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ユートピアユー〜陰キャコミュ症JKの僕が、恐怖を『克服』して能力バトルをする話〜  作者: 葛城 隼
YoU’re my R (L) OCK

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47/50

第46話 私はオカマだよ

 天昇る太陽。季節ヶ丘(きせつがおか)警察署前に立つ。そびえ建った銀のタワー。見上げたオレなど目もくれないのか? 忙しなく行き交う人々……。


「イマイチ、歌詞モドキにもならない」


 オレ、岸元 彼方(きしもと かなた)は毎度ダルいと思いながらも、署内へと入っていく。


 オレは普段から警察のお世話になってる──と言うと誤解を招くけど。実際は特殊能力犯罪捜査一課とくしゅのうりょくはんざいそうさいっか、通称特能課(とくのうか)の課長である母さんを迎えに来ただけ。

 今回は、夕食の買い出しを手伝う約束をしたものの、遅くなりそうとまだ真っ昼間なのに連絡が来たから、ヒマつぶしがてら様子を見に来たのだ。


 なーんて、自分用に脳内まとめをしてたら、既に面白いことが起きてた。


「あっ、あうえうっ、その迷子センターじゃなくて、そのこの署内でこう、僕みたいな見た目のポニーテールの女の子とか、あっ、アレです双子の姉妹でして、その」


 タマキじゃん。事務員さんを相手にコミュ症を発揮して困らせてるのか。ヤレヤレ、面白すぎるだろそれだけで。


 しばらく観察していたいところだけど、さすがにタマキの身が持たなそうだったし、さっさと助け舟を出してやる事にした。


「タマキ」

「ぶわっ!? あっ、彼方……」

 リアクションオモロ。

「な〜にやってんのさ。再寧さんに用事っしょ?」

「あっ、いやそうなんだけどほら見てよいつもいるヒカリがいないでしょ行方不明なんだ迷子なんだどうしよう肩ぶつかった警察の人にガンつけてたらダメだそれは良くない殴っちゃダメーっ!」

「落ち着け? 見ても分からないし、ヒカリってそんな素行最悪……いや悪くはある」

「えっ、そうなの!?」

「自分で言ったでしょいま……」


 ダメだ、全然本題からズレた。要するにタマキはアレだ、ヒカリを探してるんだ。


 オレは事務員さんに話を振る。


「すみません、この署内で迷子を探してるんですけど、この子に似た双子の……」

「あっ、妹です」

「見かけませんでしたか?」


 事務員さんは、半笑いになって、

「ああ、それなら先に再寧警部補のトコへ行くって、伝言されてるよ」

 と言ったのだ。つまり、入れ違いらしい。


「目的地は同じらしいね、行くぞ」

「えっ、あっ、ハイ」


 事務員さんに一言「あざっす」と言い、すぐにタマキと一緒に行く──


「オレっ娘なんだ」


 ──背中越しに、そんな余計な一言が聞こえてきた。


 だから、なんだよ。

 オレっ娘だったら何か悪いのか。気になるのか。オレの見た目が、そんなに。


 ふと映る、鏡のオレの姿。『岸元 彼方(きしもと かなた)』の背格好。よく言えば中性的、クソみたいにディスれば中途半端でややこしいその面構え。今日は別にユニセックスファッションだ、何もおかしいところはない。


