俺、本気出す
俺はルシアを見つけた。ルシアは大きな石にぶつかる瞬間、風魔法を使ってダメージを和らげたようで、小さな傷を負いながらもその場に立っていた。
「ルーー
ルシアと叫ぼうとした瞬間、ルシアの目の前にミノタウロス棍棒を振り上げている状態で現れた。ルシアも急なことで構えられていない。
ここままだとルシアが死ぬ、が俺にはどうすることもできない。ただその事実を突きつけられて、俺は呆然としていた。何もかもがゆっくり流れてみえる。
「はは…はははは……」
言葉にできない虚無感が俺を笑わせる。
ーーほんと、変なとこでかっこいいんだからーー
ふと、あの時聞こえなかったルシアの言葉がよみがえる。自然と剣を持つ手に力がこもる。
(俺は何笑ってんだよ。ルシアのピンチだろ。ここで死なれたら、胸糞悪いだろ。とっとと助けて一言文句いってやらねーとな)
俺は自分自身に電気をながす。自分の体を理解する。
「がキィーーん!」
刹那、木と金属のぶつかる音がした。
ミノタウロスが持っている棍棒と俺の剣だ。
脳から送られる信号で人の体は動く。だから、見て動くまでの時間がかかる。それを俺の雷魔法を使うことでより速くする。そうすることで、思考を加速させたり、速く動けるようになる。
「あ、あんた。なんて速さよ?」
「いいから下がって見てろ、少し怪我してるだろ?」
「うッ……そうね」
ルシアはすごすごと下がって木に隠れた。
「かかってこいや!この馬面野郎!」
「うぉぉぉーー!」
ミノタウロスの振り払う棍棒を避け、間合いを詰めより、跳んで首を切り付ける。が、ミノタウロスは素早く、左手でガードする。俺の剣はミノタウロスの腕を切ろうとするが、骨が固すぎて途中で止まってしまう。
「し、しまった!」
この好機を逃すほどミノタウロスは甘くなく、棍棒をもう一度と振るう。
(あ、だめだ…今手離しても無理だ…死ぬ…)
だが、攻撃は来ず、
「何やってのよ!攻撃がくるわよ!」
ルシアが攻撃を受け止めていた。
俺は素早く剣を抜き、下がる。
「助けにきたんだな、逃げてると思ってたのに」
「まあ、あんたに死なれると困るからよ」
「はあ、素直じゃあないな」
「あんたこそ、助けにきて貰えるって思ってたでしょ?」
「まあ、必ずきてくれると思ってたよ」
「ふーん、なんでそう思ったの?」
「勘だな」
「勘?」
「まあ、強いて言うなら、ルシアを信じていたからかな」
「あんた、結構痛いこと言うわね」
「うるせー!そういうのは思っても口にだすな!」
「ふふふっ」
「はははっ」
危険なはずなのになぜか笑ってしまう。
「うぉぉぉーー!!」
ミノタウロスが棍棒を振り回す。さっきまで怖かったのが不思議なくらい平気だ。
「来るぞ」
「わかってるわよ」
俺は難なくよけ、間合いを詰める。さっきと同じように斬りかかると、ミノタウロスもまた左手でガードする。
「今だ!ルシア!」
「言われなくてもわかってるわよ!」
俺が切り付ける逆の方からルシアの攻撃。
「うがぁーー!」
「ッ固いわね」
ルシアの攻撃はミノタウロスの顔を切り裂こうとするが、切り傷程度しか傷つかない。
そして、ミノタウロスの猛攻がくる。
俺達はすぐに下がって対処する。
(どうやって倒せばいいんだよ?)
固い防御力、強大な攻撃力、それに加えて速い。強いていうなら知力が少し乏しい。
弱点とかないのか?弁慶の泣き所のすねでも狙ってみるか?あとは…………目だ!もう目潰すしかないじゃん!
「ルシア!もう一度いくぞ!今度は俺が切り付ける!」
「わかったわ」
もう一度二人で攻めて隙を作る。そして、
「おりゃーー!」
「うごぉっ!?」
俺は目玉を切り裂いた。後は、回復する前に絶命させるまで。
「ルーー
「できてるわよ!」
風の爪を右手だけに集中させ、より大きく鋭い爪をつくっていた。俺も剣に雷魔法を放つ。雷を纏わせた剣の完成だ。そして、二人でミノタウロスを両サイドから切り付けた。
ミノタウロスはキレイに三等分された。確実に絶命しただろう。
「よっ「危ない!」」
喜ぼうとした瞬間、森に隠れていたであろう、角の生えたウサギが俺に向かって突進してきた。ルシアが気づいてくれたお陰で避けて斬った。
「タイミング悪いな!」
俺達はクエスト達成を示すためのミノタウロスの角をとり、ブルガリヤの街までゆっくり帰っている。もう、あまりモンスターは出ず、出たとしてもゴブリンといったザコモンスターばかりだ。
「ねえ」
「どうした?」
おお、これはもしかして、ドキドキ展開か?
「疲れた。おんぶして」
……期待した俺が馬鹿でした。ここでのねえはドキドキ展開だと思うでしょ普通!
「わかったよ、仕方ないな。ほらよ」
「ありがと」
背中に当たる感触は……無い。まあ予想どうりだけどな。
「ねえ」
「なんだよ、まだなんかあるのか?」
「今日はありがとうね、レンヤ」
.....
な、な、なんだこれ!めっちゃドキドキする!というか初めてじゃない?俺の名前読んでくれたの。いつもあんたとかでしか呼ばなかったのに。
「初めて名前読んでくれたな。俺も助かったよルシア、お前がいなかったら俺死んでたし。あと、異世界に召喚されたのルシアで良かったよ。なあ、ルシア、ん?ルシアー?」
ルシアは俺の背中ですやすやと眠っていた。
(俺の話は聞いてない、か)
早く帰って風呂入ってふかふかのベッドで寝たい。俺は少し速めに歩いた。