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君と共に綴る音色  作者: 藤田大腸
クリスマス特別短編

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クリスマスパーティー 後編

 結局、行くのは私と綴理、太田さんと佐瀬さんの四人だけとなった。肝試しの様子は主催から預かったスマホで撮影され、ビデオ通話アプリを通じてカフェテリアのモニターに生中継で映される。私たちの行動やリアクションがパーティー会場を盛り上げる、ということだ。撮影者は太田さんだ。


 下校時間あたりまでは正門から裏門へと伸びる通路に照明が灯るが、今は真っ暗闇の中。懐中電灯とスマホがなかったらほとんど見えない。


「ほいじゃ、グラウンドに入りまーす」


 太田さんがスマホに話しかけると『気をつけてねー』という声が返っきた。お嬢様学校の星花女子学園でも、さすがにグラウンドにナイター設備は無い。静寂の暗闇の中、しゃりしゃりと砂を踏む音が大きく聞こえる。


「去年と違って、全然寒くないわね」


 佐瀬さんがボソッとつぶやいた。寒くないわけがないのだが確かに去年よりはマシだ。


「去年は寒波がすごかったですもんね。ここらへんじゃ滅多に振らない雪が降って積もったし」

「雪ねえ。いろいろと大変だったわ、あたしも」


 うわっ、と太田さんが驚いたような声を上げた。


「何か踏んだ!」

「え?」


 私が懐中電灯を当てると、ソフトボールが転がっていた。


「ビビった~……ねえ、これ仕込みじゃないっすよねえ?」

『違うよー。あー、ソフトボール部の人がめっちゃ怒ってる。かたづけ忘れてやがったなって』


 明日部活があったとしたら地獄だな。


 旧校舎は暗闇の中に溶け込んでしまっているが、懐中電灯を当てると古めかしい造りが浮かび上がる。昼間は趣のある感じなのに夜だとこうも不気味に映るのか。


「綴理、大丈夫? 怖くない?」

「全然。むしろワクワクしてます」

「なんで?」

「実は昨日恋愛小説を読んだんですけど、ダブルデートで遊園地のお化け屋敷に入るシーンがあるんです。それとシチュエーションが似ていて、主人公と同じ気分になれるんだなって思うと楽しくて」


 綴理は本のことになると舌がよく回る。


「恐怖を克服して仲がますます深くなる……そんな感じの展開かな?」

「いえ、もっと凄いですよ。何せ真っ暗闇で見えないのを良いことに恋人が主人公の……その……ああ、ちょっとこの場では口にできません!」

「えー、気になるー」

「何なら、貸しますよ? とにかく凄いですから」


 何がどう凄いんだろう。


「じゃ、太田悠里と愉快な仲間たちが中に突撃しまーす!」


 昇降口はカギがかかっていなかった。肝試しのために開けておいたのだろう。となると、ここにこそ何らかの仕込みがされている可能性がある。


「ぬおおっ!?」


 太田さんが何気なく懐中電灯を照らした先におかっぱ頭の不気味な顔が!


