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君と共に綴る音色  作者: 藤田大腸


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序曲

星花プロジェクト13弾開始です!

 立成20年4月、星花女子学園入学式。私、風原美音(かぜはらみね)は今日から高校生になる喜びを噛み締めて……といきたいところだけど緊張して仕方がなかった。


 来賓席には政治家たち、企業の社長たち、それどころか芸能人の姿まで。みんな星花女子の生徒の親だという。これだけならああ、やっぱりお嬢様学校なんだな、で済むだろうけど、星花女子学園は単なるお嬢様学校ではない。


 二階のギャラリーを見てみると、テレビカメラがびっしりと構えられていた。それだけじゃなく朝から敷地内で新聞記者の姿を多数見かけたし、中にはキー局の名物アナウンサーもいる。これだけマスコミが来ているのは、現役生徒に有名な芸能人が複数人いるからだ。


 中等部に転校して二年と九ヶ月経ったけど、今更ながら改めてとんでもないところに来ちゃったんだなと思う。


 厳粛な空気の中で進められた入学式が終わって、続いて新入生歓迎会へと移ったが、ここで私は中座した。私の所属する吹奏楽部の演奏に参加するためだ。新高一でも中等部からの内部進学組は先輩の立場に当たるから、歓迎する側に立つのが習わしだった。


 ただし私は内部進学組といっても編入学だし新入生歓迎会を経験していなかったから、今回は演奏に出ず改めて新入生として歓迎会を楽しんでもいい、と顧問の先生に言われていた。だけど私だけ抜けるというのは悪い気がしたので、歓迎する立場に立つことにしたのだった。


 マスコミがこんなに大勢来ると知っていたら手を挙げなかったかもしれないが。


 控室の中、私はトランペットを構え姿見で姿勢を確認する。昨日美容院で整えてもらったばかりの襟足長めのショートヘアはバッチリ決まっていたけれど、


「指、動くかなあ」


 ピストンを押しながら不安をうっかり口に出したのを、フルート担当の君嶋知代(きみしまともよ)先輩が聞きとった。


「風原さん、どうしたの?」

「だって、テレビカメラが回ってる中で演奏するんですよ? 特にトランペットは目立つから、トチったら大恥ですよ」

「目当ては私たちじゃなくてあっちだとは思うけど……」


 君嶋さんが振り向いた先には美滝百合葉(みたきゆりは)先輩。全国区の人気アイドルでありながら高等部生徒会長も務める超人だ。それだけではない。巨大アイドルグループ椚坂108のセンターを務める姫咲部律歌(ひさかべりつか)先輩。さらにはアイドルコンビ、JoKeの蜂谷旬(はちやじゅん)先輩、羽村馨(はねむらかおる)先輩もいる。メディアを賑わせているアイドルたちが、いち女子校の控室に固まっているのだ。吹奏楽部の演奏の次はこのきらびやかなアイドルたちがトリとして新入生歓迎特別ライブを開き、新入生たちはそれをタダで見られるという至極の贅沢を味わうことができるのだ。


 ならば一層、ライブの「前座」を務める私たちの責任は重大。コンクールのときとは違ったプレッシャーがのしかかる。


「ねーねー」


 考え事をしていたら、いつの間にか蜂谷先輩が目の前にいたものだから「わっ」とびっくりして飛び退いた。


「はい、何でしょうか!?」

「今にも漏れそうな顔してんね。トイレ行ってきたら?」

「はい!?」


 ニヤリと笑う蜂谷先輩。羽村先輩がとんでもない形相でササッと飛んでくる。


「蜂谷! あんたこんなときに何変なこと言ってんのよ!」

「ぎゃははは、だってこいつ漏らしそうな顔してたんだもん!」

「人に指を差さない!」


 羽村先輩の口調は、まるで子どもを叱るお母さんのようだった。


「本当にごめんなさいね……蜂谷、出番までお口チャック! わかった!?」

「はーい」


 この一連の場面、テレビに映されてたら炎上してただろうな……そもそもこの二人、炎上系アイドルとしてよくも悪くも有名なのだが、私まで巻き添えになりたくない。


 外から拍手が聞こえてきた。私たちより先の合唱部の発表が終わったようだ。


『ありがとうございました。続きまして、本校吹奏楽部による演奏を披露させて頂きます』


 蜂谷先輩に変なことを言われたものの、あの人元からメディアの前でもあんな感じだからしょうがない、と思い直して舞台に出る。


 生徒会や企画委員が手際よくパイプ椅子を設置すると、昨日のリハーサル通り、指定された座席に着いた。その合間にも司会は続く。


『演奏曲目は連続テレビ小説「花咲く丘で」オープニングテーマ、アニメ映画「ハロー、シリウス」主題歌「flexible」の二曲です。両作品には本校高等部三年生、雨野みやびが出演しており……』


 星花女子には女優雨野みやび、本名天野雅も在籍している。天野先輩は『花咲く丘で』では主人公の高校生時代を、『ハロー、シリウス』では自分をシリウス星人だと言い張る不思議なヒロインを演じて話題になっていた。次に出てくるアイドルたちも含め、星花女子学園には有名人がたくさんいるんだよ、と新入生たちにアピールして、凄い学校に来てしまったんだなあと思わせるのも歓迎会の狙いの一つだ。


 指揮者は三年生の先輩が務める。新入生たちに一礼をして拍手を受けている中、私は深呼吸する。演奏モードに気持ちが切り替わって、先程まで感じていた不安がすっと消える。もうテレビカメラは単なるオブジェにしか見えなくなっていた。


