
「そういえば昨日の依頼主がそんなこと言ってたな」
「魔物に農地は荒らされるし、その噂で町への人の往来が滞って大変なのよ。それで領主が軍隊をだして魔物討伐することになったのよ。それでウチからも腕の立つ冒険者を出して協力しろって言われてるの」
「なるほど…… しかし、俺は最低ランクのB3の冒険者だぞ。そんな強い魔物討伐に参加できるのか?」
「大丈夫よ。とにかく戦力が必要だから下位ランクの人間でも誰でも参加可能にしているわ。もちろん自己責任だけど…… それにここら辺の魔物ならB1級の強さがあれば危険はないからロッソさんなら余裕だよ! どう? ロッソさんが参加してくれるなら報酬は他の人の四倍! 2000リロ出すわよ!」
「なに!? 2000リロだと?!」
ネコババした金を余裕で返せる、金額をミーネから提示されロッソは思わず声をあげるのだった。ミーネは笑顔でうなずいてロッソの返事を待つのだった。




