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プロローグ

 夜も更け、街を照らすのは優しい光を灯した月明かりと、点在する電灯のみとなった。

 そんな街の外れに位置する静まり返った港で、一人の女が毅然とした歩みで靴音を打ち鳴らす。

 女のクリクリとした目がアスファルトの大地に刻まれたタイヤ痕をなぞり、古い倉庫を捉える。猫の子一匹いやしない港にあって唯一、その倉庫のシャッターから光と共に人の気配を漏らしていた。


 女は無遠慮にシャッター脇のトビラを蹴って開け放つ。そんな豪快に現れた侵入者に、中にいたグループが反応しない筈がなかった。下卑た笑い声入り混じる会話を中断し、月明かりの仄かなバックライトに照らされたその人物を一斉に睨みつけた。


 ──そこにいたのは、チンチクリンだった。


 足も胴も小学生ぐらい短く、光から僅かに覗く顔は丸くてプニっとしており、あどけなさが残る。寒風を凌ぐのに羽織ったレザーコートが身の丈に全く合っておらず、まるで警察ごっこをしに親の服を借り、夜出歩いている子どものようだった。小柄と言うにしてもあまりに小さすぎた。


 そんな文字通りの小女(こおんな)が垢抜けていない声で、中にいた四人の男女へ言葉を発する。

「私には嫌いなモノがある」

「おいガキぃ。ここぁ公園じゃねぇんだぜ、とっとと消え……」

 瞬間、相対した男の言葉が、打撃音と共に遮られた。

「犯罪を笑い話にする輩と、酢豚に入ってるパイナップルだ」

 小女は、倒れて伸びてる男などもう眼中にないとばかりに、残りの連中にそう告げた。


 顔にキズ跡があったその男は、同じ箇所へもう一度同じキズを塗りたくるようにして殴られた、ように見えた。だが、しかし。小女がコブシを下した様子を誰も認める事は出来ていなかった。


 女は一方的に話を進める。

「しかしまぁ、ステゴロの殴り合い程度だったら、ちょっとしたケンカで済むんだがな。見ろこの壁、弾痕だらけだ。本物のチャカで鉄砲ごっこでもしてたんだろ?」

 女は自分の背丈を頭一つ越えた壁の一部分を、背伸びしながら指さし、溜め息混じりで集団に言う。

「全く。ちょっと考えれば如何に危険かすぐ理解できるだろうに。冷静な判断力をとっくに失っているいい証拠だ」

「ナメやがって……!」

 銃声。突然だった。カランコロンと、ひしゃげた弾丸が床を転がる。男の頬を掠め、弾痕の刻まれた壁に、それもちょうどその痕と同じ場所に銃弾が放たれたのだ。

 おかしな状況だった。警察の女は銃など取り出していない。では仲間が撃ったのか? それこそ何故?


 考える間もなく次の男は、飛びかかってきた小女の勢いによって地面に叩きつけられ、器用に組み伏せられる。

「私には嫌いなモノがある。無駄な抵抗と、酢豚に入ってるパイナップルだ。解ったら残ったお前らも、大人しく投降しろ」

「くたばれクソアマッ!!」

「顔にナイフ痕。首に大量のキスマーク」

 小女は観察するように、二人を指さす。すると残った男女二人が獲物を取り出すより早く。男のナイフ痕からカサブタを剥がしたように鮮血が吹き出し、女は自身の首を必死に抑えて呻く。

 奇妙な現象が連続していた。それもあって現場はあっさり、一人の小さい警察によって解決したのだ。


「リンカー能力の痕跡は無し。さて、ヤク確認。麻薬取締法違反に、銃刀法違反と〜あと公務執行妨害も加えとくか。現行犯逮捕。ムショでタップリ聞かせてもらうぞ」


 それから数刻。夜が明け街に光が差す。光に誘われ行き交う人々。その様は朝の日差しが、人の営みに活力を与えるかのようだった。

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