 ……かわいい服着て、オシャレして、何か悪いかよ。


「あっ、いい天気だねぇ〜……」


 遮られた、タマキに。オレが勝手に落ち込んでたら。


「きょう曇りだぞ」

「えっ!? あっ!!」

「声デカ。ウソだよ〜ぜんぜん快晴」

「な、なぜ騙した……」

「むしろなんで天気の話しようとしたん? 気まずかったか、無言の時間が」


 タマキはコっ、コクっ、と鳥みたく首を縦に振って答えた。そのリアクションにオレは吹き出しそうになったけど、さすがに失礼だと思って堪えた。


「なんか警察ってやっぱ怖いっていうか、緊張するっていうか……」

「……ま、普通はそっか」


 オレはエレベーターのボタンを押しながら、なんとなく納得した。


 そりゃ、タマキがいるのに自分の中で勝手にウジウジしてるなんて、な。タマキからしたら怖いだろうし、なんか話でも。


「あっ、そういえば直接、特能課に……?」

 意外と話振るなコイツ。

「ん? てっきり直接用事があるかと思ったけど?」


 チン。エレベーターの扉が開いてオレらは乗る。


「いやあの、前までは再寧さんがロビーに来てくれてて、あっ、初めて行くから緊張もするなって、」

「え?」「あっ」


 ハモった。


「……あっ、先、いいよ」


 タマキに譲られた。


「え? あ〜……。行ったことないの? 特能課。あんだけ再寧さんと連絡取り合ってるのに」

「いや、まあ、あの、友達感覚とは違う訳だし……」

「あ〜……そりゃ確かに? 母さんの用事とはいえ、しょっちゅうこんなトコ行ってるオレのがおかしいか」

「ハハハッ……」

「……」

「……」

「「……」」


 ゴウンゴウン、チンっ。エレベーター開門。


「あっ、骨折治ったんだねぇ〜……」

「いや今さら言うソレ?」


 アレぇ? 思ったよりタマキとリズム合わないぞ?


「「「あっ」」」


 廊下へ出るとすぐに迷子と遭遇。ヒカリだ。等身大サイズ、ゴスロリ服のツインテ。母さんの趣味と合うって感じのあの見た目だ。


「ちょちょちょっとヒカリぃ〜! も、勝手に行って、もぉ〜!」

「いいじゃない。警察署なんて滅多に来るトコじゃないから、面白そうで。つい探検しちゃったわ」

「典型的な迷子の理由っ!」

「それより、彼方じゃない」

 急にオレかぁ。

「んぁ? いやいや、ずいぶんとお騒がせしてたみたいじゃん」

「その方が楽しいでしょ?」

「でもすぐに見つかっちゃつまんないじゃん。もっと上手く隠れなきゃ」

「それもそうね。またの機会があったらそうしましょ」

「あの〜……。僕が困るんですけどぉ〜……」


 ヒカリとの会話のキャッチボール、あまりにも自然。そりゃタマキが頼りにするわ。


「何をやっているんだ君ら……」

「あっ、再寧さん」


 一室のドアからヒョコっと再寧さんが顔を覗かせる。ぷにっとした顔の少女のような大人が、とてとてとオレらの傍へ駆け寄るのだ。


「まったく、部外者以外は立ち入り禁止だぞ」

「あっ、デスよねスミマセン……。ほらぁー! だからロビーで待ってなきゃじゃん!」

「けど事務員さんは先行ってていいって行ってたわよ」

「んんんんんぅっ……確かに僕らもそれを聞いてココに来た……」

「「弱ぁ〜……」」


 オレと再寧さんで声がハモってしまった。


「彼方さんはまた課長にご用事か?」

「ええ。いつも通り、対した用事じゃないっスけど」

「あまり遊び気分で来るなよ?」

「わかってますよ~」


 そりゃ邪険に扱うよなぁ。まあジョークだろうけど、オレも分かっちゃいるけど。それにしてもリンカー絡みの事を知ってからは、気さくに話せるようになったなぁ。


「タマキ」

「えっ」

「いや『え』じゃなく。再寧さんに用事でしょ?」


 なんとなく気まずくなって、ちゃんと用事のあるタマキに話をパスした。


「あっ。えと、再寧さんこう……」

「うん?」

 再寧さんに伝わってないっぽいぞ。

「守秘義務! 守秘義務です!」

「あ~……オレはお邪魔っぽい?」

「んはぁ!? イヤイヤイヤイヤそんな悪い意味とかじゃなくてやっぱ巻き込むのもちょっとあんま良くないなっていうかあと純粋に警察の捜査情報もあるから話しづらいというか」

