修学旅行
のどかな景色、鳥さえずり、煌めく小川、そしてーーー
「おぇ〜〜〜!!!」
激しい馬車の揺れと馬車酔。
「ちょっと先生〜!」
一緒に乗っているリディアが露骨に嫌な顔をする。
「気持ち悪い…」
前回馬車に乗ったときはそんなにだったのに今回はひどい。
「先生、酔い止め」
端っこで腕を組んでいたランガが俺に酔い止めを渡してくる。
「いつも思うけど、お前って意外だよな」
「なにがだよ」
いやだって頭が良かったり、こうやって酔い止めを準備してたりだとかさ…
俺はありがたく酔い止めを呑む。うわ〜、これが異世界の酔い止めかぁ〜。マッず!あ、でも結構効くな…こんなにも早く吐き気が収まるとはな
「ねぇ、今日どこに行く?」
リディアは俺の作り出した雰囲気をぶち壊すようにみんなに尋ねた。
「そういや、先生はどうするんですか?」
隣に座っているイヴが尋ねてきた。
「ん〜?なんか先生同士でゆっくりしよーって話だった気がする」
「そうですか…」
俺がそう答えるとイヴは少し残念そうに呟いた。
「あ、そうだ!レンヤ先生もそんなの退屈だよね?」
「んー、まぁそうだな」
「じゃああたしらと一緒に行こうよ」
「はぁ?こんな奴要らなーー」
リディアの隣からレックスが横槍を刺してこようとするが、リディアが口を抑えた。
「あんたは黙ってて」
険伯な勢いに気圧されてレックスはただただウンとしか頷けなかった。
「お、それもいいかーー」
「ダメですよレンヤ先生」
俺がリディアの意見に賛同しようとすると隣の馬車からセレナ先生の声が届いた。
「今日は明日についての会議も兼ねているんですから」
「あ〜、ダンジョンの…」
「そうです」
「じゃ、無理か」
一応これは命に関わることなので確認するに越したことはない。
「おーい、ちょっくら休憩すっぞ」
御者のおっさんが、声を上げる。流石に長距離であるため馬を休める必要がある。
「うはぁー!酔が一気に覚めるわ〜」
俺は外に真っ先に出て草むらに寝っ転がる。
「ねぇ、先生!次私達のところに乗ってよ!」
リューナが俺の顔を覗き込んで言った。
「ん?いいぞ〜。どうせなら先生全員場所変えるか」
先生と生徒の交流も大切なのだ。特にルシアにノアにレナ。この三人はうちのクラスの担当をしていないのであんまりお互いに知らない。これを機に少しは仲良くなってもらいたい。
ぶわっとした生暖かい風が草を揺らす。
しかし、なぜか肌に感じる温もりとは真逆の寒気がして俺はぶるっと震えた。
「……?どうしたのー?」
リューナは不思議そうな顔をして尋ねる。
「………んや、なんでも」
俺は気のせいであって欲しい、そう願って無視することにした。
「私はここね」
そう言って、私はある馬車に乗る。そこには四天王の二人と他三人が乗っていた。
「あ、次はレナ先生なんだ〜」
少し小柄な女の子が元気そうに声をかけてくる。
「え、ええ」
「あ、私リディアだよ〜よろしく!」
「……よろしく」
こんなにもフレンドリーで少し驚いてしまう。
「俺はレックス」
「私はイヴです」
「僕はルーダです」
「ランガだ」
それぞれ一人ずつ自己紹介されていった。
「分かったわ」
「ねぇねぇ!レナ先生って彼氏いるー!?」
リディアがいきなり詰め寄ってきて目をキラキラさせながら聞いてきた。
「えっーと、残念ながら…」
「えぇ〜!こんなに可愛いのに〜?」
噓っだ〜と言いながらリディアは一人手を頬に当ててモジモジとさせている。
「リディアさんは付き合ってる人はいるの?」
「リディアでいいよー。それで、私は………いませーん!」
手を顔の前でクロスさせながら答えた。
「でもさ……やっぱレナ先生くらいなら彼氏くらいがいてもおかしくなくないか?」
レックスがボソリと呟いた。
「うわっ、レックスと同じ意見ってなんかシャクね」
「なんでだよ!」
そう言って二人は睨み合う。
「まぁまぁ、落ち着いーー」
「じゃあレナ先生好きな人いますか!?」
私は二人を宥めようとすると、唐突にリディアが尋ねてきた。
「え、え〜っと……どうだろ?」
私はちょっと答えをはぐらかした。流石に言うことはできないからだ。
「むぅ〜この反応はいるってことね」
「え、え!?いやいな…」
私は必死に誤魔化そうとする。
「なーんだ、やっぱりいないんだ…」
「え?カマかけてたの?」
「イエ~イ」
リディアはベロをチョロっと出して惚けた顔をする。
「そういえばレナ先生って戦闘の先生だよね?」
「ええ」
「使える魔法は?」
「……炎よ」
「えぇー!じゃあイヴと一緒じゃん!」
イヴの方をチラリと見るとイヴはコクっと軽く会釈をした。
「まぁ、先生でもイヴには勝てないよね〜勝てるのはセレナ先生くらいだろうね」
「ははは〜、そう、かもね」
私は濁した笑いをする。
「リディア、それは良くないです」
「え…だって事実だし」
リディアはなんの悪びれもなく言い放った。おそらく無自覚なのだろう。
「まぁまぁ、そうかもしれないしね。イヴさんが凄いのはこの前の大会を見て分かってるし」
「い、いえ、あれはレンヤ先生が頑張ってくれたので」
そう言いながらイヴは顔を赤くする。
ん?
え?
まさか……ないよね?




