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部活対抗リレー

『午後の部、最初を飾りますのはエキシビション種目、「部活対抗リレー」です!』


 放送部のアナウンスとともに上がる歓声。競技が始まる直前になって、心臓がバクバクしているがこれは緊張からくるものじゃない。原因は、先程の幅木さんの大胆な行動だ。しかし幅木さんも何でそんなことしたのかわからないみたいで、お互いわけがわからず混乱している、そういった状況のまま昼休憩が終わってしまった。


「せーんぱーい! どこ見てんですかっ」


 京橋さんの笑顔が急に視界に現れて、我を取り戻した。すぐ後ろには古屋さんもいる。


「緊張してますね。とりあえず、深呼吸しましょうか」


 古屋さんに言われた通りにしたが、バクバクが収まる気配がない。さっき水分補給を十分したのに、もう喉が乾いてきた。


 すると古屋さんが紙コップを差し出す。


「飲みます? はちみつレモン。リラックス効果もあるんですよ」

「わ、ありがとう!」


 なんて準備の良さだろう。私はありがたく頂いた。


「古屋せんぱーい、私には何もないんですかあ?」

「あなたには後でとっておきのご褒美を用意していますから」

「え、何です?」

「内緒です」

「気になるなー。まあ楽しみにしてますよっ」

「このリレー、第一走者の京橋さんにかかってますからね。期待してますよ」


 古屋さんは優しげに京橋さんに語りかける。京橋さんも機嫌よく応えている。普段は相性が悪い二人でも、このときばかりは目標に向かって団結する姿勢を見せているみたいで、そこは安心した。


「部長の予想通り、他の部活はネタに走ってますね」

「うん、今年もなかなかだね」


 第一組目は剣道部、料理部、茶道部、落語研究会、ラクロス部、硬式テニス部。防具をつけていたり、エプロン姿だったり、羽織袴姿だったり。バトンの代わりにスティックやラケットを持っていたり。茶道部に至っては茶摘み衣装でカゴを背負っている。走るのに邪魔でしかないが、勝敗は二の次といったところだろう。


 第一走者がスタート地点に並ぶ。いよいよだ。


『位置について、よーい!』


 ピストルが鳴って、部活対抗リレーが始まった。


 剣道部は防具が重いからかたちまち置いていかれ、身軽なラクロス部と硬式テニス部が先行する。料理部はお玉を振りかざす姿がどことなく滑稽で、落研は羽織袴が動きにくそうだ。茶道部はなぜかコースアウトしてギャラリーに向かって何か投げている。お茶請けのお菓子らしかった。食後のデザートにはもってこいだろうけど、ルール上問題ないのだろうか。


 とにかく、どのチームもパフォーマンスに重きを置いていた。みんな大ウケしている。昼休憩でいったん落ち着いた熱気を再び呼び起こすにはまさにうってつけの競技だ。


 優勝したのはラクロス部で、硬式テニス部が続く。剣道部はなんだかんだで三位に食い込んだが、アンカーがさすがに文化部に負けるのはまずいと思ったのか防具を着けずに走ったからだった。こうして上位は運動部が独占する結果となった。


 そして第二組目、私たち吹部の出番だ。相手はソフトボール部、バスケットボール部、写真部、マジック部、ボランティア部。第一組目と違って運動部は二チームだけだった。


 ソフトボール部の第一走者はかなり体が大きくてキャッチャーの防具をつけている。バスケットボール部はボールを持っており、恐らくドリブルしながら走るのだろう。写真部は大きなカメラをぶら下げ、マジック部はマジシャンの格好をしているだけだが何か手品やりそうな雰囲気だ。ボランティア部はゴミ拾いのつもりか、トングと空の宮市指定の黄色いゴミ袋を持っている。ちなみに燃えるゴミ用だ。


 何も仕込みもなく、ガチンコ勝負なのは我が吹奏楽部だけだった。


「なんだか、勝てそうじゃないですか?」


 京橋さんは自信ありげだった。


「ネタに走ってても運動部は強いよ?」

「私だって元運動部ですよ!」


 屈伸運動を念入りにやる京橋さん。素人目にもその所作ひとつひとつがさすが陸上経験者だと思わせるもので、私も本当に勝てる気がしてきた。


「第二組目の出場者は指定位置に集合してください! 第一走者はスタートラインにお願いします!」


 企画委員が合図する。


「それじゃ、頼んだよ京橋さん」

「先輩のためにも頑張ります!」


 京橋さんは敬礼の仕草をすると、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、「がんばるぞー!」と大声で叫んだ。


 そのときだった。


「あ、れ……?」


 京橋さんが急にうずくまったかと思うと、右足首を抑えて倒れ込んだ。


「きょっ、京橋さん!?」


 異常はすぐに会場にいた全員が察知することとなり、歓声がどよめきに変わっていった。

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