第102話 ボディガードは穏やかに旅を続ける
短い草が生えた緑色の絨毯となった野原をロッソたちは進んでいた。
「うーん! あたたくて風が気持ちいいな」
「はいです」
馬車の御者台でロッソが手綱から手を離し、背伸びしながら声をあげ並んで座るリーシャも同意する。
「周りの草原は青々として綺麗だし…… ジサイド帝国ってこんないいところだったっけな…… 前に来た時は真冬だったからか」
馬車を操縦してるロッソを春のポカポカした陽気がつつみ、心地よい風が彼の頬を通り抜けていく。
ブルーセイレーンがジサイド帝国に来てから、半月が過ぎようとしていた。ロッソとその仲間である音楽パーティブルーセイレーンはいくつかの村を経由し、ナール大陸のジサイド帝国の草原を馬車で西へ移動していた。
「もう少しで教えてもらった町ベルグに着くはず…… うん!? どうした?」
額に手をあて街道の先を覗き込む、ロッソの肘を隣に座るリーシャが引っ張った。
「旦那しゃん! できました!」
顔を横に向けたロッソにリーシャが紙を差し出してきた。
「おっ! 出来たか。偉いよ」
普段の馬車の操縦は彼女の役目だが、今はある事をしていてロッソが代わりをしている。
「早く見てください!」
「ごめんね。ちょっと待て……」
リーシャが早く紙を見ろとせがむ。ロッソは手綱を引いて馬車の速度を緩めて、しばらく道がまっすぐなのを確認してから彼は紙を受け取った。紙にはちょっと歪んだ文字で、道の脇に割いている花の名前が書いてある。
「よくできたね。じゃあ! 次! あれは?」
平原の先の丘に立っているゴブリンをロッソが左手でさすと、リーシャは胸からぶら下げていた透明な緑のレンズの眼鏡をかける。
ロッソのガントレットは、劇場飛空艇のオーナーセドニアが作ってくれた、飛竜の能力を授けてくれる魔法道具だ。ガントレットの効果でロッソには敵の情報が見えるようになる。リーシャがかけた眼鏡もセドニアが作った魔法道具で、ロッソにしか見えないガントレットの光で表示された敵の情報を見えるようにしてくれる。眼鏡はロッソたちがジサイド帝国から出発する間際にセドニアが渡してくれた。
「ゴッ? ゴブリ…… ン…… マッマッ…… ゴブリンマージです!」
「おっ! ちゃんと読めたね。偉いよ。数字は読めるかな?」
「1と…… 6です!」
「どれどれ? おっ! 正解だよ! じゃあまた紙に書いてみようか!」
ロッソは目をこらし、ガントレットが表示させる数字と文字を確認した。
丘の上にいるゴブリンマージに丸い白い記号が、重なって矢印がでてゴブリンマージと数字の16が表示されていた。ちなみに魔物とか敵以外にも、花や建物にガントレットを向けると名前が表示されるので図鑑のような使い方もできる。
草原の丘の上にいる、ゴブリンマージがこちらを指さしてなにやら騒いでいる様子が見える。
ゴブリンマージはゴブリンの上位種で魔法を使えるモンスターだ。ゴブリンの群れの中では占いや祈りを行う祈祷師のような立場だ。
「はいです!」
ロッソがリーシャに指示をだした。ニコッと笑ってリーシャは嬉しそうに返事をし、眼鏡を外して紙にペンで文字を書き始めた。
「ねぇ? ロッソとリーシャは何してるの?」
幌付の馬車の荷台から、御者台を覗いていたグアルディアが声をかけてきた。ロッソは横で必死に字を書くリーシャを見ながらグアルディアに答える。
「あぁ。リーシャは自分の名前しか書けないから字の練習だよ。このガントレットをセドニアに頼んで魔物以外に植物とかを解析してくれるように改造してもらったんだ。だから眼鏡を使ってリーシャと読み書きの勉強をしてるんだよ」
「へぇ!? なるほど。リーシャ! 頑張るんだよ」
「はいです! グアルグアルしゃんも一緒にお勉強するですよ。ゴブリンマージさんの名前を一緒に書くです!」
「何だと! もう…… 僕は体が小さいだけで大人…… ってゴブリンマージがいるなら大変じゃないか! ロッソ! 何やってるんだよ! ほら向かってきてるよ!」
「あぁ…… そんな心配するなよ」
慌てた様子のグラルディアが、馬車の左手にひろがる平原を指さした。青色の体をした醜い顔のゴブリンマージが、平原をかけてこちらに向かって駆けてくのが見える。
「リーシャ。馬車の運転も少し代わってくれるか」
「はいです!」
返事をしたリーシャが立ち上がる。リーシャはロッソの膝をまたいで横に移動し始めた。ロッソは座りながら横にすべるように移動しリーシャと場所を入れ替えた。
「数は…… 四体で戦闘能力値は16だろ。大丈夫! 俺の敵じゃない」
ロッソは立ち上がり御者台の上に立つと、背負った守護者大剣に手をかけて一気に引き抜いて構えた。
一メートルほどある白い刀身の大剣が太陽に照らされて光り輝く。チラッと横目でみるとリーシャが目を輝かせてロッソを見つめていた。
かっこつけたロッソはリーシャに向かって小さくうなずく。リーシャはさらに憂いそうに笑った。
「はぁぁぁぁ!」
ロッソは大剣に闘気を送り込んでいく、無数の弾丸が敵を撃つイメージを頭の中に描いていく。同時に腰を落としたロッソは、大剣をゴブリンロードマージに向け、右手を引き突きを出す構えを取った。同時にガントレットを付けた左手を剣の脇へと持って行く。剣先とガントレットを付けた左手をゴブリンマージへ四体に向けた。左手の中心からから細い光が四つ伸びていき、ゴブリンマージ四体にぶつかった。白い四つ線の十字がゴブリンマージの胸に表示され赤へと変わった。
「今だ! 複数照準闘気弾丸!」
叫ぶと同時にロッソは剣を突き出した。同時にガントレットの効果でゴブリンマージの動きが鈍くなった。
突き出した剣先からたくさんの拳くらいの大きなの、オレンジ色の光の闘気弾丸がゴブリンマージたちに向かっていく。放物線を描く闘気弾丸はお互いに距離を開けて不規則に動き、オレンジ色の光の帯が空にひろがっていく。
最初に飛び出した闘気弾丸がゴブリンマージたちの前に地面に着弾する。音がして地面に着弾した闘気弾丸が小さく爆発する。
ゴブリンマージたちは足元の爆発に驚いて尻もちをついた。さらに次々と地面に闘気弾丸が着弾して何度も何度も爆発が起こる。
ゴブリンマージたちの顔が引きつり、起き上がって一目散にロッソたちに背を向けて逃げ出した。
「よし! もういいぞ!」
ロッソはゴブリンマージを追い払ったのを見て闘気の供給をやめた。すぐに光の弾丸は消えていった。全ての闘気弾丸が消えてゴブリンマージたちの姿は見えなくなっていた。




