クリスマスパーティー 前編
クリスマスネタを前後編立てでお送りします。
星花女子学園のクリスマスイブは行事が盛り沢山だ。合唱部は毎年市内中央公園でコンサートを開き、ボランティア部は学園前商店街で献血活動の呼びかけ。そして私、風原美音のいる吹奏楽部はスターパレスショッピングモールで演奏イベント。定番のクリスマスソングに加えて、冬休みで子連れが多くいたことから子ども向けアニメの主題歌も何曲か演奏したところこれが大受けした。
イベント終了後には総支配人から部員全員にプレゼントとしてお菓子の詰め合わせが配られた。一人で食べるには量がちょっと多すぎる。となると、綴理とお裾分けだな。
今日は特別な日だし、さらに実質的に今年の部活動最終日だからみんなあからさまに浮かれていた。帰りの電車内で同級生の上野本詠里と竹国楠葉は人目も憚らずいちゃついてるし、古屋カロは京橋琴絵に抱きつかれて顔ではうんざりしているが好きにさせている。私は音楽を聴いて興味ありませんよーという感じを装っていたけれど、早く寮に帰って綴理に会いたかった。
それに、夜はクリスマスパーティーも開かれるし。
*
中高の桜花寮・菊花寮の寮生が中心となって開かれるクリスマスパーティー。毎年大勢の参加者が来るので特別にカフェテリアを借りて、そこで美味しいごちそうにデザートを頂いたり、ミニゲームで盛り上がったりする。このクリスマスパーティーが終わると寮生の大半は帰郷するので、打ち上げパーティーの側面もあった。私も綴理も明日には実家に帰るから、二人一緒で食事をするのは今年で最後だ。
「この前美音先輩と一緒に行ったクーネルヨンダースのスパイシーフライドチキンも美味しかったですけど、この骨なしチキンもなかなかスパイスが効いてますね。でも若干味がニアチキっぽいような?」
「両方とも寿フーズが製造してるんだよ。商業科の同級生が言ってた」
「寿フーズって天寿の母体の一つでしたよね」
「そそ。だから融通効かせて貰えるんだ。でもちょっといい鶏肉はカフェテリアに回されるんだって。どこまで本当かわかんないけど」
綴理と他愛もない話をしながら骨なしチキンを味わっていたら、「風原ー、楽しんでるかー?」と声をかけられた。
「太田さん」
クラスメートの太田悠里だ。長野出身で、実家の会社はスキー場やホテルなどいろいろ経営しているお嬢様だが、フランクな態度は良い意味でお嬢様らしくなかった。
「一年経つの早かったなあ。去年に大雪降ったのがちょっと前のことみたいだ」
「本当、あっという間だったよ。私たちもうすぐ二年生だし、綴理は高等部だし」
「あ~この子かあ、風原のカノジョさんは。中等部の桜花寮で何度か見かけたことあるな」
「幅木綴理といいます」
「あたしは太田悠里。長野のスキーで有名な村から来たんだ。幅木さんはスキーは好きかい? なんてな。ガハハハ」
「えと……」
「何だよー、ちょっとは笑ってくれよー」
「あの、太田さん? もしかしてこっそりお酒飲んでないよね……?」
「飲んでねーよ。あたし保健体育の授業でやったアルコールパッチテストで真っ赤っ赤だったんだぞ。飲んだら死んじまうよ」
「それにしてもテンションおかしすぎでしょ」
太田さんの傍らから、ちょっと怖そうな人が顔を出してきた。この人が前から話に聞いていた、太田さんの恋人の佐瀬杏花先輩らしい。
「この子、朝からずーっとこんな感じなのよ。何でだと思う?」
「うーん、わかんないです」
「お兄さんに恋人ができたんだって」
「そうなんだ。クリスマスだからなおさらめでたいね」
「明日杏花さんと帰省デートついでにお祝いしに行くんだ。明日もごちそうだから体重計に乗れなくなるな! ガハハハ!」
太田さん、元から変なテンションになることはあったけど今日は特におかしい。本当にお酒飲んでないよね?
「はーいみなさんいったん注目ー!」
イベントの主催者が手を上げながら呼びかけた。
「唐突ですがここで! 季節外れの肝試しを行いたいと思いまーす!」
カフェテリアがざわついた。
「ルールは超簡単。夜の旧校舎の中を探検して帰ってくるだけ! さあ我こそはという人はいませんか?」
誰も手を上げようとしない。旧校舎は文化部の部室として使用されており人の手が入っていないわけではないが、老朽化が進んでいる建物なのであまり近寄りたくないと感じる生徒が少なからずいる。夜に行くとなるとますます躊躇するだろう。
「いきまーす!」
沈黙を破って、太田さんが手を上げた。佐瀬さんの手を持って。
「ちょっと、何勝手に……」
「良いじゃん良いじゃん、真冬の肝試し楽しみましょうよー」
「もう……」
ツンツン、と脇腹を突っつかれる感覚がした。
「どしたの綴理?」
「ねえ、私たちも行きませんか……?」
「え?」
「ちょっとなんというか、刺激的なクリスマスの思い出を作りたいというか……」
綴理はモジモジしながら言った。クリスマスという特別な日の空気に綴理もまた、太田さんほどじゃないけどテンションがおかしくなってるのかな?
何だか私もその気になってきてしまった。
「はい、行きます!」
私と綴理は一緒に手を上げた。




