ピンチ
「………はぁ、はぁ、…クソっなんて力だ」
バーダクはボロボロになった体を自慢の斧で支えた。ガルドも同様に満身創痍となっている。
それに対して
「ゲヘヘへーッ!ザッコッー!あぁ違うか…俺様が強すぎるだけか!」
ケルテットは高笑いをしながら喜びの舞をする。
一見馬鹿そうに見えるが…いや馬鹿だろうが、戦いのセンス、体格、力共に全てを兼ね備えていて全く攻撃が通らない。流石は幹部となるだけの実力はある。
「ガルド、無事か?」
「あぁ、一応。だが、もう魔力が1回分しかねぇ」
「……じゃあその一回使っていいか?」
ガルドはバーダクを真っ直ぐ見た。
「いけるか?」
「分からない。でもあたいの持ってる最強の技だ」
「なら、大丈夫だ。」
ガルドはニカッと笑って盾を構えた。
「おい、すっけっぽんだかあんぽんたんだが知らねぇがそこのバカザル!そんな攻撃ちっとも効きやしねぇ!」
「………なんだとぉ!もう拳にきた!俺様の最高の一撃でも喰らえ!」
先程までとはうって変わって踏込みに力を注ぐ。
地面はヒビ割れる。
死…それを意識させるほどの威圧にもガルドは一切動じなかった。自身の盾をがっちりと構えた。
「かかってこい!『山之神の守護』!!」
ガルドの張った守護結界は凄まじかった。山之神の偶像がガルドを固く守っている。
この防御魔術は効果時間が短いがこれまでも一切破られることはなく、あのドラゴンのブレスですら何一つ通さなかった。
しかし
今回に至っては
相手が悪かった
いや悪すぎた。
「『大猿怪力拳』」
ガルドの障壁はケルテットの拳に当たった瞬間、バキッと鈍い音を立てた。そして、ガルドの盾は粉々になって拳が直撃した。
ガルドはまるで子供が投げ飛ばされたかのように宙に舞った。
(くっ…後は頼んだ…)
ガルドが作った時間は0.1秒ほどだった。たかが0.1秒されど0.1秒。
その一瞬、気がそれたことが今まで見せなかった隙となる。
「『神滅甲羅割』」
バーダクは高く、ケルテットの死角から自身最強の斧技を振るう。
ケルテットは未だにこちらに気づいていない。いや、もう気づいているのだろう。ただ、大振りに振るった拳のせいで直ぐに体制が整えられないのだろう。
「死ねぇーーーッ!!」
ドンッ
砂埃が舞った。
いつの間にか壁に叩きつけられ|ていたバーダクは呆然とした。
(……は?……何が起こっ…て…)
流れた血が多いせいか、意識が揺らいでいく。
あの体制から攻撃が放てるわけがない。なのに攻撃された…。というかいつ攻撃されたかすら分かっていない。
「プっーーー!ねぇねぇ馬鹿じゃないの〜?いや、馬鹿なんだろうね。あんな誘導的なことに気づかないわけ無いじゃん」
戦闘においてケルテットは天才だった。あらゆる可能性を考え、残りの力で殺してくる方法を思案した。結論としては、ガルドの防御の隙に攻撃が妥当だと判断し、それは上からしかないと考えた。だから敢えて誘うように上は見ず、死角を与えた。
もちろん狙い通りに来た、後は大振りに振るった拳の回転力を利用して、横から蹴るだけで斧の直線的な攻撃を簡単に崩せるってわけだ。
「さーて、飽きたし殺そ」
「痛ぁ!…、くそぉっ!」
パポンは何度も傷つけられた腕を抑えて叫ぶ。
「……ふぅ」
ずっと攻撃を繰り返してきた美咲も一呼吸をおく。
(攻撃が当たるのはいいけど、どれも浅い…。それに相手の攻撃は見切れるけど、一発でも喰らえばゲームオーバー。慎重にいかなくちゃ)
美咲はもう一度剣を構えた。
「おやおや、そんな悠長なコトをしていていいんですか?貴方の大事なお仲間はもう死にそうですよ?」
「なっ………ッ!?…琴音ちゃん!」
見ると愉快げに笑っているベーリッヒの近くで琴音が血塗れで伏している。
「……この」
「おやおや、いいんですか?あなたのお相手はそちらですよ」
「……ッ!」
美咲はすぐさま飛び退いた。が、パポンが地面を殴りつけた際に飛び出た瓦礫が美咲を襲った。
なんとか剣で全てを弾き返したが、
「死ねぇ!」
「うっ…!」
パポンの拳が飛んできて、避けることが出来ず、剣で受けた。美咲は大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。
「うぐっ…はぁ…はっ…」
なんとか立ち上がるも、一度の攻撃、しかも剣で受けたにもかかわらず、かなりのダメージだ。
(これは…マズイかも…、)
「うがぁぁあっっ!!」
パポンは真っ直ぐ突っ込んできて、また攻撃してくる。
速いが動きは単調であるため、横に飛び退き、回避することは出来た。しかし、衝撃波が美咲を襲い、吹き飛ばされてしまう。
(うぐ…早く…立たないと)
しかし、手も足も力が入らない。
(あ…どうしよ…)
ふと、視線の先に琴音が戦っているのが見えた
いや、正確には
ナイフが身体中に刺さり、血を流しながら膝をついていた。
(……ここで死ぬのかな…)
眼の前に迫ってくるパポンを見上げて、震える身体に涙が自然と溢れた。
「ちっ、結局雑魚は何匹集まっても雑魚か」
魔人ラビウスはボロボロになった部屋を見渡しながら呟いた。
所々に三人が横たわっていた。
正直応援に二人がやって来た時は愉しみで堪らなかった。土魔法の使い手はまだまだ未熟ではあるものの基礎はなっていて、かなり良かった。それを期待していたが、戦闘職ではなかったので赤子を捻るようで全く面白くなかった。
「っし、さっさと殺して……ん?なんだこれは」
落ちていたクリスタルを拾う。少し赤みがかっていて、魔石かなんかだろう。
「………アルテマ!」
「……なっ!」
マーナは起き上がって二人を抱えて、部屋の外に出た。
ラビウスが拾ったのは魔晶石。そのクリスタルの中には魔法が溜め込まれており、長年蓄積された魔力の開放により爆発的な力を産む。
これが戦闘職ではない、マーナの切り札だった。勇者パーティーで一度も使ったことがなかった代物を今使ったのだ。
「これで、後は転移陣を…」
「どこに行くんだ?」
「なっ!」
砂埃が晴れると、現れたのはかなりダメージを受けた、いやそれでもピンピンとしている魔人の姿だった。
(……おわった)
絶望的な状況に膝から崩れ落ちるしかなかった。
(((勝てるわけがない…)))
「待たせたな」
だから、この声は幻聴なのだろう……