第107話 ボディガードと歌姫は橋を強引に通る
グアルディアは笑って余裕な顔で夕闇の嵐剣を鞘に納めて素手で手招きをした。ラミラスはそれを見て勢いづくのだった。
「よし! 武器をしまったぞ。一気に行け!」
武器を構え一斉にラミレスたちがグアルディアへと駆けていく。ロッソはその姿を見て首を横に振った。
「やっぱり大したやつじゃねえな。はぁ…… あいつも一応魔族だからなぁ。人間の苦しむ顔を見るのを好きなんだろう…… かわいそうに……」
ラミレスとグアルディアの実力差は明らかでであり、彼が夕闇の嵐剣を使えばラミレスたちを簡単に退けることは出来ただろう。グアルディアはあえてそれをしなかった、もっと彼らを苦しませたかったのだ。
「しねぇぇぇ! クソガキーー!」
威勢の良い声をあげラミレスは剣を振りかぶりグアルディアへと迫る。武器のない子供を見て勝てると確信しているようだ。グアルディアはラミレスを見て鼻で笑う。
「フン…… 愚かな人間どもよ。魔族の力を見るがいい…… デーモンフィンガー!」
左腕を曲げて前に出して、手のひらを顔に向け右手で、肘と手首の間を掴みグアルディアが叫ぶ。
褐色の可愛いグアルディアの左手が、紫色の変わっていき指の先には鋭い爪が生え、表面のすべすべした肌がボコボコとした禍々しくものへと変化する。
「はっ!」
グアルディアがラミレスたちに向け、左腕を伸ばした。彼の左の手の指が長く伸びていく。伸びた指は素早く柔らかい鞭のようにしなってラミレスたちに向かっていった。
「ほーら!」
グアルディアが笑いながら、伸ばした左腕をまげた。
「「「「「なっ???????????????????」」」」」
細く伸びた指がしなりながらラミレスたちに襲いかかる。向かってくる指にラミレスたちは武器で応戦しようとしたが、鞭のような指が武器を払いのけた。
「「「「「がは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
素早く伸びたグアルディアの指はラミレスたちの首に絡みついた。グアルディアが左腕を挙げると、指はラミレスたちの首にきつく食い込んでいく。
「「「「「ぐえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
グアルディアの伸びた長い指がラミレスたちの首をしめていく。
「終わったか」
ロッソはラミレスたちを黙って見つめている。彼らの首の肉が押されて締め付けらえた顔が、どんどんと青く目が飛び出しそうなくらい開いていく。ここから彼らが逆転することはないだろう。
「あがが……」
「うげぇぇぇぇぇ!」
「ぐぐぐっ!!!」
「うげええええええええええええええええええ!!!」
「やっぐうううううううううううううううう!!!!!!!!!!!」
苦しそうなラミレスたちは地面をのたうちまわり、必死に首に絡みついたグアルディアの指を取ろうと引っ張っていた。
しっかりと締め付ける場所を選んで、喉もつぶしているから悲鳴も出さないようにしてる。ラミレスたちが静かに苦しみもがく姿はちょっと異様だった。
「さて…… 死んでもやっかいだからな」
ロッソがグアルディアを止めようと近づく。グアルディアは彼に無邪気な笑顔を向け話しかけてきた。
「こいつら殺していいの?」
「ダメだ! 殺すと面倒くさいからこらしめるだけいい」
「はーい! じゃあ! こっちへ!」
グアルディアは左腕を上に上げたまま、ラミレスたちを橋の横まで引きずっていく。一カ所にラミレスたちを集めると、首に食い込んだ指を緩めて彼らを解放した。グアルディアの左手も元に戻っていく。
「はい! おしまい!」
苦しそうにぜぇぜぇと息をして倒れているラミレスたちの前で、グアルディアは二、三回両手で汚れを払うように叩いて得意げな顔をする。ロッソは小さくうなずいて振り向いて右手をあげ、後ろに居た馬車の上にいるリーシャに合図を送った。
「よーし! リーシャ! 馬車をだしてくれ!」
「はいです!」
元気よく返事をした、リーシャがゆっくりと馬車を進める。ロッソとグアルディアはゆっくり動く馬車に飛び乗った。ラミレスが起き上がり馬車に向かってゆっくりと歩いてくる。
「まっ待て! お前ら……」
再度武器を構えてラミレスたちは、ロッソたちの馬車の前をふさぐ。
「もう…… しつこいな。まぁ立ち上がるその根性だけは認めてやっていいけどな」
御者台の上で顔をしかめるロッソ、彼の横で呆れた顔のグアルディアが、左手をラミレスたちに向けた。ロッソはすぐにグアルディアを止めた。