「それをお邪魔って言うんじゃないのか?」

「あっ。いや、まあ、うん」

 あっさり折れたな。

「……まぁ、巻き込まれるとか今さらだし、いいよオレなんて気にしなくて」


 とは言ってみたものの、一番気にしてるのは再寧さんっぽい。オレとタマキの方を交互に見たあと、深く溜め息をついた。


「しかしまあ、一番の厄介者は守るべき民間人に頼る、私ら警察だ」

「あっ!? ごごごごごめんなさいそんな嫌味を言うつもりはなくてですね」

「な~んでオレじゃなくてタマキが謝ってるのさ。再寧さん、オレなら席を外しますよ」


 再寧さん、ちょっと唸って考えてから、

「いや、むしろいい機会かもしれないな」

 それに付け加えてオレとタマキ達に「着いてこい」と、特能課に案内したのだ。


 中に入ると、向かい合わせのデスクが二組、奥に窓を背にして広めのデスクが一つ。その他アレコレ資料が散在してたり、ホワイトボードが入り口付近にあったり。それが特能課。こうして部署をマジマジ見るのはさすがに初めてだ。


 奥の二組が再寧さんと、ちのさんのデスクか。手前のデスクに、いつも見かけるメイクが濃くてイカつい男の人と、たまにいる探偵風の女の人が見えた。母さんを迎えに来る時に見かける人たちだ。


「失礼します。課長、改めて紹介したい人たちがいます」


 再寧さんが探偵風がいる側を遠慮なく通って、奥のデスクへ向かう。特能課課長──オレの母さんの──岸元 梓(きしもと あずさ)だ。


 母さんは頬に人差し指を当てて「ほ?」とあざとく疑問符を浮かべる。見た目が幼げでなければ許されない、実の子どもからして見ればキツい仕草だ。


「再寧、アポ取ってませんわよ? タマキさんとお会いするのは業務外事項、それもアナタが独断で捜査対象としている事柄。そうですわよね?」

「存じております。ですので折り入って彼女らがリンカー能力者として功績を挙げており、捜査協力者として我々の情報提供量を増加していいと提案したいのです」

「何をおっしゃりますの? 藪から棒に。まさか(わたくし)の子をダシにしようと。アナタ自身が自らの心象を落としている事、理解していまして?」


 うわぁ、めちゃくちゃキツいぞこりゃ。自分の母親が部下を叱りつけてるトコなんて。しかもド正論だ、何を見せられてるんだオレたちは。

 気がつけばタマキが声にならない恐怖を漏らしてガチガチになってるし。ヒカリとか早速飽きて部署を物色してるし。あ、今のダジャレだ。


「少女たち〜? 何しに来たの〜?」


 見られてた。メイクの濃い男の人だ。デスクには『紫陽花(あじさい) 龍之介(りゅうのすけ)』と書かれてる。

 タマキ達に代わってオレが答える事にした。


「ご無沙汰してます、紫陽花さん。オレは母さんの様子を見に。タマキ達は再寧さんと打ち合わせがあったみたいですけども……。なんか思うところあったみたいっスね」

「……あれ私の知り合い? あ、てかアレだ、課長の子どもね。いやいたね、たまに来るアレね? なんで名前バレてるんだろうな〜って思ったけどね〜、ビックリドンキーだね〜」

「……ふっ」

 ちょっとオモロ。


「てかアレだね、タマキとヒカリだっけ?」

「えっ、あっ、ハイ」

「しばらくぶりね、オカマのおまわりさん」

「今度の再寧はどしたアレ? お前らに用事があったっちゅうのに課長にドヤされてさ」

「さぁ……」


 なるほど、つまり再寧さんは何とかして特能課課長である母さんに、タマキの捜査協力を願いたいと。とは言ってもタマキのは相談してないし突発。それにオレを巻き込んだのは悪手だな。母さんは筋金入りの親バカで心配性だからなぁ。


 仕方ないので、ここでも助け舟を出す事にした。


「母さん。オレなら別にそんな深入りするつもりはないよ」

「かなたん」

「つまりさ、オレがヒーローごっこなんかして戦いますって言い出したらイヤって事でしょ? そんなの興味ない。だからタマキたちだけでもお願い」


 母さんは、深く溜め息をついた。指を組んで、頭を乗せる。


「……かなたん。だったら良い、なんて口が裂けても言えませんわ。警察の仕事が危険なものだって、分かっているでしょう?」

「再寧さんが欲しいのはあくまでタマキの頭でしょ? 戦闘なんてあくまで自己防衛の手段。暴れ回るリンカー能力者に抵抗できるだけの能力と実績あるのは、そう無い人材じゃない?」