「いやあっ!」


 綴理が腕にぎゅっとしがみついてきた。私も一瞬だけビビったけど、なんかこの顔、どこかで見たような……思い出した。


「これ、美術の教科書に載ってる絵じゃん」


 岸田劉生の『麗子像』をポスターにして壁に貼り付けていただけだった。やっぱり仕込みがあった。


『いいねーそのリアクション! ウケてるよー!』


 主催は嬉しそうだ。今頃、カフェテリアは大爆笑してるんだろうなあ。


「要は、旧校舎をお化け屋敷にしちゃった感じか。お化け屋敷だと思えば全然怖くないな」

「風原、声震えてんぞー?」

「ビビってないよ!」

「じゃ、風原が先頭な」


 太田さんに押し出されるような格好で前にやられた。


「本当は太田さんの方が怖いんじゃないの……」


 ぴとっ。


 唐突にひんやりした感触が頬を走って、声が出てしまった。


「やだっ、何これっ!」

「きゃあっ!」


 綴理の身にも何か起きたらしい。後ろで太田さんがケタケタ笑う。


「こーんなベタなもんに引っかかってやんの!」


 懐中電灯の明かりで浮かび上がったのは……吊るされたこんにゃくだった。あーもう、こんにゃくごときで……悔しい。


「ちょっとこれ、悪趣味すぎない?」


 佐瀬さんの懐中電灯が映し出したのは、壁一面に貼られている御札。文体が気持ち悪い上に何を書いているのかわからない。


「杏花さん、リアクション悪いですよー。ウソでも『きゃあっ』って悲鳴上げたらウケるのに」

「そんなガラじゃない。はい、次行くわよ」


 旧校舎は三階建てだけど、三階と屋上は封鎖されている。二階まで探索する中でベタな仕込みにビックリさせられて、綴理は何度も私にしがみついてきた。


 でも綴理の目は異様なほどギラついていた。ちょっと怖い。


「大丈夫……?」

「全然大丈夫です。怖いけど楽しくて、あの小説の主人公の気持ちを味わえていますから!」


 声が上ずっている。違う意味で心配になってきた。


『はい、じゃあそろそろ時間なんで戻ってきてくださーい。お疲れさまでしたー』


 主催が伝えると、太田さんは「三階行かなくていいんすか?」と聞いた。


『立場上ダメとしか言えませーん。どうしてもというなら自己責任でねー』

「よし行こう」


 大階段の三階への通路はテープが張られて出入りできないようにしているが、太田さんがくぐっていこうとしたから、佐瀬さんに「よし行こうじゃないわよ」と首根っこを掴まれて戻された。保護者と子どもみたいだ。


「ふふっ、太田さんって面白い人ですよね」


 綴理は太田さんを見ていたが、まずは暗い足元をちゃんと見るべきだったかもしれない。そこは階段のステップがあった場所だったから。


「危ないっ!」


 綴理の体がガクンと沈んだ瞬間、私の体は反射的に動いていた。後ろから抱きとめるようにして、綴理が転倒するのをどうにか防ぐことができた。


「あっ……」


 綴理と目が合う。腕を通じて綴理の鼓動が強く、早くなっていくのを感じる。


「よ、良かった……転ばなくて」

「ありがとうございます……」


 時間が止まったかのような錯覚を感じた。太田さんと佐瀬さんがいることも忘れていた。錯覚を破ったのは太田さんのスマホだった。


『うわー!! あつーい!! すごい良い絵面してる!!』


 太田さんが私たちにスマホを向けていたのだ。向こうから主催が音割れするぐらい大きな声で叫んでるし、太田さんはニヤニヤしてるし。


「ちょっと! 撮らないでよ!」

「ニヒヒヒ」

「撮るなー!」


 私はスマホに手を押し付けた。


 カフェテリアに戻ってきたら案の定みんなに冷やかされるし、恥ずかしいったらありゃしなかった。綴理の「とっても楽しかったです!」の一言は嬉しかったけれど。


 パーティーが終わった後、寮生は各々の部屋に戻っていったが、中には二次会と称して友達や恋人を自分の部屋に招いたり、相手の部屋にお呼ばれされたりする生徒たちも少なからずいた。就寝時間前には点呼があるけれどこの日ばかりは大目に見てくれるようで、そのままお泊りする生徒もいるという。


 そして私の部屋には、綴理が上がり込んでいた。綴理の方から上がってもいいですか、と聞いてきたのだ。もちろん、断る理由なんか全然ない。


「これがさっき言ってた恋愛小説です」


 ちょっとぶ厚めの文庫本。高校生どうしの恋愛を扱ったもので、最初らへんをパラパラと読んだ限りでは普通の展開だったのが、主人公の友人カップルとのダブルデートで遊園地のお化け屋敷に入るシーンから風向きが変わった。


 主人公と恋人が暗闇の中、人目を盗んでかなり際どいことをしていたのだ。


「綴理、こういうのも読むんだね……」

「好きな作家なんです。だけどこんな過激ものを書くとは思わなくて……でも、最後まで読んじゃいました」


 後ろの方のページをチラ見したら、もっと過激なシーンが目に飛び込んできた。これはすごすぎる……


「これ、借りちゃっていいの?」

「ええ。だけど読みすぎないでください。私は寝られませんでした……」

「あのさ、綴理。もしかして本に書かれていることをしてみたい……と思っちゃったりしてる?」

「え?」


 綴理の顔はりんごみたいに真っ赤になった。


「せ、先輩こそどうなんですか?」


 こっちにボールを投げ返してきた。肯定も否定もしてない。今の気持ち、正直に伝えてしまおうか。クリスマスの夜だからという免罪符を使って。


「私はっ」


 このタイミングで唐突に私のスマホから通話アプリの着信音が鳴り出した。ビデオ通話でかけてきたのは太田さんだ。


「もしもし?」

『ウェーイ、風原ちゃん見てる~? 今からこのごっついクリスマスケーキを杏花さんと一緒に食べちゃいま~す』


 クリスマスケーキが映ったが、でかすぎる・何段重ねなんだこれ……


 佐瀬さんの声に変わった。


「この子が料理部で作ったホールケーキ。でも調子こいてかなりでかいの作ってくれちゃって。あたし達だけじゃ食べ切れないからあなた達も今からこっち来て一緒に食べてよ」


 ちらほらと太田さん佐瀬さん以外の人も映っている。苦笑いしか出てこなかった。


「やれやれ、せっかくだから頂いちゃおうか」

「行きますか」


 文字通り、クリスマスは甘い夜になったのであった。

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