「グアルディア! 後は俺に任せとけ」
「はーい」
「リーシャは馬車をそのまま進めろ」
「はいです」
ラミレスたち止まらない馬車に向かって武器を構え駆け出した。
ロッソは御者台の上に立って右手で背負った守護者大剣に手をかけて闘気を送りこんだ。
「不可侵領域!」
大剣を中心にドーム状の白く光る、魔法障壁が展開され馬車を包み込む。ラミレスたちは障壁に気付かないのかロッソたちに向かって来た。白い魔法障壁がどんどんと膨らんでいき、ついにラミレスたちと接触した。
「いた!? なっなんだ!? これ!? うわーー!」
ラミレスたちにぶつかってもロッソは闘気を、守護者大剣に送り続けた。魔法障壁の膨張するスピードが上がり、押されたラミレスたちは吹き飛ばされ川へと落ちていく。ドボンという大きな音が五つ鳴り響く。魔法障壁に吹き飛ばされたラミレスたちは川に次々と落ちていったのだ。
川にラミレスたちが落ちるのを確認すると、ロッソは大剣から手を離し小さくうなずき前を向いた。
「うん!? なんだあれ…… リーシャ! 馬車を停めてくれ」
橋の上に小さな袋が落ちているのにロッソが気づく。彼は馬車を停めすぐに降りて駆け出し、橋の上にしゃがんで袋をつかみ中を開けた。
「おぉ! これは……」
声をあげるロッソ、橋の上に落ちていた袋にはたくさんの銀貨がつまっていた。
「かなりの大金だけど…… でもこれは…… なんだ? あっ! そうかあいつらが巻きあげていた……」
袋に入っていた銀貨は、ラミレスたちが橋を通る人たちから巻き上げていた金だった。ロッソは袋をそのままつかみ自分のベルトにくくりつけリーシャに合図を送る。
「リーシャ! 出発だよ」
「あっ! はいです!」
ロッソは近づいて来た馬車に飛び乗った。障壁に吹き飛ばされた、ラミレスたちは岩にしがみつき呆然とロッソたちを見送っていた。ロッソはベルトから袋を外し中身を確認する。
「うん!? ほらよ」
橋の途中で俺たちの前にいた鞄を持った男二人が、立ち止まって馬車を見つめていた。ロッソは左手で袋から金をつかんで御者台の上に置き、50リロだけ残して袋を二人の前に投げた。
前に落とされた袋を拾い、中身を確認した男二人は笑顔で頭を下げていた。
「じゃあね。冒険者がみんなラミレスたちみたいなやつらじゃないからな」
右手をあげ男たちに挨拶をするロッソだった。彼は御者台の上に置いた金をかぞえ始めた。
「さて…… えっと…… 残りは…… すごい600リロもある。へへへ…… これで何か美味しいもの食べようかな。それとも何か買おうかな。あっ! そうだ! 帰ったら町の道具屋行って珍しい品がないかみてみよう」
ニヤニヤと笑ってうきうきでつぶやくロッソだった。ロッソの横ならんで座るリーシャとグアルディアがジッと彼を見つめている。
「ジーです! なんか旦那しゃん嬉しそうです」
「ロッソ! そういうのって冒険者ギルドに届けないといけないんだよね」
「えっ!?」
ロッソが数えている銀貨を、グアルディアとリーシャが見つめて話しかけて来た。
「こういうのは…… 取り返した人間の物になるんじゃないかな?」
「僕知ってるよ! そういうのネコババって言うんだよ! いけないんだよ」
「いけないです! それに取り返したのは旦那しゃんじゃないですグアルグアルしゃんです!」
「えっ!? なんだよ。二人とも! ネコババなんて人聞きの悪いことを…… はぁ……」
二人に詰められたロッソは観念したようで小さくうなずく。
「わかったよ。この仕事が終わったら冒険者ギルドに届けようか」
「まぁ…… そこまで真面目じゃなくても…… 僕は魔族だし! それにたくさんお菓子が買えるよ。うひひ!」
「お菓子!? そうです! リーシャはお菓子のために悪い子になるです。ひひひ!」
リーシャとグラルディアが、一緒になってニヤリと笑って悪い顔をしていた。
「もう…… 本当に子供のグアルディアとリーシャは気が合うな。ただ俺もその意見は賛成だ!」
三人は顔を見合せてうなずいた。ロッソはラミレスが落とした金を自分の財布にしまう。
川を渡ったロッソたちは無事にサンクレト村に荷物を届けた。彼らラミレスから取り返した金は、リーシャとグラルディアが菓子代に大半を使ってしまい。
大量の菓子を土産に持って帰ってしまい、すぐにシャロとミリアにバレた。ロッソたち三人は、ミリアとシャロ…… 特にミリアにこっぴどく怒られるのことになるのだった。