 先輩が指揮棒を構えると、みんなも楽器を構える。先輩は十分に間を取ってから、指揮棒を振り出した。


 一曲目のオープニングテーマは明るくコミカルな曲調。本来の主旋律はピアノなので吹奏楽アレンジを施しているが、ここではトランペットは控えめに。主旋律を取るのはフルートだ。フルート担当の君嶋先輩が奏でるメロディはやはり気持ちがいい。四分弱ある演奏はあっという間に感じられた。演奏時間が短く感じられるのは私は調子がいい証拠だ。


 続いて『flexible』へと移る。こちらの主旋律はトランペットなので、ここからは私の腕の見せ所だ。前曲と打って変わって激しめの曲調で難易度もそこそこ高いが、上手く演奏できれば盛り上がる一曲。そして私たちには上手く演奏する技量があった。


 会場が盛り上がっていくのを肌でヒシヒシと感じる。だけど最大の見せ所は、一番から二番の繋ぎの場面。ここを大胆にトランペットのソロにアレンジしている。


 私は立ち上がって、渾身の音色を会場に響かせた。聴衆の視線が私に向く。失敗したらどうしよう、なんて後ろ向きな考えはもう頭の中にない。むしろこの後に出てくるアイドルたちを食ってやるんだ、という気持ちを持っていた。


 最後に強烈なハイトーンを残してソロパートが終わると、稲妻のような拍手を浴びたのだった。


「あんな演奏されちゃ後がやりづれーよなー」


 演奏を終えて控室に戻った私に聞こえよがしに、蜂谷先輩がぼやいた。すぐに「蜂谷!」って羽村先輩が怒ったけど、何で怒る必要があるんだろうか。人気アイドルにそう言わしめたことは名誉以外何者でもなかった。


「風原さんのソロ、すごく受けてたね。さすが」


 君嶋先輩からもお褒めの言葉を頂いた。


「ありがとうございます。いやー、何とかトチらずにすみました。それじゃ失礼します」


 興奮冷めやらない中、今度はまた歓迎される立場に戻った。アイドル四人のライブは、私の演奏をもかすませてしまうほどきらびやかだった。


 *


「あっ、あの! 新入生歓迎会の演奏すごかったです! これ、良かったら受け取ってください!」

「私たちからもお願いします!」

「私も!」「私も!」


 新入生歓迎会から数日経ったのに、いまだに中一の子たちがプレゼントやらファンレターやら渡してくる。今日はカフェテリアから出たら出待ちがいて囲まれてしまい、彼女たちの贈り物攻勢のおかげであっという間に両手が塞がってしまった。


「こんだけの量、教室に持って入ったら迷惑かけちゃうな……」


 寮まで置きに帰ろうかとも考えたが、病気での早退を除き放課後になるまで寮に帰ることはできない決まりになっている。途方に暮れかけていたときだった。


「そんなに抱えて大丈夫ですか?」


 聞き慣れた声がした。


「あっ、幅木さん!」


 ハーフアップの髪型で赤縁メガネをかけている小柄な女の子、幅木綴理(はばきつづり)がいた。私の一学年下、中三の後輩にあたる。


「お土産か何かです?」

「いや、全部貰い物で。貰いすぎちゃったからどうしようかなと」

「いったん図書準備室で預かっておきますよ」


 星花女子学園の図書館はカフェテリアと同じ校舎の中にある。幅木さんは図書委員会に所属していて、今日は昼休みの時間帯担当ではなかったものの、図書館に赴いて司書教諭に事情を説明しに行ってくれたため、おかげで図書準備室を使わせてもらえることになった。


「ふー、助かった」


 贈り物を降ろしたところで、幅木さんが話しかけてきた。


「風原先輩、新入生歓迎会でとんでもない演奏したらしいですね」

「え? 誰から聞いたの」

「この前、寮で晩ごはんを食べている最中に一年生たちが先輩の噂話をしているのを聞いたんです。エモいとか脳がしびれたとか耳に花が咲きそうとか、そんな話ばかりで」


 耳に花が咲く……一応は褒め言葉なのかな?


「その貰い物もファンの子たちからでしょう?」

「うん、でもちょっと多すぎるかな……」


 ここは女子校という半閉鎖空間のせいか、はたまた星花女子だけの特性なのか知らないが特定の生徒にファンがつくことが多い。私も「風原さんの演奏のファンなの」って打ち明けられることはあったが、さっきの新入生たちみたいに贈り物までされることはなかったから正直いって困惑している。


「羨ましいな」

「え?」

「いえ、何でもないです。それより先輩、本借りてますよね? 明日返却期限ですよ」

「あ!」


 春休み中に小説を借りていたのをすっかり忘れていたのだった。

【ゲストキャラとか解説とか】


君嶋知代:楠富つかさ様考案キャラ。吹奏楽部でフルートを担当している。かつて自分に自信がなく幽霊部員だった時期もあった。


美滝百合葉:百合宮伯爵様考案キャラ。アイドルグループ「mizericorde」のセンター。天寿グループお抱えのアイドル。もはや星花女子学園の顔とも呼べる存在になっている。


姫咲部律歌:百合宮伯爵様考案キャラ。アイドルグループ「椚坂108」のセンター。美音と同様途中編入で入学。理由あって正体を隠していたが昨年度の高等部に上がった際に入学式で正体を明かして大騒ぎになる。


蜂谷旬&羽村馨:二人とも桜ノ夜月様考案キャラ。アイドルユニット「JoKe」を組んでいる。天才肌の旬と優等生タイプの馨のコンビはいろんな意味で見ている者をハラハラさせる。


天野雅:五月雨葉月様考案。高校生ながら国民的知名度を誇る女優である。

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