 母さんは天井を仰いで、それから組んだ指に鼻の頭を乗せて、

「確かにそうですわね」

 納得した。


 ホント子供には甘くて助かるなぁ〜。


「けど積極的戦闘行為はダメですわよ! かなたんも、我妻さんも!」

「あっ、ハイっ」

「モチロンだよ、分かってるって〜」


 そりゃオレとしても願い下げ。そも実力行使しなきゃなんないタイミング、そうあってたまるかって。

 ま、母さんも結局はソコが一番大事なんだろうけど。心配性なんだよな、ホント。


 追加の用事も済んだから、さっさとタマキ達のトコへ戻ろうとした。そしたら、背中越しに再寧さんに声をかけられた。


「……スマナイ、助けられてしまったな」

「この程度、感謝されるほどじゃないですよ。それよりタマキ」

「あっ、ハイ」

「警察にお世話になるんだから、挨拶ぐらいしたら?」

「あっ、いや、一通り知ってる人達と、言いますか……」


 そう言い、タマキは(てのひら)を上にして一人一人手で指していく。丁寧なヤツ。


「あっ、ご存知再寧さん。……いい人」

「ありがとう」


 そのまま母さんへ。


「えと、岸元 梓(きしもと あずさ)……課長」

「あら、名前を覚えていただき光栄ですわ」


 続けて探偵ふうの女の人。


「えと、深里みさとさん」

紫苑 深里(しおん みさと)っ! だ。覚えておきたまえよ、我妻 タマキさん」


 苦笑いしつつ最後に、紫陽花さん。


「えと、紫陽花さん、巡査部長」

「龍之介だよ」

「えっ」

「私はオカマだよ」

「いや……えっ、いや」


 タマキが困惑するのも解る。


 オカマでいいのか、紫陽花さんのカテゴリ。いや違うな、そもそも下の名前で呼ばれたかったのか。

「あ〜、私のことはなんて呼んでもいいよ。ウンコマンでもいいよ」

「イヤです……!」

 いやもうツッコミが追いつかない。


 耐えられなくなって、オレはタマキを促すのだった。


「ねえ、自分と相棒の挨拶しなって」

「えっ。あっ! あっ、そっか! あっ、我妻 タマキですコッチはヒカリ」

「ヒカリー」


 よっぽどヒマだったのか、ヒカリがバニーみたいに両手を頭につけて大股開きでふざけだす。

 この子、見た目と中身から想像つかないほど全然クールじゃないよなぁ。バイオレンスだし、フリーダムだし。


「ちょっ、ヒカリやめなってこういう所でふざけるの……!」

「あずさー」

「みさとー」

「りゅうのすけー」


 特能課みんなマネしてふざけ始めた、再寧さん以外。


「特能課ってふざけてるんですか?」

「ホントにスマナイ……!」

 あ〜、いいヒマつぶし。


 タマキがキレて再寧さんに謝らせてる、そんなレアシーンも見てオレは満足だった。

 母さんに「じゃ、また夕方ってコトで」と言い残し、部屋を後にする。


 振り返って──ずっと、紫陽花さんのことを思い出していた。あの『オカマ警察官』。


 正直、ちょっと羨ましいと思った。紫陽花さんのこと。自分のことを堂々と『オカマ』とか言って、あんだけ自由にしてて。


 ──気にしすぎだよっ──!


 あの日のタマキの言葉が蘇る。


 ──僕は僕だ! 彼方は彼方だ! 『何者』かじゃないっ──!


 さっきオレが何度もそれとなく誘導して助けたヘナチョコ。あれがオレの心のロックを震わせるイカした事を言ったんだ。今振り返ると、そのギャップが不思議でしょうがない。不思議が常識。……というより『不思議』という言葉で押し込めようとするオレがまだまだ型にハマりすぎなだけだ。

 だから、ますます紫陽花さんの型破りさが気になってしまう。


「オレは気にしすぎで、紫陽花さんは気にしなさすぎ、かなぁ」


 エレベーターの壁に身を預け、その唸る振動を意味もなく探るのだった。

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