馬鹿
星の明かりをぼーっと眺める。空を見上げると自分の悩みがちっぽけになってどうでもよくなるとか話に聞くが、全く心は晴れなかった。
「あれ?ノアは?」
風呂からあがってきたルシアが尋ねた。
「さぁ?風呂じゃね?」
「いやレンヤと同じタイミングで入ってたでしょ…ん?どうしたのよ、元気ないわよ?」
「んや、別に…」
「別にのレベルじゃないでしょ…」
ルシアは、はぁと溜め息をつく。
「……もしかしてノアと喧嘩でもした?」
心配そうに尋ねてくるが、俺は空をずっと眺める。
「…………られた」
俺はふとボソリと呟いた。
「え?なんて?」
「だから………られたんだよ…」
「は?」
「だから!告られたんだよ!ノアに!」
俺は声を荒げた。
「はぁ〜そんなことで…」
驚くかと思ったが、ルシアはただ溜め息をはくばかりだった。
「そんなことってなんだよ!こっちは…!」
「知ってるわよノアがレンヤのこと好きなことくらい」
「はぁ?いつから?」
「初めて会った日からよ」
「え?それって結婚式のとき…?」
「そうよ。あんたって本当に鈍感ね」
結婚式の時ってまだ数回しか会ってなかったぞ?それなのにか?
「ま、まぁ、そこは置いといて…」
「どうするか?でしょ?」
「そうそう」
俺は頷く。
「レンヤは何て答えたのよ」
「………ごめんって」
「そう、レンヤが決めたことならいいじゃない」
「うぅ…それは、そうなんだけどさ…」
俺は歯切れ悪く口をゴニョゴニョさせる。
「ねぇレンヤ」
「…ん?っんむ♡!?」
ルシアに呼ばれて俺が少し顔をあげると、ルシアの唇が俺の唇に触れた。
「んむっ〜〜〜〜♡!?」
今回は唇が触れ合うだけでなく、舌までいれてきた。
俺の舌とルシアの舌が口の中で絡み合って、甘い香りが鼻腔を燻る。
「んムッ♡プハッ♡」
ルシアは一分ほどキスをすると満足したようにそっと唇を離した。俺かルシアのかわからない唾液が糸を引いて垂れる。
「ーーーーー、ーーーー」
俺は驚いてルシアを見るが、ルシアはにっこりと笑うだけでその後は何も言わなかった。
ーーーーーー
「はぁ…」
噴水の近くに座っているノアは深い溜め息をついた。そして、直ぐに星に煌めく雫が零れおちてくる。
周りのイチャイチャする声も届かないくらいノアは頭の中が悲しみでぐちゃぐちゃだった。
一人の夜は孤独で、心細く、より一層悲しみを増長させる。
「あぁ…ぐすっ…は〜…」
落ち着こうとさせるがすればするど目頭が熱くなって、涙が溢れてくる。
本当はこうなることなんて分かってた。初めて出会った時だってルシアちゃんがレンヤくんのことが好きだって分かってたし、それにレンヤくんもウザがっていても本質的にはそれを含めて楽しんでたし…
(あ…なんで、好きって言っちゃったんだろ…)
ルシアちゃんと付き合ってるのを分かってた時点での告白なんて成功するはずがない。
それに…レンヤくんは私のことどう想ってるのかな?
髪飾を見せたときだって可愛いくないって言われたし…本当は私のこと嫌いなのかな?
ズキッ
胸が針に刺されたような痛みを感じる。
そして、更に涙が溢れて止まらなくなる。あぁ、レンヤくんには嫌われたくないなぁ…
「………誰?」
泣きじゃっくていても気配はいっちょ前に感じる。それがレンヤくんじゃないってことも。分かってる…
「……失礼」
そう言って一人の黒ずくめの男が姿を現す。
「……やはり、ノア王女でございますか?」
黒ずくめの男は疑問の言葉を漏らすが、その言葉にはかなり確証があるようにも思える。
「……誰の指示?アリア王女?」
「…………そうです。」
黒ずくめの男は一瞬言うかどうか躊躇ったが、私がアリア王女の名前を出したことにより、本物であると裏付けたのでゆっくりと頷きながら答えた。
「私に何するの?」
「丁重に拘束し、アリア王女の元に、と」
「………それもいいかも」
正直、今レンヤくんやルシアちゃんに顔を合わせることなんて出来ない。今でさえ思い出しただけで目頭が熱くなる。
「……案内して」
「はっ」
この夜、宿にノアが戻ってくることはなかった。




